タイプの異なる2つの言語学習アプリが日本市場への関わりを強めている。1つは世界中で人気の高い「Duolingo(ドゥオリンゴ)」。日本語話者向けに中国語学習コースを新設した。もう1つが、語彙学習に特化した「Drops(ドロップス)」。その特徴を生かし、アイヌ語の学習コンテンツを提供し始めた。アプリで言語を学習する傾向がさらに強まるかもしれない。

Duolingoの日本語サイトのトップページ
Duolingoの日本語サイトのトップページ

 2012年のサービス開始後、ユーザー数が既に3億人以上に達するなど、世界中で人気の高い言語学習プラットフォーム「Duolingo(ドゥオリンゴ)」は、19年11月20日から、日本語話者向けの中国語学習コースを新設した。ユーザーはDuolingoアプリを自分のスマートフォンにダウンロードして会員登録すれば、原則、無料で中国語を学ぶことができる。

Duolingoが新設した日本語話者向け中国語学習コースのアプリ画面
Duolingoが新設した日本語話者向け中国語学習コースのアプリ画面

112万人が英語学習コースを利用中

 Duolingoは04年に日本語話者向けの英語学習コースを開設し、日本市場に参入済み。日本でのDuolingoアプリの利用者数は約370万人(19年7月時点)。うち112万人が、英語学習コースを最低月1回利用するアクティブユーザーだという。「今回は日本市場のユーザーからの『中国語学習コースが欲しい』との声に応えて、コース開設を決めた」(ルイス・フォン・アン創業者CEO)。コース増設で日本市場へのさらなる浸透を目指す。

 そのDuolingoの人気が世界中で高い理由は主に2つある。1つは、ユーザーは原則、無料で受講できることだ。すべての学習コンテンツは1レッスン5分で構成され、レッスンが終わるたびに、Duolingoがユーザーのアプリに広告を配信する仕組み。Duolingoはユーザーには原則無料でアプリを利用させて普及を加速させ、そこから得られる広告収入を増やす作戦を採っている。広告を見たくないユーザーは、サブスクリプション(月額定額払い、価格は国によって異なる)も選べるが、その割合は全体の2%にすぎないという。

 もう1つは、リーディング、ライティング、リスニング、スピーキングの4分野の学習がゲーム感覚で学べるように、コンテンツの内容が工夫されていることだ。「言語学習の最大の課題は、学習者のモチベーションの維持にある。つまらない教材を我慢して使うよりも、楽しいツールで学ぶほうが、学習が継続し、言語を習得しやすくなる」(アン氏)。

アプリ開発を3チーム制で進める

 そのためDuolingoは、米国のピッツバーグに拠点を構え、「教育コンテンツチーム」80人、「エンゲージメントチーム」30人、「サブスクリプションチーム」25人という3チーム制の開発体制を採る。教育コンテンツチームは、どうすればユーザーが言語を学習しやすくなるかという教育的視点からコンテンツの内容を考える。エンゲージメントチームは、ゲーミフィケーションのノウハウを駆使して楽しく学習できる方法を考案。サブスクリプションチームは継続利用してもらうためにコンテンツをどう工夫すればよいかを考える。

 そのうえで、教育コンテンツチームは「質の向上」、エンゲージメントチームは「ログイン時間」、サブスクリプションチームは「収益」など、3チームそれぞれに異なるKPI(重要業績評価指標)が設定されており、「各チームから提案されたアイデアを実行すると別チームのKPIが下がる場合は、そのアイデアは採用しない」(アン氏)というルールで開発を進めている。「3つのチームのバランスを取ることで、教育効果を高めながら、ユーザーのモチベーションを保てる面白い学習コンテンツを開発することができる」(アン氏)わけだ。

 もう1つ。世界中に3億人以上という膨大なユーザーから収集しているデータを分析し、コンテンツの開発に反映させていることも、Duolingoの人気を高めている要因だ。AI(人工知能)を利用して、「このような学習態度を見せるユーザーには、このコンテンツを提供すると効果が高い」などと分析し、ユーザーごとに最適の学習コンテンツを提供する。つまり、「パーソナライゼーション」を実施して、ユーザーの満足度を引き上げているのだ。

日本でも英語能力検定試験の採用を目指す

 Duolingoは、日本市場で、さらに先も見据えている。実はDuolingoは、パソコンで受験する語学検定試験「Duolingo Proficiency Exam」を4年前に立ち上げた。米国では既に、多くの大学や企業が、TOEICやTOEFLのような既存の検定試験と並んで、英語能力を測る語学検定試験として採用している。特に大学は、スタンフォード大やコロンビア大、エール大、デューク大、UCLA(カリフォルニア大ロサンゼルス校)といった著名校を含む約700の大学が採用済みだ。

 短期間で急速に採用が広まった理由は、内容に定評があったことに加えて、主に2つある。まず低価格。TOEICやTOEFLといった既存の検定試験の受講料が250ドル(約2万6000円)前後なのに対し、Duolingoの検定試験は約50ドル(約5250円)と格安だ。加えて、受験者が会場に足を運ばずに、自宅の内蔵カメラ付きパソコンで受験できる。自宅受験の場合に懸念されがちな「なりすまし対策」も、パソコン内蔵カメラを通して、受験者が本人かどうか、誰かと入れ替わったりしないかどうかを受験時間中、人の目で監視する体制を整えて対応している。

 日本は大学の入学試験制度改革の真っ最中。英語の学力判定に複数の民間試験を導入しようと準備をしてきたにもかかわらず、入試直前の11月に導入延期を決断したばかりだ。地方と都市部の受験生、経済的な格差のある受験生の間で「公平性を保てない」というのが、導入延期の大きな理由だったが、安価でかつ自宅で受験可能なDuolingoの検定試験ならば、このハードルをクリアできる。「数カ月以内に日本にカントリーマネジャーを置いて、日本の大学はもちろん企業にも、検定試験の採用を働きかける」(アン氏)計画だ。

Duolingoのルイス・フォン・アン創業者CEO。グアテマラ生まれ、米国在住のエンジニアにして起業家。米グーグルが買収した「reCAPTCHA」(ユーザー登録などの認証画面で見かける数字と線などを組み合わせた画像)の開発者でもある
Duolingoのルイス・フォン・アン創業者CEO。グアテマラ生まれ、米国在住のエンジニアにして起業家。米グーグルが買収した「reCAPTCHA」(ユーザー登録などの認証画面で見かける数字と線などを組み合わせた画像)の開発者でもある

アイヌ語学習コンテンツの提供を開始

 日本に攻勢をかけているもう1つの言語学習アプリが、エストニアに本社を置き、15年からサービスを開始した「Drops(ドロップス)」だ。全世界で約1500万(19年11月時点)のユーザーがダウンロードして利用している。

 Dropsは、英語やスペイン語、中国語、日本語、アラビア語といった主要言語の学習コンテンツに加え、19年11月15日、UNESCO の国際先住民族言語年(IYIL2019)の活動の一環として、同アプリで学習できる37番目の言語として、また世界で初めてのデジタルアプリ教材として、「アイヌ語(北海道南部の白老方言)」の学習コンテンツの提供を開始した。DropsとIYIL2019、それにアイヌ研究に特化した研究機関である北海道大学アイヌ・先住民研究センターが互いに協力し、約半年間かけて開発してきた。「消滅の危機にあるとされるアイヌ語の話者を、維持・拡大する助けになりたい」(ダニエル・ファーカス共同創業者CEO)という。

Dropsが提供を開始したアイヌ語学習コンテンツのアプリ画面イメージ
Dropsが提供を開始したアイヌ語学習コンテンツのアプリ画面イメージ

 他の言語アプリと異なるDropsの大きな特徴は、「ハワイ語」や「マオリ語」、「サモア語」といった世界の先住民族の言語を学べることだ。これは、語彙の学習に特化したDrops独特の学習方法のおかげである。

 通常の外国語学習では大抵、母国語と外国語の単語を結び付けて語彙を取得する。しかしDropsでは、ビジュアルで表現したイメージと外国語の単語を結び付けて示し、ユーザーに語彙の理解を促す学習方法を採る。例えば、「コーラ」という単語を理解させる場合、コーラの瓶のビジュアルイメージを示し、同時に対応する言語の発音を示すといった具合だ。加えて学習時の操作は、キーボード入力などが不要で、アプリの画面をスワイプするだけ。複数の選択肢の中から正解を選ぶなどゲーム形式で進むため、Duolingoと同じく、「楽しみながら言語の語彙を学習することができる」(ファーカス氏)。

Dropsで最も人気がある言語は日本語

 この学習方法のため、世界のどこに住んでいて、どんな言語の使い手でもあっても、Dropsが提供する言語をどれでも学ぶことができる。実際、現在、提供している37の言語のうち、「世界中で最も人気が高く学習者が多いのは、日本語」(ファーカス氏)だという。他の学習方法では日本語の習得は難しいと思われている半面、Dropsの学習方法なら習得できると思われている可能性が高い。

 語彙の学習に特化した理由をファーカス氏はこう語る。「とりあえず単語を知っておけば、ある程度のコミュニケーションは成り立つ。文法や会話などはその後、対面で学習すればよい。スマホアプリで言語学習のすべてを完結できるとは考えていない」。

アプリに単語の文字を書き込んで学習する機能。一部言語で採用
アプリに単語の文字を書き込んで学習する機能。一部言語で採用
ARを使って文字を学習する機能。研究開発中
ARを使って文字を学習する機能。研究開発中

 もっとも、単語を知るだけでなく、書けるようにするための機能向上には取り組んでいる。アプリに直接、単語の文字を書き込む方式を18年11月に、一部の言語について試験的に採用した。さらに、AR(拡張現実)技術を使って、アプリの画面上に示された見本をなぞるようにして、実際にペンと紙などを使って練習できる機能も研究開発中だ。

 Duolingoと異なり、Dropsは広告モデルを、収益を稼ぐ主流として位置付けていない。ユーザーは1日5分までならアプリを無料で利用できるが、それ以上利用したい場合は月額9.99ドル(約1050円)、年額69.99ドル(約7350円)の対価を払って利用することになる。

ダニエル・ファーカス共同創業者CEO(左)、ドリュー・バンクスCCO(中)、マーク・スズリオフスキー共同創業者CTO(右)
ダニエル・ファーカス共同創業者CEO(左)、ドリュー・バンクスCCO(中)、マーク・スズリオフスキー共同創業者CTO(右)

 Duolingoは将来の株式上場を検討し、逆にDropsは「上場を考えていない」(ファーカス氏)と今後の方針に違いはあれど、ともにビジネスは順調に推移している。Duolingoは3年前に黒字転換して以降、稼ぎ出した利益が、17年1300万ドル(約13億6500万円)、18年3600万ドル(約37億8000万円)と増え、19年は9000万ドル(約94億5000万円)を見込む。Dropsの売り上げは非開示だが、「16年に前年の10倍、17年には同じく10倍、18年には同じく5倍に増えた」(マーケティング責任者のドリュー・バンクスCCO)という。どちらのアプリもこの勢いを駆って、今後、日本での存在感を増していきそうだ。

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