商用サービスの開始が2020年春に迫る次世代の通信サービス「5G」。高速大容量、低遅延という特長を生かすと、スマホはどう変わるのか。大手キャリアがラインアップした19年秋冬モデルから、その方向性が一足早く見えてきた。新たなトレンドは、デュアルディスプレーと応答速度の向上だ。

ソフトバンクから発売される「LG G8X ThinQ」は、ディスプレー付きカバーを装着することで2画面になる
ソフトバンクから発売される「LG G8X ThinQ」は、ディスプレー付きカバーを装着することで2画面になる
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 日本より一足早く、2019年4月から5G商用サービスがスタートしている韓国。話題を呼んでいるのが、折り畳み式のスマートフォンだ。韓国サムスン電子は折れ曲がる有機ELディスプレーを使った「Galaxy Fold」を発売。日本では現行の通信規格「LTE」にしか対応しないモデルになるものの、au(KDDI)が19年10月から取り扱いを始めた。折り畳んでいるときは、外側の4.6型ディスプレーが使え、広げると7.3型の大画面ディスプレーが姿を現す。最大3つのアプリを同時に立ち上げることができ、パソコンのように利用できる。

画面が折れ曲がる「Galaxy Fold」。中国の華為技術(ファーウェイ)も同様の端末を開発(画像提供/KDDI)
画面が折れ曲がる「Galaxy Fold」。中国の華為技術(ファーウェイ)も同様の端末を開発(画像提供/KDDI)
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 ただし、価格は税込み24万5520円。売れ筋の「iPhone 11」(米アップル)の2~3倍もする高額なモデルとなる。販売チャネルも、auの公式オンラインショップとKDDI・沖縄セルラー電話の直営ショップ、Galaxyの公式ショップ、一部の家電量販店に限定されている。折れ曲がるディスプレーの製造に当たっては歩留まりの悪さが指摘されており、まだ本格的な普及とはいかないようだ。

 これに対して、韓国LGエレクトロニクスは同様の折り畳み式5Gスマホ「LG V50 ThinQ 5G」を韓国で発売。日本ではそのLTE版である「LG G8X ThinQ」が、ソフトバンクから19年12月6日に発売される。ディスプレー自体が折れ曲がるのではなく、2つのディスプレーを搭載。価格は税込み5万5540円と、iPhone 11よりも低く抑えられている。

 実は、2画面スマホという発想は新しいものではない。日本では13年にNECカシオ モバイルコミュニケーションズ(当時)から「MEDIAS W」が、17年にはNTTドコモから「M」(製造は中国ZTE)が発売された。しかし、どちらの機種も市場に定着するには至らなかった。

 “敗因”は、2画面という特長を生かせる目立った用途が見つからなかったことにある。当時は通信速度が今ほど速くはなかったうえ、端末の性能も十分ではなかった。むしろ消費者には、画面を2つ搭載したことによる重量感や厚みなどがデメリットと映ってしまった。

 LGはそのような事例を踏まえ、2画面とも本体に搭載するのではなく、スマホにディスプレー付きカバーを取り付けて2画面にする方式を採用。普段はスマホ本体だけを使い、2画面で使いたいときだけカバーにはめ込む。カバーを含めた重量は約331グラムとかなり重たいが、本体だけなら約193グラムと、スマホとしては許容される範囲になる。

カバーを装着するとデュアルスクリーン、外すと通常のスマホとして使える
カバーを装着するとデュアルスクリーン、外すと通常のスマホとして使える
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 では、2画面があると何ができるのか。LGは3つの使い方を提案している。1つ目は、左右の画面それぞれに別々のアプリを立ち上げるというもの。例えば、動画を視聴しながら、SNSで友人とチャットができる。あるいは「ポケモンGO」「ドラゴンクエストウォーク」といった位置情報を使ったゲームを、複数同時にプレーできる。通販サイトで買い物をする際、Amazonと楽天市場といった異なるサイトを同時に立ち上げ、左右で価格を見比べながら選ぶのも便利だろう。

 2つ目が、携帯ゲーム機「ニンテンドー 3DS」のような使い方。ゲームパッドアプリがプリインストールされており、プレー画面とコントローラー部分を切り離すことが可能。操作性が向上し、ゲームの臨場感が高まる。ソフトバンクが提供するスポーツ中継サービス「バスケットLIVE」アプリも2画面対応になる予定で、マルチアングル視聴ができる。

ゲームパッドを表示させられる
ゲームパッドを表示させられる
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 3つ目は、1つのアプリで2画面を使うもの。例えば、韓国ネイバーが開発した2画面対応ブラウザーアプリ「Whale」がそれだ。ニュースサイトを表示させ、見出しを長押しするともう一方の画面に記事の詳細が表示できる。メニュー画面と詳細画面を行ったり来たりする手間が省けて、かなり便利だった。現状は対応アプリがほとんど見られないが、2画面を生かしたアプリが増えることが期待される。

 LGエレクトロニクス・ジャパンのイ・ヨンチェ社長によると「韓国では、2画面スマホは今までにない商品。それほど売れないのではと心配していた」。しかし予想を上回る販売台数を記録しているという。LGのユーザー調査では、発売前は2画面への評価が3割程度にとどまっていたが、購入者の9割が満足と回答したという。ちなみに、ユーザーの6割が普段はスマホ本体だけを持ち歩き、必要なときだけカバーを装着して2画面にしているとのこと。2画面で使う時間は3時間以上という回答が約6割と最も多いという。

 「5Gサービスの魅力は、通信が速いというだけでは消費者にメリットを伝えにくい。(広帯域を生かす)新たな使い方を分かりやすく伝えられるモデルとして、通信キャリアも2画面スマホを大きく打ち出している」(LGエレクトロニクス・ジャパンのキム・ヒチョルプロダクトチーム長)。日本でも、20年春の5G商用化に合わせてラインアップを拡充していきたいと意気込む。

シャープは低遅延のゲーミングスマホを発売

 NTTドコモ、au、ソフトバンクの大手3キャリアすべてが取り扱う「AQUOS zero2」(シャープ製)は、一見すると、ゲーマー向けというニッチなハイエンドスマホ(発売は20年1月以降。ドコモでの販売価格は8万円前後の見込み)。しかし実は、来る5G時代を見据えたモデルだ。

 AQUOS zero2の売りは、ディスプレーとタッチパネルの応答速度の向上。ディスプレーは通常、1秒当たり60回画面を更新する「60Hz」だが、このモデルではフレーム数を2倍の1秒当たり120回更新に。さらに各フレームの間に黒い画面を挟み込むことで、網膜の残像を低減する効果があり、より滑らかにくっきりと表示されるように感じられるという。この画面の挿入も含めると、1秒間に240回もの画面更新が行われることになる。

 タッチパネルも画面と同様、高速でスキャンし続けることで応答する仕組み。このスキャンの回数を、画面更新と同じ1秒当たり240回に増やした。平均約2ミリ秒(1ミリ秒は1000分の1秒)でタッチ検出が可能という。

出典/シャープの資料を基に作図
出典/シャープの資料を基に作図
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 この2つの性能向上で、タッチ操作をしてからスマホ内部のICチップで処理・演算をし、画面を更新するまでのスピードを約80%短縮。タッチ操作や画面更新の遅延をミリ秒単位で軽減した。

 現状、ここまでの低遅延を求めるニーズは、応答スピードのわずかな差が勝負に影響するスマホゲームくらいなもの。それ故AQUOS zero2は今回ゲーマー向けに訴求するモデルとなっているが、5G時代に入ると、これが一般的なニーズになる可能性が高い。

ストレスなくゲームが楽しめることを訴求している「AQUOS zero2」(画像提供/シャープ)
ストレスなくゲームが楽しめることを訴求している「AQUOS zero2」(画像提供/シャープ)
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 5Gの特長には、高速大容量に加えて、低遅延というものがある。現行規格LTEと比べると10分の1(1ミリ秒)になるとされるが、これはあくまでも無線通信による遅延のみ。「意外と知られていないが、端末側が原因となる遅延のほうが大きい。ここを減らしていかないと、低遅延のメリットが生かせない」(シャープ通信事業本部 パーソナル通信事業部長の小林繁氏)

 また5G時代になると、高速大容量通信によりさまざまな処理をクラウド側で行うサービスが増えると想定されている。そうなると、スマホ側に求められるCPU性能の重要性は低くなるだろう。ただし、タッチパネルなど入力の機能と、ディスプレーなどの出力の機能だけはスマホ側に必ず残る。そこが差異化ポイントになると考えるからこそ、シャープは開発の重点を置いているのだという。

 これまで、CPUの処理性能やディスプレーのサイズや解像度、カメラの画質などを競ってきたスマホ。5G時代を迎えるなか、これとは異なる方向性で端末の新たな使い方を提案できるかが、5G自体の普及のカギを握っている。