印刷されたQRコードを1つ、店頭に掲示すれば、複数の決済サービスに対応できる。しかも費用は安価──。「OneQR」と名付けられたこんなサービスが、2019年9月から提供中だ。コカ・コーラ ボトラーズジャパン(東京・港)が運営する「Coke mini」にも採用された。OneQRの真価はどこにあるのか追った。
2019年10月から政府が実施している消費増税に伴う期間限定のポイント還元キャンペーンの後押しもあって、小売店店頭でのQRコード決済サービスの利用は増えている。しかし、「PayPay」を運営するPayPay(東京・千代田)や「楽天ペイ」を運営する楽天ペイメント(東京・世田谷)といったサービス事業者は厳しい競争を展開し続け、“林立状態”は解消されていない。
ポイント還元の後押しを受けて来店するユーザーに、商品やサービスを販売したい小売店側からすれば、何とかして1つのソリューションで複数のQRコード決済サービスに対応したいところだ。
これまでのところ、コンビニエンスストアやドラッグストア、ファミリーレストランといった大規模チェーンの多くは既存のPOSレジの改修や入れ替えなどで対応した。中規模の小売店の中には、ユーザーがスマホで生成したQRコードを端末で読み取れば、それがどのQRコード決済サービスであっても端末が対応しているサービスでありさえすれば自動的に決済できる、動的QRコード方式に対応したマルチ決済端末を導入したケースも多い。
しかし、POSレジ改修の場合はその費用がばかにならない。マルチ決済端末の導入の場合も、QRコード決済サービス事業者またはマルチ決済端末事業者、あるいはその両方に支払う手数料がおおむね3%以上発生するため、中小・零細の小売店にとっては負担が重い。
小売店が手数料を極小にしようとすれば、決済サービス事業者から受け取るQRコードを印刷して店内に掲示し、ユーザーのスマホで読み取ってもらう静的QRコード方式を採るのが一番だ。マルチ決済端末の導入費用は不要だし、PayPayやLINE Pay(東京・品川)が運営する「LINE Pay」ならば、期間限定ながら店にコードを掲示する静的QRコード方式の決済手数料はゼロにしているからだ。問題は、印刷したQRコードを、サービス事業者の数だけ複数枚、店内に掲示する必要があることだった。
1つのQRコードの掲示で複数の決済サービスに対応
この中小・零細の小売店側の悩みを解消するサービスが、新たに現れた。マルチ決済プラットフォーム「elepay」を開発・運用するベンチャー、ELESTYLE(エレスタイル、東京・千代田)が19年9月から提供し始めた「OneQR(ワンキューアール)」だ。
小売店は、OneQRが提供するQRコードを売り場に掲示しておく。ユーザーがそのQRコードを、自分が使いたい決済サービスのアプリを立ち上げて読み込めば、自動的にその決済サービスの決済画面に遷移する。後は通常と同じく、支払金額を入力して支払いボタンをタップするだけ。ユーザーが店員に使いたい決済サービスの名前を伝えたり、アプリ上で決済サービスを選んだりする必要がなく、「間違いなくユーザーの利便性が向上する」(ELESTYLEの盧迪社長)。
いまのところ、LINE Pay、PayPay、NTTドコモが運営する「d払い」、Origami(東京・港)が運営する「Origami Pay」、メルペイ(東京・港)が運営する「メルペイ」、それに訪日中国人観光客が主に利用する「支付宝(アリペイ)」、「微信支付(ウィーチャットペイ)」に対応済み。「Apple Pay」や「Google Pay」、中国銀聯が提供する「UnionPay」、Paidy(東京・港)が運営する後払いサービスの「Paidy」にも対応している。
QRコード決済ではないApple PayやGoogle Payでユーザーが決済する場合は、掲示されたQRコードを自身のスマホのカメラアプリで読み込み、商品選択画面に続いて遷移する支払い選択画面で決済方法を選択し、決済アプリに移行してから支払えばよい。
小売店の負担が極めて軽い
OneQRの最大のポイントは、導入する小売店側の負担が極めて軽いことだ。初期費用は無料。OneQRのQRコードを1つ掲示するごとに月額500円(税別)と、併せてOneQRのサービスプラットフォームであるelepayの利用料を支払うだけだ。elepayの利用料は、決済金額が月額300万円までは無料。300万円を超えた分についても0.3%の手数料しかかからない。
月商300万円までいかない零細店ならば、QRコード1枚を店内に掲示するだけで、複数の決済サービスを事実上、月額500円で導入できる(店にコードを掲示する静的QRコード方式の決済手数料をゼロにしているQRコード決済サービスに限られる)。
しかも小売店は、決済データをelepay/OneQRの管理画面から一括管理できる。決済事業者ごとに決済データを管理する必要のある一部のマルチ決済端末と比べると、業務の煩雑化を避けられるわけだ。
デジタルガレージグループが、1つのQRコードで複数のサービス事業者の決済アプリが利用できるソリューション「Cloud Pay」を提供し始めているが、こちらは3%強の手数料が必要。OneQRの小売店側から見た負担の軽さが際立つ。
コカ・コーラのCoke miniが採用
既に19年12月9日から、コカ・コーラボトラーズジャパン(東京・港)が展開中の小規模オフィス向け飲料提供サービス「Coke mini(コーク ミニ)」に採用された。キャッシュレス決済を売りの1つにしていたCoke miniだったが、従来はLINE Payと楽天ペイの2種類の決済サービスしか利用できなかった。OneQRを導入したことで、PayPay、LINE Pay、d払い、メルペイ、Origami Pay、Apple Pay、Google Pay、Paidyという複数の決済サービスに対応可能となり、ユーザーの利便性向上に一役買っている(従来、利用できた楽天ペイは当面、他の決済サービスと同時に導入できず、導入する場合は楽天ペイのみになる)。
実はELESTYLEはもともと、決済を伴うサービスを自社開発しようとしている企業に対して、マルチ決済プラットフォームのelepayからSDKやAPIを提供し、開発にかかる負担を引き下げることで対価を得ることを狙っていた。ところが、自社でサービスを開発せずにelepayを利用して決済サービスを取り込みたいというニーズが増えてきたため、この声に応えて開発したのがOneQRなのだ。OneQRは、「1つのQRコードからさまざまなサービスにつなげるポータルの役割を負うだけ。決済に用いるQRコードを統一しようとする動きとは全く異なる」(盧氏)という。
今後は、手数料負担を嫌う中小・零細の小売店や、多くの運営コストをかけられないCoke miniのような事実上の無人店舗に、普及していく可能性がある。政府が旗を振る「25年までに40%」という決済全体に占めるキャッシュレスの比率を実現するには、クレジットカードや電子マネーなど既存のキャッシュレス決済手段の導入をためらってきた中小・零細の小売店の開拓が不可避。elepayとOneQRはその切り札の1つになり得るかもしれない。