2019年10月、米グーグルは量子コンピューターの重要なマイルストーンである量子超越性を実現したと発表した。劇的に計算を高速化する量子コンピューターの技術が広がれば、ビジネスのあり方も変わる。量子コンピューターは何がすごいのか。今知っておくべき技術の勘所を説明する。

カナダのDウエーブ・システムズが開発した量子コンピューター
カナダのDウエーブ・システムズが開発した量子コンピューター

 グーグルが世界で初めて「量子超越性」を実証したというニュースは、コンピューターの技術者や関係者を驚かせた。

 量子超越性とは何か。現在最速のスーパーコンピューターでもとても長い時間がかかる計算を、量子コンピューターなら圧倒的に高速に実行できるということを意味する。重要なのは「圧倒的」ということだ。1000倍や1万倍程度ではなく、最低でも数千万倍は高速であることが求められる。それを現実のものにした、ということに多くの人を驚かせたのだ。

 このグーグルの成果については最後に触れることにして、まずは量子コンピューターの基本について解説する。

0と1が混在する「重ね合わせ」

 量子コンピューターの研究自体は1980年代には始まっていた。1985年に英国の物理学者ドイッチュが、現在の量子コンピューターにつながる量子チューリングマシンという概念を提唱した。1994年に米国の計算機科学者ショアが量子コンピューターに適した素因数分解アルゴリズムを考案したことで、量子コンピューターに注目が集まった。

 量子コンピューターとはその名が示すとおり、「量子」の特異な性質を利用して処理をするコンピューターである。量子とは、原子核を構成する電子、陽子、中性子のような超ミクロな粒子の総称だ。

 量子の世界では、我々の常識に反するような不思議な現象が起こる。その一つが状態の「重ね合わせ」だ。従来のコンピューターでは、スイッチのオン・オフなどによって2つの異なる状態を作り出し、それを1ビット(つまり1か0か)として計算をする。

 しかし、量子の世界では、2つの異なる状態のどちらかがまだ確定していない重ね合わせ状態が許される。こうした量子的な振る舞いをするビットを量子ビットと呼ぶ。量子には、スピンと呼ばれる向きを持つ量(超ミクロな磁石の向きと考えてよい)がある。

従来のコンピューターでは、スイッチのオンとオフで1ビットのデータを表す。量子ビットでは「0」と「1」の状態を併せ持つ重ね合わせの状態になっている
従来のコンピューターでは、スイッチのオンとオフで1ビットのデータを表す。量子ビットでは「0」と「1」の状態を併せ持つ重ね合わせの状態になっている

 例えば、上向きのスピンを0、下向きのスピンを1に割り当てるとする。量子ビットでは、上向きと下向き以外に斜め方向や真横など、取り得るスピンの向き(状態)は無限にある。これが重ね合わせの状態である。しかし、量子ビットを観測すると、スピンは上向きか下向きのどちらかに収束し、0か1かが決定するのだ。