タイトーは“大人においしい遊び場”がコンセプトの「EXBAR TOKYO」を2019年11月13日、東京・銀座にオープンした。クラフトビールやパブ料理、ゲームが楽しめ、DJやミュージシャンによるイベントも開催する。日本発のナイトエンターテインメントブランドの確立を狙う。
「EXBAR TOKYO」には2つのエリアがある。1つは肉を中心にしたコース料理が楽しめるレストランエリアで、もう1つは18種のクラフトビール、パブ料理、設置されているゲームが楽しめるガストロパブエリアだ。ガストロパブエリアは段差のない開放的なスペースにバーカウンターやゲーム台などが置かれている。セルフ方式で注いだビールを片手にゲームを楽しんだり、ソファでくつろいだり、パブ料理を味わったりと好きなように過ごせる。
タイトーの山田哲社長は、「日本にナイトエンターテインメントを作りたい。大人がいい食事、いいお酒、いいゲームを楽しめる空間として作った」と語る。貿易会社としてスタートしたタイトーは日本で初めてウオッカを製造し、ジュークボックスやピンボールも手掛けるなど、飲食業界とは長い付き合いがあるという。
ユニークなのはセルフ方式のビールサーバーだ。まずエントランスでICチップの入ったリストバンドを渡される。ガストロパブエリアの壁には日本各地のクラフトビールに対応した18台のビールサーバーが並んでおり、リストバンドをかざして認証されると自分でレバーを操作してビールを注げる。ビールは1ミリリットル単位の量り売りで、どれだけ注いでいくら掛かったのかがディスプレーに表示され、リストバンドに記録される。食べた料理のデータもこちらに記録され、料金は退店の際にまとめて支払う仕組みだ。

ビールはグラス単位で注文するのが一般的だが、それでは多すぎるという人もいるだろう。個性のあるクラフトビールだけに、ひとくち飲んで好みでなかった場合も困る。その点、量り売りのセルフ方式ならさまざまなクラフトビールを少量ずつ利き酒のように楽しめる。気に入った銘柄が見つかれば、改めてグラスに注げばいい。飲んだことのないクラフトビールを楽しむのに適した方法だろう。
ビールは国産クラフトビールをそろえていて、銘柄は順次入れ替えていく。中には生産量が少ない貴重なものもあるそうだ。ICチップを使ったシステムでは、人気の銘柄や一度に注がれる分量など細かなデータを収集できる。そうしたデータを使ったビジネス展開も考えられるだろう。
クラフトビールを手に自分のペースで楽しめる場を提供したい
一方、タイトーの“本業”でもあるゲームは、昔懐かしいゲーム機の本体を小型化した「ARCADE1UP」シリーズ、コンピューターゲーム黎明(れいめい)期に爆発的にヒットした米アタリ「ポン」を実際のブロックを動かす方式で再現した「TABLE PONG」、映画スター・ウォーズなどを題材にした液晶ディスプレー付きのピンボールゲームなどをそろえる。昔のゲームを現代風にアレンジした、誰でも楽しめる分かりやすいものが中心だ。これは上司と部下での来店、接待、パーティーなどで使われることを想定したものだ。
「銀座という土地柄、仕事帰りの上司と部下など年代の離れた組み合わせでの来客もある。年代を越えて楽しむことができ、会話が生まれやすいように、古すぎず新しすぎないゲームを選んでいる」(山田社長)
タイトー 新規事業部長兼イータテインメント部長の宮西隆昌氏は「米国には大人が集まってお酒を飲みながらゲームを楽しむバーが数多くあり、そうした場を日本に作りたいというのが企画の始まりだった」と語る。
「友人同士で気軽に集まってゲーム、遊び、食事を楽しめる場所を提供したかった。しかし日本でエンターテインメントレストランを作ると、そのエンタメのジャンルが好きな人しか集まらない場になりがちだ。そうではなく、誰もが気軽に来店できる普段使いの場所、普通のレストランやパブの延長線上にあるものとして作った」(宮西氏)
パブエリアはフラットで開放感のある空間だ。自分でビールを注ぎ、それを手に友達とゲームを遊んだり、ソファに座って談笑したりと、自由に移動しながら楽しめるようにとの狙いがある。音楽を重視してDJエリアを設けたのは、移動を促すためだ。
「音楽で雰囲気を演出することで、お客さんが動きやすくなる。飲食店ではお客さんは座ったまま動かずにスタッフが来るのを待つことが多い。ここでは自分のペースで自由に動いて、ビールを注ぎ、スナックを取って楽しんでほしい」(宮西氏)
軸になるのは18種類の国産クラフトビールだ。
「ターゲットユーザーは明確に定めていないが、何屋さんなのかというスタンスは、明確に打ちだすべきだと考えている。“おいしいクラフトビールが楽しめるガストロパブ”という基本があり、そうした店を好む人がいわばターゲット」(宮西氏)
今後、ゲームやビールは反応を見ながらどんどん入れ替え、業態としてブラッシュアップし、フランチャイズを含め店舗を増やしたい考えだ。
「『EXBAR TOKYO』ブランドとして展開していきたい。国産クラフトビールをそろえており、インバウンド需要の取り込みはもちろん、海外展開も考えている。音楽やゲームは言葉の壁を簡単に越える。そうしたことを意識した次の仕掛けを考えている」(宮西氏)
友人たちと訪れて自分で自由に注いで飲める、クラフトビール好きにはたまらないブランドになりそうだ。目指す分量や価格にピッタリ合うように注ぐことはなかなか難しく、注ぐこと自体にゲームのような楽しさもある。ナイトエンターテインメントとして定着できるかどうかは、こうした楽しさを伝えられるかどうかにありそうだ。
(写真/酒井康治)