地場産品ではない返礼品、返礼率の高い返礼品が問題視されていた「ふるさと納税制度」。総務省による制度見直しは、寄付集めのための“返礼品競争”に歯止めをかけるのが狙いだ。返礼率での差異化が難しくなったことで、自治体の寄付集めの手段は「モノ」から「コト」へ移行しつつある。

“返礼品競争”で14年時点からの5年間で加速度的に拡大していた市場の失速は否めないが、まだ拡大の余地はありそうだ(出典:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」)
“返礼品競争”で14年時点からの5年間で加速度的に拡大していた市場の失速は否めないが、まだ拡大の余地はありそうだ(出典:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」)

寄付金集め競争に歯止め、自治体への影響は?

 ふるさと納税制度が2008年に導入されてから十余年。19年6月の制度見直しにより、返礼品は地場産品、返礼率は寄付額の3割以下とされた。“お得”な返礼品がなくなったことで市場の縮小が懸念されたが、寄付額に大きな影響はないようだ。

 ふるさと納税サイト「さとふる」が19年12月9日の「ふるさと納税現状報告会 2019」で発表した「自治体・事業者アンケート調査結果」によれば、19年4~9月の寄付額が前年同期より増えたと回答した自治体は約6割。減ったと回答した自治体は3割強だった。

 さとふる(東京・中央)取締役兼COOの青木大介氏は「肌感だが、全体では前年に近いペースで寄付が集まっている。最終的な市場規模としては前年と変わらないのではないか」と話す。

前年同期比で寄付額が増えた自治体は約6割。その一方で3割強の自治体で寄付額が減少した(出典:さとふる「自治体・事業者アンケート調査結果」)
前年同期比で寄付額が増えた自治体は約6割。その一方で3割強の自治体で寄付額が減少した(出典:さとふる「自治体・事業者アンケート調査結果」)

 ミカンや海産物を地場産品に持つ和歌山県有田市は、もともと地場産品を返礼品とし、返礼率も3割以下に抑えてきたため、制度見直しがむしろ好結果につながった。報告会に登壇した有田市 経済建設部 理事の成田裕幸氏によれば「18年度の4~9月の寄付額は約2.6億円だったが、19年度は同時期で約11億円となった」とのこと。名物の「もみじまんじゅう」やカキが地場産品の広島県廿日市市 経営企画部シティプロモーション室 室長 松尾和政氏も「18年度と比較した寄付額は2倍程度の伸び。制度見直しの影響はない」と言い切る。

 その一方で「前年同期比で(寄付金が)4割近く減少した」と語ったのは、北海道八雲町 政策推進課企画係 主事の冨樫佑允氏。同氏は「“返礼品競争”が収まり、寄付金の使い道から応援する自治体を決めるという、本来の『ふるさと納税制度』の目的に立ち返りつつある」と制度見直しを評価する。だが「返礼品の代金や配送コストも含め、ふるさと納税の募集経費を寄付総額の5割以内に抑えるというルールについては、もう少し地理性を加味してもいいのではないか」と疑問を呈した。北海道や九州などの自治体は寄付者の多い三大都市圏(首都圏、中京圏、近畿圏)から遠いため、配送コストが高くなる分、不利になるというわけだ。

「ふるさと納税現状報告会 2019」の登壇者。(左から)広島県廿日市市 経営企画部シティプロモーション室 室長の松尾氏、佐賀県みやき町 町長の末安伸之氏、さとふる取締役兼COOの青木大介氏、和歌山県有田市 経済建設部 理事の成田氏、北海道八雲町 政策推進課企画係 主事の冨樫氏
「ふるさと納税現状報告会 2019」の登壇者。(左から)広島県廿日市市 経営企画部シティプロモーション室 室長の松尾氏、佐賀県みやき町 町長の末安伸之氏、さとふる取締役兼COOの青木大介氏、和歌山県有田市 経済建設部 理事の成田氏、北海道八雲町 政策推進課企画係 主事の冨樫氏

対象外となったみやき町はAmazonギフト券を廃止

 総務省は以前から返礼品は地場産品を採用し、かつ返礼品の原価は寄付額の3割以下に抑えるよう各自治体に指導してきた。しかし強制力がなかったため、一部の自治体は過剰な返礼品を継続。そこで同省は今回の制度見直しを機に、指導に従わない自治体を制度の対象外とした。

 対象外となった自治体は、大阪府泉佐野市、静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町の4市町だ。18年度のふるさと納税受け入れ総額は約5127.1億円。そのうち泉佐野市が約497.5億円、小山町が約250.6億円、高野町が約196.4億円、みやき町が約168.3億円と、この4市町で20%以上を占めていたことになる。

2018年度ふるさと納税の受け入れ額および受け入れ件数上位市町。5位の宮崎県都農町は指定継続となった(出典:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」)
2018年度ふるさと納税の受け入れ額および受け入れ件数上位市町。5位の宮崎県都農町は指定継続となった(出典:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」)

 みやき町 町長の末安伸之氏は「過剰な返礼品競争に参加して、多額の寄付をいただいた結果であると認識している」とコメント。その反省を受け「再指定に向けて、皮ごと食べられる『神バナナ』を使用した、基準に沿った産品を事業者と一緒に開発している」と言う。

 みやき町は18年度の返礼品の1つにAmazonギフト券を採用し、40%という返礼率の高さで全国4位の寄付を集めた。同自治体のふるさと寄付金基金残高、つまり使い切れなかった寄付金は18年度末で約69.7億円に上る。19年度に寄付が集まらなかったとしても、当面のところ財政面での不安はなさそうだ。

「神バナナ」を開発した農業法人・神バナナのホームページ。同法人の本社は鹿児島県南九州市だが、19年3月からみやき町で栽培を始めている
「神バナナ」を開発した農業法人・神バナナのホームページ。同法人の本社は鹿児島県南九州市だが、19年3月からみやき町で栽培を始めている

問われる自治体と寄付者の関係性

 返礼品や返礼率の高さに目が行きがちなふるさと納税だが、本来は応援したい自治体に“使い道”を指定して寄付できることを特徴とする制度だ。寄付額と同等の金額が所得税・住民税から控除されるので、返礼品はいわば“おまけ”のようなもの。その意味でふるさと納税制度に返礼品は不要とする向きもあるが、約7割の自治体と8割超の事業者が「返礼品は必要」と考えている。

返礼品が必要と考えている自治体は約7割、事業者は8割超に上る(出典:さとふる「自治体・事業者アンケート調査結果」)
返礼品が必要と考えている自治体は約7割、事業者は8割超に上る(出典:さとふる「自治体・事業者アンケート調査結果」)

 返礼率が統一された現状での他自治体との差異化については、有田市の成田氏が言う「ブランディングの強化」も1つの方法だろう。八雲町の冨樫氏の「返礼品の“お得感”よりも、寄付金の使い道への共感が重要な要素となった」との意見も説得力がある。いまや自治体と寄付者における関係性の意味が問われているのだ。

 実際、ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」が展開する、ふるさと納税を利用したクラウドファンティング「ガバメントクラウドファンティング」では、返礼品がないにもかかわらず、那覇市の「首里城再建支援プロジェクト」に約6.4億円の寄付が集まった。「さとふる」が受け付けている「災害支援寄付」でも、台風の被害に遭った自治体などに向けて約2.8億円が寄せられている。

「沖縄のシンボル『首里城』再建支援プロジェクト」への寄付額は6億円超。「ガバメントクラウドファンティング」全体では120億円を超える寄付が集まっている(出典:ふるさとチョイス「ガバメントクラウドファンディング寄付金額ランキング」)
「沖縄のシンボル『首里城』再建支援プロジェクト」への寄付額は6億円超。「ガバメントクラウドファンティング」全体では120億円を超える寄付が集まっている(出典:ふるさとチョイス「ガバメントクラウドファンディング寄付金額ランキング」)

 自治体と寄付者の関係を強化する施策として注目されているのが、飲食・宿泊・観光を連携させた体験型の返礼品だ。寄付者に自治体まで足を運んでもらう方法なら配送コストの問題も生じない上、寄付者の共感も得やすい。

 廿日市市ではふるさと納税をきっかけに同市を訪れてほしいという思いから、新幹線のチケットや宿の宿泊券が付いた宮島観光を、体験型の返礼品として「さとふる」と共同で開発した。また有田市の返礼品には同市のレストランでの食事や移住体験などがある。こうした体験型の返礼品は、目立った地場産品がない自治体にとっても参考になるだろう。今回の制度見直しは、ふるさと納税制度の大きなターニングポイントになりそうだ。

ふるさと納税制度の見直し後、半数近い自治体が体験型返礼品の開発に取り組んでいる、または検討している。またクラウドファンディングも3割超に上る(出典:さとふる「自治体・事業者アンケート調査結果」)
ふるさと納税制度の見直し後、半数近い自治体が体験型返礼品の開発に取り組んでいる、または検討している。またクラウドファンディングも3割超に上る(出典:さとふる「自治体・事業者アンケート調査結果」)

(写真提供/さとふる、トラストバンク、Shutterstock)