日本デザイン振興会は2019年10月31日、2019年度グッドデザイン大賞として富士フイルムの「結核迅速診断キット」を選んだ。受賞作品の展示会場には、大手メーカーの経営トップが相次いで姿を見せるなど、デザインの重要性を再認識する姿勢がうかがわれた。
グッドデザイン大賞を受賞した富士フイルムの「結核迅速診断キット」は、結核疾患の可能性があるHIV陽性患者に向けて開発されたもの。採取が容易な尿を検体に用いる診断キットで、富士フイルムが写真現像技術で培った「銀塩増幅技術」を応用した。アフリカや東南アジアなど結核とHIV患者数が多い途上国のみへの供給で、日本での販売は予定していない。
富士フイルムは11年に、銀塩増幅技術でインフルエンザの診断用の検査キットを開発。既に国内で普及しているもので、現在も販売している。結核迅速診断キットはインフルエンザウイルスの検査キットの技術を応用、発展させて開発したものだ。開発のきっかけは、15年に銀塩増幅技術に注目したスイスの非営利団体FINDから、喀痰(かくたん)の採取が難しいHIV患者に向けた結核診断キットも作ってほしい、と声を掛けられたことだった。
検査キットのデザインを担当した富士フイルム デザインセンターの大野博利氏は、検査キットのデザインについて「検体をキットに垂らして、2つのボタンを順番に押す。カートリッジを見れば操作手順が直感的に分かるようにデザインした」と話す。
この他、19企業・団体などにグッドデザイン金賞を、12企業・団体などにグッドフォーカス賞を授与した。
「共振力」も審査のテーマに
19年度のグッドデザイン賞の審査テーマは「美しさと共振力」。美しさというテーマは、昨年から継続した。目に見えない共振力を審査の基準とするのは、プロジェクトが生まれる経緯や完成までのプロセス、完成したものが社会や人々に及ぼす影響などもデザインであるという考えだからだ。
審査委員長を務めたデザインスタジオエスの柴田文江氏は「金賞受賞作品の中に富士フイルムの商品がいくつも入っている。富士フイルム内で、とんでもない共振が起きているのではないか」と評価した。審査副委員長を務めたライゾ マティクスの齋藤精一氏は「例えば、大賞候補の一つ、『Ginza Sony Park』も一見すると公園だが、さまざまな形で共振があったからこそ完成できたはずだ」と話す。
結核迅速診断キットも、電力を使わない仕様にするなど、カートリッジの機能性はもちろん、さまざまな共振を起こしながら社会課題の解決に取り組む姿勢が評価された。富士フイルムの大野氏は授賞式で「思い出を残すためのフィルムの技術が、誰かの命を守る技術に姿を変えて世の中の役に立つ。そのストーリーに共感してもらえて、うれしく思っている」と語った。