2019年12月21日、2020年東京五輪・パラリンピックのメインスタジアムとなる新たな国立競技場で、こけら落としのオープニングイベントが開かれた。スタンドを埋め尽くした約6万人の観客が文化や音楽、スポーツの演出に沸いた。当日の様子や観客の声をリポートする。
午後2時過ぎ、国立競技場に着くと既に多くの観客が敷地に入っていた。スタジアムの開場は午後4時半なので、それまでの待ち時間は外構を自由に歩き回ることができた。新しい国立競技場は旧国立競技場と比べて、外構やテラスなどを充実させたことが1つの特徴だ。現在はまだ仮囲いで通行止めになっているが、将来はイベント開催時以外も自由に入れるスペースを多く設けている。
敷地に入るゲートは全部で4カ所。東京メトロ銀座線・外苑前駅方面と同青山一丁目駅方面、そしてJR中央線・千駄ケ谷駅と都営地下鉄大江戸線・国立競技場駅方面に設置していた。
南側の広場には屋台などが集中し、国立競技場の看板前には記念撮影をしようと人だかりができていた。南側の2階デッキに上ると、渋谷の街並みも遠くに望める。今後、人気の撮影スポットとなりそうだ。
「高い整備費、これで良かったのか」の声も
スタジアムに入る前の観客に、施設の感想を聞くと次のような答えが返ってきた。
- 「ニュースで木を使ったスタジアムだと聞き、楽しみにしてきた。来てみると、庇(ひさし)にもベンチにも木を使っていて、ぬくもりを感じる」(70代女性、群馬県)
- 「旧国立競技場はスポーツの聖地だったので、どんな施設に変わったのか関心があった。前とは全く違う雰囲気だが、これはこれでいいのでは」(50代男性、神奈川県)
- 「木の印象が強く、ぬくもりがある。スタジアムとしては想像以上に植栽が多く、外苑の環境と調和が取れていると感じた」(10代女性、千葉県)
- 「蛍線の照明などの工夫をテレビで知り、気になっていた。ただ、英ロンドンなど海外のスタジアムと比べると整備費が高い(約1569億円)。その金額を考えると、この施設で良かったのか疑問が残る」(50代男性、兵庫県)
これまでメディアに公開されていなかったスタジアム北側、千駄ケ谷駅方面の外構も披露された。ガラスで覆った外部エレベーターやスロープを設けてバリアフリー対策を施している。自然石を並べ、地下貯蔵の雨水を流すという「せせらぎ」は、階段が通行止めになっていたこともあり、観客にほとんど気づかれていなかった。
リボンボードがスタジアムを盛り上げる
午後6時半、いよいよオープニングイベントが始まった。演目は「文化」「音楽」「スポーツ」のカテゴリーで続く。驚いたのは、照明演出の多彩さだ。サッカーの三浦知良選手の登場では全体が暗くなり、ピッチにスポットライトを当てる演出を施した。
特に演出で効いていたのが、スタンド全周を囲む縦96cm、長さ約640mのリボンボードだ。アーティストのDREAMS COME TRUEや嵐が歌うシーンでは、歌に合わせてリボンボードが色鮮やかに変わった。歌詞が流れる場面もあった。
寒さや動線の分かりにくさに困惑
メディアの取材可能エリアはスタンド南西部分に限られており、ペン記者の場所は3層あるスタンドの1層目上部、コンコース近くに位置していた。立っていると頬に冷たい風が当たるのを感じ、開会から1時間もすると足元が冷えてきた。寒いのはスタンドだけでなく、ピッチも同じようだった。元陸上男子短距離のウサイン・ボルト氏も、リレーを走り終えた後にピッチで両手に息を吐くなどして寒そうにしていたからだ。
イベントが終了し、閉会したのは午後9時半。スタンドの階ごとにスタッフが合図を出して観客を順に外へ促すはずだったが、寒さのせいか閉会と同時に観客が皆一斉に動き出し、10分もたつとスタンドはほぼガラガラの状態となった。
観客の不満が漏れたのが、その後の帰路だ。デッキや階段などを通じて、観客は比較的スムーズにスタジアムの外へ出ることができた。だが、敷地外に出るゲートに人が集中し、身動きが取れない。最も広い千駄ケ谷駅方面への出口では、敷地外に出られても東京体育館と駅の間の交差点ですし詰め状態となった。
ゲート周りや、駅までの道のりはそれほど明かりがなく、足元は暗い。周囲を見渡すと、ベビーカーを押している家族連れや車椅子の観客も混雑に巻き込まれていた。所々から不満の声が漏れ始める。階段など段差があっても見づらく、多くの観客が心もとなかったのではないかと推測する。
国立競技場では、20年元日のサッカー天皇杯決勝を皮切りに、五輪開催までに陸上競技など複数のテストイベントが開かれる。五輪では開・閉会式や陸上競技、サッカーの試合会場として使われる。大会後は施設の運営権を民間事業者に売却する予定だ。
(菅原 由依子=日経 xTECH/日経アーキテクチュア)