長野県は白馬エリアの開発を主導する「HAKUBAVALLEY TOURISM(白馬バレー ツーリズム)」を事業推進の後援のため広域型DMO(観光地経営組織)に指定した。インバウンド需要が高まる一方、施設の老朽化や後継者不足が深刻化。対応すべく通年で稼げる経営体質を目指す。

「HAKUBA VALLEY アプリ」英語版の画面。アプリは多言語に対応。デジタルプロモーションの範囲を拡大する予定だという
「HAKUBA VALLEY アプリ」英語版の画面。アプリは多言語に対応。デジタルプロモーションの範囲を拡大する予定だという

IT化とデジタルマーケティングの成功握るリアルな生活

 長野県・白馬エリア一帯のスキー場で構成される「HAKUBAVALLEY(白馬バレー)」の、新しい施設・サービスを作り出す推進力やプロモーション戦略に対する注目が高まっている。合計10カ所あるスキー場内を自由に滑走できる共通チケットのIC化や、事前決済可能なウェブショップの開設、地元バス会社と連携した空港バスの直行運行などインフラ整備に力を入れている。

 2018~19年の冬シーズンからはスノーリゾート運営会社の米ベイルリゾーツ(Vail Resorts)と長期アライアンス契約を締結し、「Epic Pass(エピックパス)」に参加。エピックパスは同社グループ傘下のベイルやカナダのウィスラー・ブラッコムをはじめとする各国の著名スキー場で導入されている“共通リフト券”で、世界トップクラスの国際スキーリゾートパスだ。白馬バレーも同パスの導入で集客増につなげている。

 デジタルマーケティングにも積極的だ。今シーズンは19年1月に開始した「HAKUBA VALLEY アプリ」の機能を拡張し、観光情報やスキー場の天候、積雪、リフト運行状況、シャトルバスの位置情報の提供も始めた。

 白馬エリアはスキー場として北海道のニセコに次ぐ国内2位のインバウンド集客率を誇り、土地由来の資源や文化が息づいている点を強みとする。海外客から「Japow(JapanとPowder Snowをかけた造語)」と称されるほど人気の高いパウダースノーに加え、白馬村には国内有数の登山ガイド集団を擁する100年以上の歴史がある。

 スキー関連以外にも観光名所やアクティビティーが点在し、自然の恩恵を存分に受けられる。地元住民もその資源を生かして子育てしたり、週末は湖に入って楽しんだりと、思い思いの日常を満喫している。観光都市として訪日外国人向けのブランディングを強化すると同時に、地元住民の“人に自慢したくなるライフスタイル”を来訪客にも味わってもらおうというのが白馬流のプロモーション戦略だ。

長野県山岳高原観光課課長の塩原一正氏。行政の側から県内観光地の活性化を支援している
長野県山岳高原観光課課長の塩原一正氏。行政の側から県内観光地の活性化を支援している

 地域ぐるみの創生事業の流れを受け、長野県も本格的に支援を始めた。白馬バレー内のスキー場が位置する北アルプス地域にある大町市、白馬村、小谷村内の観光団体はさらなる事業推進に向け、「一般社団法人HAKUBAVALLEY TOURISM」を設立。長野県は19年7月に同団体を県内初の「重点視点広域型DMO(観光地経営組織)」に指定した。

 HAKUBAVALLEY TOURISMが19年12月6日に開催した滞在型リゾート推進に向けた観光戦略に関する記者会見で、長野県山岳高原観光課課長の塩原一正氏は同団体を広域型DMOに指定した理由について「『稼ぐ観光地域づくりのかじ取り役』を担っていくことが明確」と述べた。

不安定な“自転車操業”の解決を目指す

 HAKUBAVALLEY TOURISM代表理事の高梨光氏は、白馬エリア最大の観光資源であるスキー場経営以外にも視野を広げ、通年で観光客が訪れる「オールシーズンのマウンテンリゾート化」を目標に掲げる。その実現には春から秋にかけてのグリーンシーズンの稼働率上昇と、年間を通した収益の安定が課題だ。

HAKUBAVALLEY TOURISM代表理事の高梨光氏。各国のスキー場を視察し、スキー場、景観の創生に応用している。ウィスラーではCEOに話を聞きにいき、現在、岩岳の開発に生かしている
HAKUBAVALLEY TOURISM代表理事の高梨光氏。各国のスキー場を視察し、スキー場、景観の創生に応用している。ウィスラーではCEOに話を聞きにいき、現在、岩岳の開発に生かしている
グリーンシーズンのウィスラーの景観。「マウンテンバイクパーク」は、現在ではマウンテンバイクの聖地として名前が挙がるほどだが、温暖化に対する危機感から「雪がなくなったら、夏で食べないと生きていけない」(高梨氏)と、夏の活動を活発化した
グリーンシーズンのウィスラーの景観。「マウンテンバイクパーク」は、現在ではマウンテンバイクの聖地として名前が挙がるほどだが、温暖化に対する危機感から「雪がなくなったら、夏で食べないと生きていけない」(高梨氏)と、夏の活動を活発化した

 カナダのウィスラーが世界的に有名なマウンテンバイクパークを開場するなど、通年で観光事業の態勢を整えている海外のスノーリゾートは多い。それらに倣い、白馬でもグリーンシーズンも満喫できるグランピングを活用した宿泊施設や若年層向けの集客施設を次々新設している(関連記事「スノーピークがグランピングの最高峰ブランド 第1弾は八方尾根」、「異色の社長と著名Pが仕掛ける、標高1400mのビーチリゾート」)。

HAKUBA VALLEY 訪日外国人スキー客述べ客数(単位:千人、出典:HAKUBA VALLEY 索道事業者プロモーションボード)
HAKUBA VALLEY 訪日外国人スキー客述べ客数(単位:千人、出典:HAKUBA VALLEY 索道事業者プロモーションボード)

 18年から19年にかけてのウィンターシーズンの訪日外国人旅行者数は36万7000人を記録し、前年度比11%の上昇となった。12年以降は年平均25%で順調に成長している。しかし月ごとの集計を見ると、特定の月に極端に偏っていることが分かる。トレッキングなどでにぎわう8月とウィンターシーズン頼みという“需要の偏り”が地域経済全体に悪影響を与えているという。

 繁忙期の短期雇用を中心とした労働力に支えられているため、生産性やサービス水準の向上につながらず、定住人口も伸びないことから街の機能が充実しない。収入面が不安定なことからスキー場、宿、商業施設等の設備投資も進めにくいのだ。

白馬村観光客月別来場者数(出典:白馬村)
白馬村観光客月別来場者数(出典:白馬村)

 特にリフトの老朽化は著しく、直近15年間は新設リフトが全くない。平均30年以上も使用されており、早急なリニューアルが求められている。老朽化や後継者不足の波は宿泊施設の減少にも波及し、スキー場利用者の減少にも直結する。このように積み重なった問題解決の鍵が、地域の観光資源の通年での有効活用というわけだ。

官民一体で仕掛けるのは安心できる空間の創出

 ところが国内の行政や自治体と同様、スノーリゾートも官僚政治的な組織の縦割り構造の影響を受ける。白馬エリアでは3市村ごとに観光課や観光協会、スキー場の管轄が分かれてしまい、白馬スキー場全体の方向を話し合おうにも機能不全を起こしてしまった。

 そこで今回、地域連携のDMOを作り上げるため、白馬バレー内のスキー場を運営する索道事業者で構成される「HAKUBAVALLEY索道事業者プロモーションボード」を核にHAKUBAVALLEY TOURISMを設立した。3市村の組織を官民共同で機能面から再編して「観光の3市村の統合」を目指す。

 宿泊施設に関しては「グレード」の問題もある。海外で人気のスノーリゾートと比較して四つ星や五つ星クラスの宿泊施設が少ないため、五つ星に泊まりたいような富裕層の選択肢に入らない。

写真左から白馬村観光局の福島洋次郎事務局長、HAKUBAVALLEY TOURISMの高梨光代表理事、長野県観光部山岳高原観光課長の塩原一正氏
写真左から白馬村観光局の福島洋次郎事務局長、HAKUBAVALLEY TOURISMの高梨光代表理事、長野県観光部山岳高原観光課長の塩原一正氏

 エリア内ではグリーンシーズンの楽しみの幅を広げると同時に、ホテル事業や国内スキー場では初となる富裕層向けサービスの拡充も進行している。18年には世界最大のホテルチェーンの米マリオット・インターナショナルが参入。他にも空き家が目立つ白馬岩岳の宿泊街の活性化を図るプロジェクトにより、江戸時代から残存する古民家を改修した「旅籠丸八」や、雑貨販売や空間プロデュースを行うハルタ(上田市)の「haluta hakuba」(19年12月下旬開業予定)などの宿泊施設がオープンした。

 近隣のゲレンデ「白馬岩岳スノーフィールド」では優先チェックインやラウンジ使用、送迎サービスが付帯するVIPプログラムを19年12月21日から開始する。「あまり大きなホテルがない、それをどう直していくか。国や県の支援をなんとか誘導していくことをHAKUBAVALLEY TOURISMでやっていきたい」と高梨氏は述べる。

 官民が一体となって取り組む施策は、旅行客や住民にとってサスティナブルなものに映る。台風19号の影響により長野県全域で施設のキャンセルや予約数の減少などの風評被害も発生する中、1泊最大5000円支援する「ふっこう割」のキャンペーンなども行いながら、豊かな自然に恵まれた地域の復興と再生に向けてプロジェクトは着々と進んでいる。

宿泊施設「旅籠丸八」の内観。和食の創作料理を楽しめるダイニングでは、窓からのぞく四季折々の自然の姿に癒やされる
宿泊施設「旅籠丸八」の内観。和食の創作料理を楽しめるダイニングでは、窓からのぞく四季折々の自然の姿に癒やされる

(写真/丹野加奈子)

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