映画「アナと雪の女王2」を巡ってステルスマーケティング(ステマ)騒動が持ち上がった。ウォルト・ディズニー・ジャパンと、ステマに加担する形になった漫画家は謝罪したが、業界として再発防止の取り組みは不透明さが残る。ガイドラインが守られなければ、やがて行政の介入を招く。
ちょうど3年前、2016年の暮れは、医療情報サイト「WELQ」をはじめとするDeNA運営の10メディアが、著作権侵害や記事内容の信ぴょう性の問題から停止に追い込まれ、キュレーションメディア不信が広がった年の瀬だった。そして19年暮れは、京都市に続いてディズニー映画「アナと雪の女王2」で漫画インフルエンサーを起用したステルスマーケティング(ステマ)が発覚。ステマに揺れる年の瀬を迎えている。
忘れたころにステマ騒ぎが起きては、特に解決の糸口や提言もないまま沈静化する。それが繰り返されてきた。今回も年が明ければ「過去の話」になりかねない。
例えば自動車メーカーで検査不正が明らかになれば、走行上の安全性に問題はなくても、監督官庁が調査に乗り出し、当該企業のトップが業界団体の理事を辞任するという具合に、問題の所在を明らかにして責任を取る“後始末”のプロセスが作動する。だがステマの場合、景表法に抵触するような虚偽内容を伴わないものであれば、現状、違法ではなく、「炎上」はしても是正勧告を受けることもない。
そんなモラルに反したステマを排除するためにガイドラインがあるのでは……? そう思う読者も多いだろう。確かに広告・PR業界では、各種団体が業界の健全な発展を目指すため、独自にガイドラインを定めて、消費者を欺く行為に警鐘を鳴らしている。
では今回のアナ雪2ステマは、どこが主体となって調査や是正を促すべきかというと、意外と難しい。
日本インタラクティブ広告協会(JIAA)は、15年3月1日に「インターネット広告倫理綱領及び掲載基準ガイドライン」を改定。また同日、「ネイティブ広告に関する推奨規定」を公開している。
ただしその内容は、インフィード広告やレコメンドウィジェット型広告、タイアップ広告において、媒体社やネットワーク配信事業者に「広告」「PR」「AD」などの表記を推奨するもの。つまり、媒体社が広告料を受け取っていながら「広告」表記外しをするノンクレジット広告を戒める趣旨だ。今回のアナ雪2ステマは、ツイッター社が広告料を受け取って広告を載せているのに「広告」記載がなかった、という話ではない。したがってJIAAが規定するガイドラインの対象外になる。
類似の規定は、日本パブリックリレーションズ協会(PR協会)も定めている。19年6月に制定した「PR活動ガイドライン」がそれだ。ならばPR協会マターか? 同協会加盟企業の従業員が言う。
「会員企業のPR会社が単独で手掛けた施策にステマの疑いがあるならば、協会も聞き取り調査をするだろう。過去にもあるPR会社にガイドライン違反の疑いが持ち上がった際はヒアリングをしたようだと聞いている。だが大手広告代理店が手掛けた施策の一つにステマがあったというケースだと、PR協会が調査に乗り出す範囲なのかどうか...」。
業界団体は横連携を強化して対応を
ステマという言葉が普及する以前の2010年にクチコミマーケティングのガイドラインを定めたのが、PR会社や広告代理店、大学教授などの学識会員で構成されるWOMマーケティング協議会(WOMJ)。クチコミの投稿者に対して企業から金銭・物品・サービスなどの提供が行われる場合、クチコミ投稿者にその企業名と便益の明示を求める、いわゆる「関係性の明示」を定着させた功績は大きい。ではWOMJが調査に乗り出すべきか?
WOMJの理事会は、日経クロストレンドからの問い合わせに対し、「現在、WOMJでは複数の会員に対しヒアリングを行っております。WOMJとしては、消費者保護と健全なマーケティング活動確保の観点から、改めてWOMJガイドライン順守の必要性を会員各社に周知、浸透させる活動を行っていく所存です」と回答を寄せた。
JIAAは一般社団法人、PR協会は公益社団法人でどちらも法人格だが、WOMJは任意団体。団体の所在地に記されている「株式会社レ・ミゼラ」は、事務局代行業者だ。専従者がいないWOMJは、本業だけでも多忙な12月にヒアリングを実施している。指導に加えて処分まで期待するのはやや酷であろう。
前述のPR会社従業員は、「ステマについて業界では、厳しく律していこうと考える人と、緩さを残してもいいのではないかと考える人に分かれる」と言う。愚作・駄作をカネのために称賛して人をだますのは許されないが、アナ雪2であれば見に行くきっかけがステマ投稿だったとしても、見て後悔することはまずなく、損する人・傷つく人がいないステマなら許容範囲なのではないか……。これが後者の理屈だ。
だが、それほどの自信作ならなおのこと、「映画のプロモーターからお誘いを受けて『アナ雪2』を見てきました」と堂々と断り書きを入れた方がいい。どこにステマが潜んでいるか分からずSNSユーザーが疑心暗鬼になっている状態では、“ステマ効果”は期待できない。本当によいと思って書いた投稿までステマ疑惑をかけられ、クチコミの総量が減ることになれば、広告・PR業界は自分で自分の首を絞めているようなものだ。
かように広告・PR業界にはさまざまな業界団体が存在してそれぞれにガイドラインを定めていながらも、いざ事が起きた際に調査・指導・浄化のプロセスが機能しにくい。そして忘れたころにステマが繰り返される。
ステマと一口に言っても、意図的に記載を外すように指示する筋の悪いものから単に連絡不徹底だったものまで、内容・手口やレベル感に差異はある。しかしながら「ステマの定義は困難」と言って向き合うことを避ければ、やがて行政の介入を招くことになるだろう。各団体は横の連携を強めて、有事に対処するプロセスを構築してほしい。