コールセンター事業を展開するベルシステム24ホールディングスは2019年12月2日、MR(複合現実)技術を活用したコールセンター業務を展開すると発表した。オペレーターが自宅にいても顧客対応が可能となり、「時間や場所の制約を超えた新しい働き方」を提案する。同日から実証実験を開始した。

3Dホログラムを仮想的に映し出すことで、時間や場所にとらわれずコールセンター業務が可能になる(写真提供/日本マイクロソフト)
3Dホログラムを仮想的に映し出すことで、時間や場所にとらわれずコールセンター業務が可能になる(写真提供/日本マイクロソフト)
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 実証実験第1弾では、イタリア家電メーカーの日本法人デロンギ・ジャパン(東京・千代田)が発売するコーヒーマシンの顧客サポート業務が対象となる。コーヒーマシンは構造が複雑で、問い合わせが多い商材の1つだという。従来、故障などの問い合わせがあるとオペレーターは、コールセンターに備え付けてある実機を見たり、操作したりしながら説明していた。そのため、オペレーターはコールセンターに出向いて業務する必要があった。

 自宅での顧客対応を可能にするため、実証実験に参加するオペレーターは日本マイクロソフトのヘッドマウントディスプレー「Microsoft HoloLens 2」を使用。MRコンテンツは、Microsoft Mixed Reality パートナープログラム(MRPP)に認定されているMRスタートアップ企業のDataMesh(データメッシュ、東京・中央)が制作した。

 ホロレンズ2を着用すると、3Dで完全に再現されたコーヒーマシンが目の前に映し出され、実物があるかのように操作することができる。3Dホログラムのデータは、マイクロソフトのパブリック・クラウド・プラットフォーム「Microsoft Azure」に保存してあるため、オペレーターは同時にどこからでも利用することが可能。虹彩認識機能が搭載されており、Windows Helloと連携して個人を認証しログインができ、セキュリティー面も安心だ。

 ベルシステム24ホールディングスCEO(最高経営責任者)の柘植一郎氏は、「地方在住であったり、介護や子育てが忙しかったりする人は多い。(時間や場所に制約があり)働きたいのに働けない人に対して、イノベーションによって働ける環境・機会を提供したい」と話す。

4社合同で「コールセンター・ワークスタイル・イノベーション・プロジェクト」を立ち上げた。左からベルシステム24ホールディングスCEOの柘植一郎氏、デロンギ・ジャパン社長の杉本敦男氏、DataMesh代表取締役の王暁麒氏、日本マイクロソフト常務クラウド&ソリューション事業本部長の手島主税氏
4社合同で「コールセンター・ワークスタイル・イノベーション・プロジェクト」を立ち上げた。左からベルシステム24ホールディングスCEOの柘植一郎氏、デロンギ・ジャパン社長の杉本敦男氏、DataMesh代表取締役の王暁麒氏、日本マイクロソフト常務クラウド&ソリューション事業本部長の手島主税氏
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 ホロレンズ2では、「オペレーターがどのように3Dモデルを動かしたのか、視線はどのように動いていたのかを記録することも技術的には可能」(日本マイクロソフト担当者)なので、ホロレンズに記録したデータをクラウド上へアップロードすれば、他のオペレーターとデータを共有することもできる。オペレーターが顧客と交わした音声のやりとりと、このデータを結びつけておけば、「クラウド上に蓄積されたデータをAIで分析して、その結果から導き出された“最適な次のアクション”をクラウドからホロレンズ2へ送り、オペレーターの目の前に仮想的に表示」(日本マイクロソフト担当者)することが可能。オペレーターのサポートができるようになれば、1人当たりの対応時間の縮小やオペレーターの応答効率格差の減少が期待できる。

 矢野経済研究所の調査によると、18年度のコールセンターサービス市場規模(事業者売上高ベース)は、前年度比2.9%増の9419億円。また企業の人手不足が深刻化していることから、アウトソーシングサービスを利用する企業が増加すると見込まれている。ベルシステム24のCRM(顧客情報管理)事業単体としての売り上げは、1148億2400万円で、オペレーターは約3万2000人在籍している。

コールセンターサービス市場規模推移・予測
コールセンターサービス市場規模推移・予測
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 コールセンター内での業務においても、活用が期待できる。例えば、「自動販売機や自動車のエンジンなど、巨大で動かすことが困難なものを扱うケースには有効的」(柘植氏)。3Dホログラムのデータさえ作成すれば、重い自動販売機も指の動きだけで動かしたり、大きさを変えたりもできるだろう。

 21年末をめどに汎用的なビジネスモデルを構築し、ベルシステム24が抱える他のクライアント企業での導入を進めるという。