今回は期間限定のトライアルという位置付けで、実際にどのような価格帯のものが売れるか、接客時間がどの程度かかるかなどを検証。その上で、20年春以降、実際に百貨店の売り場にアバターを配置し、本格的なサービス開始を目指す。地方店の閉鎖が相次ぐなか、近隣に百貨店がない消費者の受け皿となる他、高齢で店舗へ足を運ぶことが難しくなった顧客への外商機能としての利用も期待される。

全国に1000体のアバターを“ばらまく”

 ANAが開発するアバターに注目するのは三越伊勢丹だけではない。今回の取り組みは、日本橋エリアの再開発を推進する三井不動産と進める、アバターの都市実装共同事業の一環。avatar-in storeに置かれるアバターのニューミーは5体(稼働するのは常時1体)にとどまるが、20年度中には日本橋エリアに100体の投入を目指している。ANAのパートナーとしては、森ビル、三菱地所、阪急阪神不動産、東急、うめきた2期開発事業者といった有力デベロッパーが参画。20年夏までに1000体の普及という壮大な目標を掲げる。

 ニューミーには手も足もなく、アバターとしてはやや簡素な印象も受けるが、「高性能なだけでは世界は変えられない。実験室を飛び出し、各家庭にまでばらまけるものであることが重要」(ANAの深堀氏)。ニューミーの次の段階として、荷物を持ち上げて2足歩行で運ぶことができる屋外アバターや、ロボットアームを介して共同作業ができるウエアラブルアバター、触覚を伝えられるロボットハンドなども開発中。18年から4年間にわたり、最先端技術の開発コンテストを主催する米XPRIZE財団と組んで「ANA AVATAR XPRIZE」という国際的な賞金レースを実施中で、その賞金総額は1000万ドル(約11億円)に及ぶ。リアルな移動を事業の柱に据えるエアラインのANAが、一見競合するバーチャルな移動手段の構築に力を入れるのは奇妙にも思える。

19年10月に開催された家電の見本市「CEATEC2019」で「ニューミー」を発表
19年10月に開催された家電の見本市「CEATEC2019」で「ニューミー」を発表
CEATEC2019の基調講演では、イメージキャラクターの女優・綾瀬はるかさんが登場し、ANAホールディングスの片野坂真哉社長自らが開発中のウエアラブルアバターを着用するなど力が入っていた
CEATEC2019の基調講演では、イメージキャラクターの女優・綾瀬はるかさんが登場し、ANAホールディングスの片野坂真哉社長自らが開発中のウエアラブルアバターを着用するなど力が入っていた

 深堀氏は「エアラインを利用する人は世界人口の約6%にすぎない。それ以外の人に移動手段を提供するためにはどうすればいいかを考えた結果、身体ではなく意識だけを瞬間移動させればいいことに気づいた」という。移動する時間やコストがない人や、体が不自由な人、移動するインフラがない離島やへき地に住む人などにも市場を広げられ、競合はしないとの見立てだ。

 興味深いのは、バーチャルな移動とはいえリアルな体験を主軸に置いている点だ。例えば「CEATEC2019」で展示されていた「釣りアバター」では、大分県の海上釣り堀にロボットを設置。バーチャルなフィッシングゲームではなく、本物の魚を釣り上げる。すべてをバーチャルに置き換えるのではない点が、IT発祥ではないANAらしさと言えるだろう。

CEATEC2019でデモ実演が行われた遠隔での魚釣り体験
CEATEC2019でデモ実演が行われた遠隔での魚釣り体験

 三越伊勢丹に限らず、ネット全盛の昨今、リアルで磨いてきた強みが生かせなくなりつつある業態は数多い。アバターというバーチャルな技術を組み合わせることによって、その魅力を再び輝かせられるかもしれない。