秋葉原から御徒町の駅間(「AKI-OKA」エリア)の高架下に宿泊施設「UNDER RAILWAY HOTEL AKIHABARA」が開業した。JR秋葉原駅から近い好立地に加え、手ごろな価格、都内には少ない1部屋4人以上が泊まれる客室で差別化し、訪日外国人客を中心に狙う。

真上をJR山手線が走る「UNDER RAILWAY HOTEL AKIHABARA」。1階は時間貸し駐車場。右手の階段を上がった2階にホテルと一般利用可能なカフェがある
真上をJR山手線が走る「UNDER RAILWAY HOTEL AKIHABARA」。1階は時間貸し駐車場。右手の階段を上がった2階にホテルと一般利用可能なカフェがある

「泊まりたくなる」高架下へ

 汚い、暗い、危険――そんなイメージがつきまとう高架下。ジェイアール東日本都市開発(東京・渋谷)は、10年ほど前から秋葉原~御徒町間の開発を進めてきた。目指したのは街づくりに貢献できるような「歩きたくなる高架下」。それまで駐車場があった場所に人の息吹を循環させ、活性化しようと、2010年開業の「2k540」(「ものづくりの街」)を皮切りに、魅力ある商業施設を作り、人の流れを生み出してきた。

 19年12月12日には物販店と飲食店、および宿泊施設からなる「SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE(シークベース アキオカ マニュファクチュア)」の第1期エリアがオープン。その目玉の1つが、「UNDER RAILWAY HOTEL AKIHABARA(アンダー レイルウェイ ホテル アキハバラ)」だ。

 電化製品やゲーム、アニメ、コスプレで知られ、免税店が立ち並ぶ秋葉原は、今や日本が世界に誇る観光地。店舗とオフィスビルがひしめき、JRと東京メトロを合わせた秋葉原駅の乗降客は1日70万人超。そんな騒がしい駅近でもゆったりと休息がとれるようにと、同ホテルが掲げるコンセプトは「アーバン ロハス」。ジェイアール東日本都市開発社長の出口秀已氏は、オープンセレモニーで「高架下という特殊性を際立たせるデザインのホテル」と紹介。「泊まりたくなる高架下」と語り、集客に自信をのぞかせた。

ホテルのフロント。右手は宿泊者以外も利用できる「KEY'S CAFE 秋葉原 SEEKBASE店」。左手奥が客室エリアへの入り口
ホテルのフロント。右手は宿泊者以外も利用できる「KEY'S CAFE 秋葉原 SEEKBASE店」。左手奥が客室エリアへの入り口
独特の雰囲気を漂わせるホテルの廊下
独特の雰囲気を漂わせるホテルの廊下

 宿泊料は1人当たり4000円程度を想定している(時期により変動)。客室は2人部屋から7人部屋まで多彩で、4人以上が共に泊まれるファミリー向けタイプが全体の半数を占める。これが同ホテルの大きな差別化ポイントとなっている。

 都内ホテルの客室はツインやダブルがメイン。特にアジアから多人数で訪れる旅行客にとって、家族がバラバラに分かれて泊まることへの不満が大きいという。この点に目をつけたのが、同ホテルの運営を担当するIKIDANE(東京・新宿)だ。

 IKIDANEは訪日外国人の集客に力点を置いたホテルの企画開発・運営の他、月間100万PVを超えるインバウンド向け観光サイト「IKIDANE NIPPON」も手掛ける。同社アセットプランニング事業部 営業チーム 東京本社 リーダーの葉梨貴裕氏は、「この辺りのホテルはビジネス利用も多く、日本人の需要も取りこぼしたくないが、7割程度はインバウンド客になるだろう」とにらんでいる。その理由は「1部屋の収容人数が多いと、民泊にカテゴライズされやすい。そのためエアビーアンドビーやブッキングドットコムからの集客が強くなり、予約サイト自体の利用者が外国人に偏る」(葉梨氏)からだ。

 客室数は29室、部屋は13タイプあり、最大収容人数は104人。旺盛なインバウンド需要を見込み、初年度の売上高目標は1億4000万円、集客数は年間2万6000人を目指しているという。

 さて、フロント前を通過して客室エリアへ続く扉を抜けると、そこはいきなり「ガード下感」たっぷりの廊下。明らかに普通のホテルとは異なる雰囲気を漂わせる。一体どんな部屋に泊まるのか?

廊下で目に留まった部屋案内
廊下で目に留まった部屋案内
ガード下にあることを隠すことなく、むしろ積極的に取り入れているようだ
ガード下にあることを隠すことなく、むしろ積極的に取り入れているようだ

意外と映える、都会的に演出するくつろぎ感

 従来の「鍵」はセキュリティー上、使わない。入室にはチェックインの際に発行するQRコードを使う。

入室には滞在期間のみ有効なQRコードを印刷したものを使用
入室には滞在期間のみ有効なQRコードを印刷したものを使用
6人部屋。価格(変動性)は1人約4000円に設定。この部屋は1泊2万4000円程度
6人部屋。価格(変動性)は1人約4000円に設定。この部屋は1泊2万4000円程度
壁を覆うグリーンとレンガ調の壁紙を効果的に使用
壁を覆うグリーンとレンガ調の壁紙を効果的に使用

 日も差さない高架下の空間でグリーンも壁紙も人工物だが、夜、観光から戻ると疲れを癒やせそうな室内。多人数を収容する巧みな設計と「アーバン ロハス」のイメージで、都会的なくつろぎ感を演出するデザインだ。しかも、意外と“映える”。

閉ざされた高架下の空間なのに、くつろげる感じがする
閉ざされた高架下の空間なのに、くつろげる感じがする
2段ベッドで効率よくスペースを使う。壁の絵も部屋を引き立てる
2段ベッドで効率よくスペースを使う。壁の絵も部屋を引き立てる
ベッドを6台入れた大人数部屋。この部屋面積だと最大7人まで宿泊可能とのこと
ベッドを6台入れた大人数部屋。この部屋面積だと最大7人まで宿泊可能とのこと
3人部屋。ダブルベッドの上にあるコンクリートの梁が、この場所が高架下であることを物語っている
3人部屋。ダブルベッドの上にあるコンクリートの梁が、この場所が高架下であることを物語っている

 「高架下ホテルの最も大きな特徴は、梁(はり)。出っ張っている梁の下に寝るという形に、うまく設計されている」(葉梨氏)

 梁も趣と思えばいい。山手線の高架自体、かなり古いそうだが、梁自体は極太のため音や振動をより吸収するらしい。「他の高架下に比べると静かと聞いている」(葉梨氏)

2人部屋。仮に1人で使うと1泊8000円程度
2人部屋。仮に1人で使うと1泊8000円程度
テレビはもちろん、冷蔵庫やセキュリティーボックスも完備
テレビはもちろん、冷蔵庫やセキュリティーボックスも完備
コンパクトに収められた浴室とトイレ
コンパクトに収められた浴室とトイレ

 窓のブラインドを開けると工事現場か資材置き場のような風景。しかし、鉄道好きなら「真上を電車が走ってる!」と想像するだけで気分が高揚するかもしれない。

 音や振動は思ったほど気にならなかったが、「耳栓もご用意している」とのこと。部屋を出ようとドアを開けると、むしろビルに跳ね返って聞こえる街の音のほうが大きかった。

窓の外はお世辞にも「眺めがいい」とは言えないが、鉄道ファンにはこうした現場感があふれる風景も魅力的に映るかもしれない
窓の外はお世辞にも「眺めがいい」とは言えないが、鉄道ファンにはこうした現場感があふれる風景も魅力的に映るかもしれない

(写真/酒井康治)

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