ダンス動画で人気が急上昇したショートムービー共有サービス「TikTok」は、多様なジャンルの動画が投稿されるプラットフォームだ。さらにユーザー同士がまねをし合って拡散されていく独特のカルチャーが、広告の新たな可能性を生み出している。実例を基にTikTok独自の広告効果を探った。
InstagramやYouTubeの動線としても有効
若い世代が注目するプラットフォームといえば、ショートムービー共有アプリ「TikTok(ティックトック)」だ。リップシンク(口パク)動画をシェアする場として2017年に登場した後、爆発的な人気となり、国内では19年にMAU(月間アクティブユーザー)が950万を突破。現在は投稿される動画のジャンルが多様化し、ハウツー、料理、ゲーム、スポーツ、グルメなどの動画が投稿されている。ユーザーの年齢層は18~30歳で、男女比は女性のほうが多い(ByteDance広報部)。10代に人気というイメージが強いが20代に対してもリーチする。
TikTokではアプリを起動するといきなり動画再生が始まる。再生されるのはTikTokが機械学習で判断した、そのユーザーに「おすすめ」の動画だ。「いいね」やフォロワーの数が多いといったありきたりの「おすすめ」ではなく、そのユーザーがどんな動画を何秒視聴したか、どのハッシュタグや検索ワードを使ったか、といった要素を判断の指標にしているという。
この絶妙な“出合い”があるからこそ、ユーザーはTikTokから離れられず、膨大な数のショートムービーを見続ける。さらに投稿者のプロフィルを見て、そこに記載されている「Instagram(インスタグラム)」や「YouTube(ユーチューブ)」のアカウントへと誘導される。若い世代といえばInstagram、動画共有といえばYouTubeを思い浮かべるかもしれないが、TikTokはそれらの動線としても活用できるのだ。
TikTokの広告配信枠には、アプリを起動すると全画面で表示される「起動画面広告」、前述の「おすすめ」をスクロールしている途中に表示される「インフィード広告」、ユーザー参加型の「ハッシュタグチャレンジ」、オリジナルのスタンプをユーザーに配布する「スタンプ」などがある。
TikTokを運営する中国のByteDance(バイトダンス)の広告配信プラットフォームであるTikTok Ads(ティックトックアズ)によれば、公式動画が3本の動画を投稿すると、300万~500万回ほど再生されるとのこと。さらにインフルエンサーが4本の動画を投稿すると再生回数は100万~300万回になり、そこからUGC(User Generated Contents、ユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ)が生まれると、動画の投稿数は1万本近くに、再生回数は1000万~1億回になることもあるという。
TikTokの強みの1つに、この「UGC」がある。もともとあったコンテンツを他のユーザーがまねることで、少しずつ異なる新たなコンテンツが生み出されていくのだ。
TikTokが2019年12月3日に開催したマーケター向けイベント「TikTok Ads Annual Marketing Event 2019」では、「スタンプ」をキャンペーンに採用したジョンソン・エンド・ジョンソン、およびTikTok初開催となった「クリエイティブコンテスト」との連動広告企画を展開したサントリーの担当者がそれぞれの事例を紹介した。
ユーザーの本音が見える広告の効果は歴然
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、洗口液「リステリンホワイトニング」のキャンペーンに際して、あえてテレビCMを利用せず、TikTokによる拡散を狙った。キャンペーン名は「#白い歯になりたい」。同社が開発した歯を白く見せるオリジナルスタンプを20~30代の女性に体験してもらい、美容の文脈でキャンペーンを展開したのだ。
TikTokアプリはユーザーの顔を自動認識するので、歯を白く見せるスタンプもお手のもの。ジョンソン・エンド・ジョンソンは動画の作成用として、スタンプだけでなくオリジナルの歌やダンスも用意した。キャンペーンを開始したのは、投稿が増える週末の金曜日。他のPRやSNSとも連携したこのキャンペーンは、TikTokのインフルエンサーたちがスタンプで歯を白く加工した動画を自発的に投稿するという結果につながった。
「#白い歯になりたい」キャンペーンの期間中の動画再生回数は3200万回、シェア回数は8700回となった。オリジナルスタンプの利用者は17万人で、スタンプが好意的に受け入れられたことが分かる。キャンペーンの効果で、リステリンホワイトニングの売り上げは30%アップした。
一方のサントリーは、TikTok初のクリエイティブコンテストにチャレンジした。
サントリーはこれまでもTikTok広告を活用してきたが、中国のDouyin(中国版TikTok)でアウトカメラによる優れた作品が投稿されている点に注目した。国内でもTikTokのクリエイター育成プログラムが開始したこともあり、新しいクリエイターを応援するTikTokと新しい働き方や多様性を応援するクラフトボスの理念の一致を感じたという。そこでミルクティーの新発売時にクリエイティブコンテストを実施することを決定した。
コンテストではクラフトボスミルクティーの「すっきり爽やかな味わい」をテーマした動画を募集した。クリエイティブの幅が狭まらないように静止画でイメージを提示し、優秀作品をインフィード広告に採用することを明らかにした。
事前告知には「#爽やか」「#前向き」などのハッシュタグを設定したハッシュタグチャレンジを展開。クリエイターにダイレクトメッセージも送った。認知拡大のためにテレビCMを素材にしたインフィード広告も活用したという。
その結果、ハッシュタグの付いた動画の投稿数は437本に上り、達成率では想定の2.91~4.37倍となった。総動画再生回数は約3900万回でこちらも想定の3.9倍に。「いいね」やコメントの数も、通常のハッシュタグチャレンジを上回ったとのことだ。
最優秀賞「クラフトボス ミルクティー大賞」の受賞作品を採用したインフィード広告と、コンテスト以前に配信していたインフィード広告の効果を比較したところ、視聴率、エンゲージメント率ともに受賞作品のほうが数倍高いことが分かった。広告認知、購買意欲に関しても、受賞作品のほうがブランドリフトが高かったという。また、コンテスト参加者が他のSNSで動画をシェアしたことや、商品についての感想などを投稿したことから、TikTok以外のSNSへの波及効果も見られた。
TikTok Adsが実施した調査では「自分自身の体験や信じられる人の体験だけがリアル」と答えた人が78%、「本音を言う企業や正直な企業には好感が持てる」と答えた人が90%に上る。マーケティングにだまされたくないという人が多いなかで、オリジナルスタンプやコンテストで自然にユーザーを巻き込み、拡散に結び付けていく……ニーズに応える広告展開がTikTok広告の拡散力を支えている。
(写真/鈴木朋子)