ポルシェジャパンは、新型車「タイカン」のジャパンプレミアを2019年11月20日に開催した。同社初のフル電動スポーツカーで、同日より「期間限定 Porsche タイカン予約プログラム」もスタート。納車予定は20年9月という。19年8月に同社社長に就任したミヒャエル・キルシュ氏がタイカンで夢見るのは「ポルシェ・アズ・ア・サービス」とも言えるものだった。

ミヒャエル・キルシュ社長(右)とプロダクトマネージャーのアレキサンダー・クワース氏。新型ポルシェ「タイカン」(欧州仕様、エクステリアカラー:カーマインレッド)のグレードは性能が高い順に「タイカンターボ S」「同ターボ」(写真)、「同4S」の3つがある。国内での価格は未定だが、ドイツではターボSが18万5456ユーロ
ミヒャエル・キルシュ社長(右)とプロダクトマネージャーのアレキサンダー・クワース氏。新型ポルシェ「タイカン」(欧州仕様、エクステリアカラー:カーマインレッド)のグレードは性能が高い順に「タイカンターボ S」「同ターボ」(写真)、「同4S」の3つがある。国内での価格は未定だが、ドイツではターボSが18万5456ユーロ

 「タイカンは電動化された魂を持つ生粋のスポーツカー」――ジャパンプレミアに登壇したミヒャエル社長は力強く宣言した。さらに「タイカンはポルシェの伝統とイノベーションの結実。これまでアジア市場では数字だけでなくクオリティーも追求してきた。日本でも成功を収めるよう務めたい」と意気込みを語った。

 高性能モデルのターボ Sは前後に2基の電気モーターを搭載し、最大761psを発揮。時速0~100キロの加速はわずか2.8秒で、この数字は「911 GT2 RS」と同じだ。同社マーケティング部、プロダクトマネージャーのアレキサンダー・クワース氏は、「実際に乗車してみると異次元のパフォーマンスを味わうことができる」と、電気自動車(EV)でありながら最新のスポーツカーと遜色ない性能を自慢した。

 性能以外のトピックとしては、世界で初めて音楽のサブスクリプションサービスである「Apple Music」を車両の機能として組み込んだ点がある。ダッシュボードの中央には10.9インチのセンターディスプレーを配備し、タッチスクリーン操作で誰でも5000万曲以上の楽曲を車内で楽しめる。別途スマホは必要ないし、「ストリーミングのために必要なデータ量は3年間無料で提供する」(アレキサンダー氏)という。

ダッシュボード中央にあるディスプレーでApple Musicなど車内装備を設定・操作する
ダッシュボード中央にあるディスプレーでApple Musicなど車内装備を設定・操作する

 ポルシェはタイカンの開発を皮切りに今後も電動化をいっそう推進する。全国のポルシェセンターや公共施設に「CHAdeMO」規格に準拠した急速充電器を設置。その充電出力は国内で最もパワフルな150キロワットで、タイカンのバッテリーを30分以内で80%まで充電する能力を備える。

 「この充電器を使用すればたったの10分で最大100キロメートルの走行距離が可能になる。また、自宅に充電器の設置が可能となるようサポートも提供していく」(アレキサンダー氏)考えだ。

若い世代にもタイカンを売り込む

「同じ動作を何度してもしっかりと同じパフォーマンスを出せるかが将来EVスポーツカーの質を定義していくポイントだ」と話すミヒャエル社長。「タイカンはパフォーマンスの一貫性も優れている」と胸を張る
「同じ動作を何度してもしっかりと同じパフォーマンスを出せるかが将来EVスポーツカーの質を定義していくポイントだ」と話すミヒャエル社長。「タイカンはパフォーマンスの一貫性も優れている」と胸を張る

 タイカンは確かに素晴らしい性能を持っており、そのキャッチフレーズ「電動化された魂」は昔からのファンにはたまらない言葉だ。しかし、カーシェアリングが増え、トヨタ自動車の「KINTO」などサブスクリプション型のサービスが登場するなど、クルマを所有しないライフスタイルが広がりつつある。高級車であるタイカン、そしてポルシェは変わりゆく市場の中でどのように売り出していくのか。ミヒャエル社長を直撃した。

社長に就任して100日以上が過ぎました。日本の消費者の特徴は?

ミヒャエル社長 日本の消費者は、ハイクオリティーなものを求める傾向にある。また、ポルシェとの歴史は古く、ドイツから初めて海外に市場を持ったのは米国に次いで日本が2番目だ。これだけポルシェに対して深い理解を持っている国で仕事ができるのはうれしく思うが、その一方で新たに挑戦したいことがある。それは未来の社会を形づくる若い世代に向けて、どのようにしてタイカンのようなクルマを届けるのかということだ。うまくブランドをつくらないといけない。

 若い世代ではブランド認知が変わってきている。これまではブランド側から一方通行で、ひたすら特徴などを訴えるケースが多かった。最近は逆に消費者からブランドの意味を問われていると思う。そのブランドを所有することで、何が主張できるのか、社会に対するステートメントは何なのか……。ステートメントには、環境配慮という意味も含まれている。

若い世代のクルマ離れが叫ばれる中、タイカンのターゲットとしてどのようなペルソナを想定しているのか?

ミヒャエル社長 ポルシェを愛する既存のオーナーもターゲットだと考えているが、ポルシェは「自分が好きなクルマがないから自分で作ろうと思った」という創業者の強い野心から生まれたクルマ。野心を持つという意味では若者もターゲットになる。目的意識を持ってブランドを選ぶ人たちに、ポルシェへの憧れを持ってほしいという願いもある。

 ターゲットをより具体的に分類するなら、まず最近台頭している仕事で活躍する女性。次がイノベーションが好きでエッジの利いたものを好み、時代の流行は追わず、自分が思う“クール”なものを徹底的に求める人。最後がKOL(キーオピニオンリーダー)と呼ばれるようなSNSでフォロワーが数多くいる人。シェアリングを活用するなど、中身の伴ったブランドを選ぶ人々と言ってもいいだろう。

タイカンの発売は20年9月。ちょうど東京五輪後になる。五輪後は経済が停滞するという予測もあるが、どのように販促していくのか?

ミヒャエル社長 欧州での経験を踏まえ、1つ言えることはラグジュアリー業界は経済の動向による影響を受けづらいということ。20世紀から21世紀に切り替わるタイミングで、いろんな国でバブルが崩壊した。そのときにラグジュアリー業界はいち早く影響を受けると指摘されていたが、時計や宝石、高級車などのビジネスは実際には伸びた。

 一方で具体的な数字と聞かれると、断言はしにくい。911やカイエンはこれまでの経験値があるが、タイカンは新しい世代を迎えるポルシェの新アイコンなので、その分不透明。海外では予約プログラムが既に展開されていて、見込み客で2万人という数字が上がっている。ここ日本でも大量の予約という話にはならないと思うが、しっかりと着実に予約は入ってくると考えている。

ポルシェは高価なクルマ。ブランドに共感しても買えない人は多い。サブスクリプション型のサービスなどを展開する計画は?

ミヒャエル社長 新しいポルシェの利用方法として、日本でもパイロットプロジェクトをいくつか始めている。例えばポルシェのカーシェアリングサービス付きのマンション「ミルーナヒルズ舎人 C's COLLECTION(シーズコレクション)」。それからポルシェが借りられるレンタカーも増えている。

海外にもそうしたサービスはあるのか?

ミヒャエル社長 米国ではまもなく新サービスを発表する。一定の会費を支払ってもらえれば、週末は自由にポルシェを利用できるという仕組みだ。今後日本でも展開していきたいと考えている。

 もっと進んだサービスも考えている。例えば自宅からポルシェで羽田へ向かう。ポルシェ専用の駐車場に止め、空港では専用ラウンジでくつろぐ。その後海外へ飛び、現地に到着すると別のポルシェが待っていて、そのクルマには旅のプランなどがすべてプログラミングされている。「ポルシェで世界を旅する」ようなイメージ、今後はこういうサービスが理想になると思う。

 実はタイカンは、こうした理想を実現するために必要な通信などの装備を既に備えている。環境が整えばこの話が実現するのはそう遠い未来ではない。

まさに「ポルシェ・アズ・ア・サービス」というイメージですね。ところで「クルマを所有する」という時代は終わりを迎えと思うか?

ミヒャエル社長 今だからこそ、ポルシェ創業者の言葉を思い出す。「世の中で最後に販売されるクルマがあるとしたらそれは絶対にスポーツカーである」。それを踏まえて、個人の意見を述べるのならば、ポルシェほどのクルマは最後まで「所有」という選択肢が残るはずだ。

デジタル時代への対応は、タイカンの開発に際し、最も重要とされたテーマの1つだった。ポルシェは伝統とテクノロジーを融合させたこのスポーツカーとともに、新しい旅路を駆け抜けていくことができるのか
デジタル時代への対応は、タイカンの開発に際し、最も重要とされたテーマの1つだった。ポルシェは伝統とテクノロジーを融合させたこのスポーツカーとともに、新しい旅路を駆け抜けていくことができるのか

(写真提供/ポルシェジャパン、写真/渡貫幹彦)

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