建て替えで休業していた「渋谷パルコ」が2019年11月22日、3年3カ月ぶりにオープンした。入り口かららせん状に屋上広場へつながる立体街路が印象的な建物で、地下1階から地上9階(10階の一部)の商業フロアに個性的な専門店が193店舗出店。初年度テナント取扱高約200億円を目指す。

さまざまな面を持つ立体的な外壁構成のテーマは「原石の集積」。異なった思想や才能が引き付け合って、一つの塊になることでイノベーションを引き起こすことをイメージ
さまざまな面を持つ立体的な外壁構成のテーマは「原石の集積」。異なった思想や才能が引き付け合って、一つの塊になることでイノベーションを引き起こすことをイメージ

11店舗を集積したオムニチャネルショップが登場

 オープンにあたり、パルコの牧山浩三社長は「池袋パルコがオープンして50年。パルコの第2章が始まると同時に、すてきな新生渋谷パルコが誕生したと自負している。次の時代を作っていく人たちがここで活躍し、それに感銘を受けて集う人も時代を作っていくという循環を生み出すことがパルコの役割。渋谷のヘソとして、情報発信の中心になると期待している」と語った。

 コンセプトは世界へ発信する唯一無二の「次世代型商業施設」。ファッション、アート&カルチャー、エンターテインメント、フード、テクノロジーの5つのテーマで構成し、それぞれをミックスしてフロアを編集しているのが特徴だ。従来の商業施設とは一線を画した、新感覚の刺激や楽しさを体験できるという。他の商業施設とは何が違うのか。

渋谷パルコ・パートIとパートIIIの間にあった道路は「ナカシブ通り」と名づけられ、24時間通れる2層吹き抜け、幅8メートルの歩行者専用通路として生まれ変わった。幅約17×高さ約3メートルのアートウインドーも見どころ
渋谷パルコ・パートIとパートIIIの間にあった道路は「ナカシブ通り」と名づけられ、24時間通れる2層吹き抜け、幅8メートルの歩行者専用通路として生まれ変わった。幅約17×高さ約3メートルのアートウインドーも見どころ
スペイン坂から続く立体街路には、フロア毎に店舗への入り口があり、渋谷の街を歩きながらショッピングを楽しめるような空間になっている
スペイン坂から続く立体街路には、フロア毎に店舗への入り口があり、渋谷の街を歩きながらショッピングを楽しめるような空間になっている

 5つのテーマの中で注目は、デジタル技術を活用した売り場だ。AI(人工知能)ロボットによるコミュニケーションサービスから決済システムまで、さまざまな最新テクノロジーを導入。近未来の商業施設を感じさせる仕掛けが随所に見られる。

 押さえておきたいのがリアルとデジタルが融合したオムニチャネルショップ「パルコ キューブ」。5階中央の約430平方メートルの区画に、レディースブランド「キャンディストリッパー」など11店舗が集積し、ショールーム的機能を生かした販売方法にチャレンジしている。各店舗は従来の半分程度の面積で、店頭では戦略商品や限定商品を中心に絞り込んで展開。その他の商品や在庫がない色やサイズは、EC(電子商取引)で購入できる仕組みだ。

ファッションの売り場にテクノロジーを掛け合わせ、ECとリアルをつなぐショールーミングゾーン「パルコ キューブ」。約130坪のゾーンにレディスを中心とした11ブランドが出店している
ファッションの売り場にテクノロジーを掛け合わせ、ECとリアルをつなぐショールーミングゾーン「パルコ キューブ」。約130坪のゾーンにレディスを中心とした11ブランドが出店している

 これはテナント側の自社ECとパルコオンラインストアを連携させることで実現した。パルコオンラインで受注後、テナントの倉庫から顧客に直接発送する。売り上げはすべてテナントの渋谷パルコ店に計上される。「ECへの送客が消極的になりがちなので、すべて店頭売り上げとした。一番の特徴はアプリが不要な点。難しい作業を嫌がる女性客のために、なるべく簡単にしてウェブの仕組みを採用した。ECと連動することで売り逃しを減らせる」と、パルコ グループデジタル推進室デジタル推進担当業務課長の在田正弘氏は説明する。

 操作は共用部の大型サイネージやショップ内のサイネージ・タブレット端末でQRコードを読み取り、気に入った商品のデータをスマートフォンに転送して購入するだけ。「余分な作業はすべてテクノロジーに任せることで、テナントは接客やコミュニケーションの時間を最大化できる」(牧山社長)のが大きな利点だ。

 一部の店には試着時に自分の後ろ姿を見ることができる「キューブ ミラー」も設置。AIアシスタント機能を実装した自律走行式パーソナルアシスタントロボット「テミ」が、売り場の案内係として試験的に導入されている。テミはパルコと国内クラウドファンディング大手のCAMPFIRE(キャンプファイヤー、東京・渋谷)が共同運営するAIショールーミングストア「BOOSTER STUDIO by CAMPFIRE(ブースタースタジオ バイ キャンプファイヤー)」(1階)で購入可能だ。他には5階の吹き抜け空間に常設された、XR(VRやAR、MRなど、テクノロジーによる仮想空間演出)を使った、「3Dクリエイティブコンテンツ」の鑑賞サービスも面白い。

VRコンテンツアワードでパルコ賞を受賞したVR空間デザイナー、Discont氏によるデジタルインスタレーション作品を5階吹き抜け空間に常設展示。水槽に見立てた空間が、体験者のインタラクションによって変化していく架空のシミュレーターをイメージ
VRコンテンツアワードでパルコ賞を受賞したVR空間デザイナー、Discont氏によるデジタルインスタレーション作品を5階吹き抜け空間に常設展示。水槽に見立てた空間が、体験者のインタラクションによって変化していく架空のシミュレーターをイメージ

ファッションビルの本領発揮

 昨今、ファッション業界の低迷により、大型商業施設に出店するアパレルは似たような顔ぶれで新鮮さに欠ける。その点、若者文化をけん引してきたパルコらしく、ファッションフロアにおいても、独創的でエッジの効いたブランドや有力ブランドが集結している。各ブランドの世界観を前面に表現し、ファッションの楽しさを改めて気づかせてくれる挑戦的なフロアだ。

 公園通り側の1階正面入り口を入ると、「コム デ ギャルソン ガール」「グッチ」「トム ブラウン」「ロエベ」といったハイエンドブランドが軒を連ねる。グッチはミラーに覆われたシーリングライトやネオンによって、渋谷のストリート感を取り込んだ同店ならではの内装とVIPルームが印象的だ。2階には「イッセイ ミヤケ シブヤ」「アレキサンダーワン」「アンダーカバー」「トーガ」「ビューティフルピープル」、3階には「アンリアレイジ」「アンスリード」「ポール・スミス」など、ラグジュアリーからモード、ストリート、ヴィンテージまで約100のブランドが集積している。

公園通りに面して専用エントランスを設けた「グッチ」は、渋谷の街のポップなストリート感覚と、グッチのエレガントでコンテンポラリーな折衷主義を融合したユニークなコンセプトのショップ
公園通りに面して専用エントランスを設けた「グッチ」は、渋谷の街のポップなストリート感覚と、グッチのエレガントでコンテンポラリーな折衷主義を融合したユニークなコンセプトのショップ

 ファッションゾーンで特筆すべきは、パルコのDNAでもある「インキュベーション」を具現化し、ブランド育成を目的とした編集売り場「ガイザーパルコ」(3階)と「ポートパルコ」(4階)だ。百貨店が展開する自主編集売り場はよくあるが、デベロッパーが主体的に手掛ける編集売り場は珍しく、パルコとしては初の取り組みだ。

次世代のファッションデザイナーやブランドのインキュベーションを目的とした編集売り場「カイザーパルコ」。百貨店の自主編集売り場と比べ、ブランドの世界観を表現できる売り場づくりを行っている
次世代のファッションデザイナーやブランドのインキュベーションを目的とした編集売り場「カイザーパルコ」。百貨店の自主編集売り場と比べ、ブランドの世界観を表現できる売り場づくりを行っている

 ガイザーパルコには、レディースのデザイナーブランドや海外では有名だが日本で知られていないブランドなど、初直営店3店舗を含む8店舗が出店。売り場の内装と造作をパルコがプロデュースし、集合レジや共通フィッティングなどを設けて出店しやすい環境を整えた。海外を中心に展開する東京ブランド「ファンダメンタル」が商業施設内に初出店したほか、欧米中心に高い評価を得ているフットウエアブランド「フラワーマウンテン」が直営1号店を出店。「常設で店を出せるブランドは限られるうえ、新しさや面白さにも欠けるので、そこをクリアしたかった」(売り場担当の吉井達弥氏)という。

カオスな空間で昆虫スイーツを食す

 飲食ゾーンは「そこに集まり、コミュニティーを形成し、空間と時をともに楽しめるような場所」をコンセプトに編集された。地下1階「カオスキッチン」と7階「レストランセブン」などで全37店舗を展開する。

「食・音楽・カルチャー」をコンセプトに、飲食店と物販店が混在した食のゾーン「カオスキッチン」。天井と床の鏡面素材に店舗が映り込み、個性と多様さを増幅させながら広がっていくようなカオスな空間が登場
「食・音楽・カルチャー」をコンセプトに、飲食店と物販店が混在した食のゾーン「カオスキッチン」。天井と床の鏡面素材に店舗が映り込み、個性と多様さを増幅させながら広がっていくようなカオスな空間が登場

 ここ数年、食の強化を図ってきたパルコのなかでもユニークな取り組みといえるのが、飲み屋街をそのままビル内に再現したような「カオスキッチン」だ。コンセプトは「食・音楽・カルチャー」。個性的な飲食店21店舗が軒を連ねる路地風の通りには、レコードショップやフェスのオフィシャルショップ、占いの店も混在し、鏡面素材を使った演出でまさに混沌とした空間を作り出している。

 世界を救う食材と注目される昆虫料理とジビエを堪能できる「米とサーカス」や、ミシュランガイドのビブグルマン(5000円以下で満足度の高いお薦め店)にも掲載された代官山の人気ビストロ「アタズ」の新業態、五反田に本店を構え連日行列の立ち食いうどんの名店「うどん おにやんま」が商業施設初出店。ひと口サイズに切ったハンバーグステーキを鉄板カウンターで焼いて食べる福岡の人気店「極味や(きわみや)」が東京に初上陸した。

米国西海岸でミシュランに掲載され、連日大行列の人気ラーメン店「ジカセイ メンショウ」は国内10店舗目。WAGYU×RAMEN!をコンセプトにスーパーフードを麺に練り込んだヴィーガン担々麺や和牛醤油らぁめんを提供。Twitter本社でも使用しているワンハンドスタイルの縦型ラーメン器は少量の油分でもコクを出せるので、見た目よりも味はあっさりしている
米国西海岸でミシュランに掲載され、連日大行列の人気ラーメン店「ジカセイ メンショウ」は国内10店舗目。WAGYU×RAMEN!をコンセプトにスーパーフードを麺に練り込んだヴィーガン担々麺や和牛醤油らぁめんを提供。Twitter本社でも使用しているワンハンドスタイルの縦型ラーメン器は少量の油分でもコクを出せるので、見た目よりも味はあっさりしている

 ユニークなところでは、XRの企画・制作を手掛けるティフォン(東京・千代田)が展開する新業態「ティフォニウム・カフェ」で、AR(拡張現実)とスイーツを組み合わせた「魔法パフェ」を味わえるほか、創業53年の老舗喫茶店「はまの屋パーラー」が夜の時間帯はバーに変身する。新宿2丁目発のミックスバー「キャンピーバー」は、一杯ずつの会計システムなので、バー初心者も安心して楽しめそうだ。

「ティフォニウム・カフェ」は最先端技術を用いて魔法のような体験ができる新業態カフェ。「夜パフェ」でおなじみのガクがメニュー監修を手掛けた魔法パフェを注文すれば、タブレットでAR体験を楽しみながら時間を過ごせる。話題の新作タロット占いアトラクションも体験可能
「ティフォニウム・カフェ」は最先端技術を用いて魔法のような体験ができる新業態カフェ。「夜パフェ」でおなじみのガクがメニュー監修を手掛けた魔法パフェを注文すれば、タブレットでAR体験を楽しみながら時間を過ごせる。話題の新作タロット占いアトラクションも体験可能
新宿2丁目発のゲイカルチャーバー「キャンピーバー」は商業施設初出店。女装ウエートレスや個性的なキャラのスタッフたちが優しく出迎えてくれ、一緒に場を盛り上げてくれる。営業時間は18時~翌日5時まで
新宿2丁目発のゲイカルチャーバー「キャンピーバー」は商業施設初出店。女装ウエートレスや個性的なキャラのスタッフたちが優しく出迎えてくれ、一緒に場を盛り上げてくれる。営業時間は18時~翌日5時まで
「GG SHIBUYA mobile e sports cafe & bar(ジージーシブヤ モバイル イー スポーツ カフェ アンドバー)は、日本初のモバイルeスポーツを中心としたパブリックビューイングカフェ&バー。海外での世界大会を同時に体験できるオールナイトビューイング企画も
「GG SHIBUYA mobile e sports cafe & bar(ジージーシブヤ モバイル イー スポーツ カフェ アンドバー)は、日本初のモバイルeスポーツを中心としたパブリックビューイングカフェ&バー。海外での世界大会を同時に体験できるオールナイトビューイング企画も

デジタル世代に向けジャパンカルチャー充実

 「海外から来た人たちのサードプレイスを目指す。インバウンド比率は最低3割以上」と牧山社長が明言したように、訪日外国人を意識したフロアも充実している。「パルコ劇場」(2020年3月開業)、ミニシアター「ホワイト シネクイント」など5つのエンターテインメント装置と、「PARCO MUSEUM TOKYO(パルコ ミュージアム トーキョー)」など9つのギャラリーを開設。パルコ ミュージアム トーキョーでは建て替え工事の仮囲いに美術演出した「AKIRA ART OF WALL」を巨大コラージュ作品として展示中。コピーライターの糸井重里氏が主宰する「ほぼ日刊イトイ新聞」のほぼ日は、東京のカルチャーを紹介するショップ「ほぼ日カルチャん」(4階)とイベントスペース「ほぼ日曜日」(8階)をオープンした。

 6階には世界中のデジタル世代に向けて、ゲーム、キャラクター、マンガ、eスポーツの人気コンテンツを集積したデジタルとサブカルチャーのゾーンを設けた。任天堂の国内初の公式ショップ「ニンテンドートウキョウ」のほか、ポケモンの世界観をテクノロジーで再現した「ポケモンセンターシブヤ」、さらに「刀剣乱舞万屋本舗」など日本を代表するコンテンツホルダーが集結。グッズ販売だけでなく、五感で世界観を体感できるのが特徴だ。

 ラグジュアリーファッションからカオスなグルメ空間、最新のアート&カルチャーやデジタルの体験までそろい、パルコの本気度が伝わる新生渋谷パルコ。新たな挑戦が消費スタイルや街を変える起爆剤となるのか注目していきたい。

国内初となる任天堂の直営オフィシャルショップ「ニンテンドー トウキョウ」。ゲーム機本体やソフト、キャラクターグッズなどの販売はもちろん、常設の体験スペースで任天堂発売のゲームソフトを試遊できる。イベントやゲーム体験会も開催予定
国内初となる任天堂の直営オフィシャルショップ「ニンテンドー トウキョウ」。ゲーム機本体やソフト、キャラクターグッズなどの販売はもちろん、常設の体験スペースで任天堂発売のゲームソフトを試遊できる。イベントやゲーム体験会も開催予定

(写真/橋長初代)

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