カルビーが新発売した「グラノーラ」をおいしく食べるレシピを、他社が自社のTwitter公式アカウントで拡散し、話題を呼んでいる。このプロモーションを仕掛けた背景には、「朝食革命」で2016年まで大幅な売り上げ増を記録したシリアルブランド「フルグラ」が抱える“難題”が潜んでいた。
“映える”レシピがTwitterで拡散
Twitterでハッシュタグ「#究極の甘くないグラノーラ」を付けたツイートが複数の企業公式アカウントから投稿され、拡散している。グラノーラはシリアル食品の一つで、朝食用にパンやご飯の代わりに食べる甘い軽食のイメージがある。しかし投稿されているのは、グラノーラとヨーグルトを上乗せしたレタスサラダ、チーズとコンビーフをのせてトースターで温めたグラノーラグラタンなど、想像の“斜め上”をいく内容だ。前者を投稿したのは森永乳業、後者は「ノザキのコンビーフ」で知られる川商フーズ(東京・千代田)。他にも生活雑貨専門店のロフトが、下段にサラダを詰めたランチボウルの写真を投稿している。どれも自社製品とグラノーラをうまく組み合わせているのがポイントだ。
仕掛けたのはカルビー。2019年9月16日に発売したプレーンタイプの「グラノーラ」を広めるため、同社のTwitter公式アカウントで情報を提供し始めた。リツイート数やいいね数は、同社の他のグラノーラ商品を大きく上回った。特にいいね数は、従来の平均値に比べて4倍を超える値を記録した。
カルビーマーケティング本部商品3部2課課長の村上綾氏は、新製品について「グラノーラといえば一般に“甘いもの”と捉えられているが、その固定観念から脱出する方向で商品企画を進めた」と語る。Twitterでの拡散も、固定観念をくつがえす“甘くない”がフォロワーの意表を突いたと言えよう。甘くなければ他の食材と合わせやすくなり、レシピの幅が広がれば“映える”画像の投稿も期待できる。
では、一体なぜカルビーは甘みが定番のグラノーラから、甘さ自体を取り除こうとしたのか。
「甘すぎて続かない」と年配顧客の声
レシピ動画アプリ「DELISH KITCHEN」やInstagramでは、甘くないものをヒットさせるための検索ワードが目立っている。また「キリン 午後の紅茶 ザ・マイスターズ ミルクティー」をはじめ、甘くないことを売りにする食べ物や飲み物に対する需要が20~30代の若年層を中心に高まっている(関連記事「“甘い”先入観を裏切る深田恭子で『午後の紅茶』離れを防げ!」)。新しい「グラノーラ」もそうした市場への情報発信を目的に、TwitterやInstagramの公式アカウントを活用した。
カルビーのTwitterアカウントは、フォロワー数が33万人を超えるほどの人気を誇る。そこで“甘くない”トレンドにあやかり「#究極の甘くないグラノーラ」を付けたツイートを開始。情報感度の高い若年層に向けて「グラノーラ」の認知向上を図った。
一見するとカルビーは近年の甘くない商品の流行に目を付け、「グラノーラ」の開発に至ったように思える。実はそうしたトレンド対応より、もっと解決しなければならない問題があった。きっかけは50~60代、それ以上の層からの「『フルグラ』が甘すぎる」という声だった。
フルグラは1988年に「フルーツグラノーラ」という名前のシリアルブランドとして世に送り出された。2011年には社内の愛称である「フルグラ」に改名。その後「第3の朝食」「朝食革命」と呼ばれるプロモーションを仕掛けたところ、これが奏功し、11年に37億円だった国内売上高は16年には241億円にまで急伸した。
しかし17年度以降は売り上げが頭打ちに。理由はフルグラにはプレーンに相当する味が存在しなかったからだ。50代以上の顧客の場合、甘すぎると毎日は食べられない。きな粉や黒蜜、蜂蜜、ジャムなどをかけてアレンジしたくても、フルグラ自体が甘いのでそれらを足すと甘くなりすぎて、やはり継続して食べるのは厳しい。結果、商品自体から離れてしまう傾向が見られた。
飽きずに食べ続けてもらうには、「グラノーラ=甘い」のイメージごと変えなければならない。そこで甘くない「グラノーラ」の開発が始まった。
開発の手掛かりは食パンの味と風味
開発がスタートしたのは17年秋。担当したカルビー研究開発本部開発3部木村桂太氏は「他社の“甘くない”とうたっている商品も、甘いのでまねできない。なので『どういうものを作ればいいか』といったイメージを作るところから始めた」と振り返る。そこから想起したのが、グラノーラにおける「パン全体の中の食パンのようなポジション」だった。そのまま食べても味と香りがしっかりとあっておいしく、癖が少なくいろいろなものに合わせられる――そんな立ち位置だ。
100回以上も試作を行い、オーツ麦と5種類の穀物の組み合わせを採用した。その中には同社のグラノーラでは使われていなかった発芽玄米パフやスイートコーンなどの素材も含まれる。こうして砂糖の甘さではなく、素材の香ばしさを生かした新たな「グラノーラ」が完成した。
村上氏は「『第3の朝食』では従来のグラノーラの域からは出ないと思われていたが、今回の『グラノーラ』はお米やパン(の領域)にまで食い込むイメージ。『第3の朝食』を革命する『第4の朝食』にまでいってくれたらうれしい」とその出来に胸を張る。 村上氏はコーヒーや紅茶の「微糖」や「無糖」、ヨーグルトの「プレーン」のような、甘くない味の新しい分類をグラノーラ市場に生み出したいと考えている。
カルビーは19年10月に「チョコグラ」、同11月にはスナック菓子として開発した「カレーグラ」の販売を開始した。木村氏は「『フルグラ=朝食に食べるもの』から、他にも食べ方があることを提案し、商品作りを企画と一緒にしていきたい」と抱負を述べる。
今後の課題は「いかに自分ごとにしてもらえるか」(村上氏)。店頭と違ってTwitterやSNSでは消費者にその場で食べてもらえない。「グラノーラ」が食卓に上る機会を増やしてもらうためにも、一度体験するプロセスを経て「こんなメニューにも使える」と実感してもらうことが重要だ。
(写真/丹野加奈子)