東急やJR東日本が、静岡県の伊豆エリアで取り組む観光MaaS「Izuko(イズコ)」。その第2弾の実証実験が、2019年12月1日から始まる(2020年3月10日まで)。今回はMaaSアプリではなく、Webブラウザによるサービス提供に切り替えた。新生Izukoの中身とは?
19年4月、日本初の観光MaaSアプリとして実証実験が始まった「Izuko(イズコ)」(関連記事「『MaaS元年』の幕開け 官民突き動かす『周回遅れ』の危機感」)。ダイムラー傘下のMaaSプラットフォーム提供企業であるmoovel(ムーベル)のシステムを活用していたが、「操作性などの使い勝手の改善や、デジタルチケットを増やすといった機能拡張をしたくても、アプリだと迅速に対応しづらかった」(東急の都市交通戦略企画グループ課長、森田創氏)という。
そこで今回、ムーベルとの協業は解消して、Webブラウザベースのサービスに切り替えた。新たに採用したのは、ジェイアール東日本企画が開発する電子チケットプラットフォーム「wallabee(ワラビー)」と、公共交通や自転車シェアリング、オンデマンド交通の複合経路検索に対応可能なヴァル研究所の「mixway(ミクスウェイ)」だ。
ワラビーはクレジットカードを登録することで、電子チケットの購入から利用までブラウザで完結できるサービス。ユーザーがチケットを利用する際は、スマホの購入画面を見せて店舗側が「電子スタンプ」で認証する仕組みだ。電子スタンプは電源・通信設備が不要で、店舗側の導入負担が少ないため、キャッシュレス化が進んでいない観光地でも受け入れられやすい。導入店舗や交通広告などでQRコードを掲出すれば、ユーザーは直接サイトにアクセスできるため、「チケットの購買につながりやすくなり、移動中の車内で目的地に到着した後の旅行計画を立てるといったことも期待できる」(森田氏)という。一方で、脱アプリ化のデメリットとしては、プッシュ通知ができないことが挙げられる。
スマホゲーム×観光MaaSも検討
Webブラウザ版の新生Izukoでは、サービスを大きく拡充している。まず、伊豆エリアを割安な料金で周遊できる交通のデジタルフリーパスは、以前2種類だったものが6種類に拡大。新たにJR伊東線(熱海駅―伊東駅間)が加わった他、熱海市内のバス乗り放題チケットなどを追加した。また、沿線の観光施設の優待チケットであるデジタルパスは、7種類から12種類に増加。伊豆・三津シーパラダイスや十国峠ケーブルカーなどが新たに追加され、スマホ上でチケットを購入しておけばキャッシュレスで入場可能となる。
そして、伊豆急下田駅周辺で展開していたオンデマンド乗り合い交通については、運行範囲を広げ、乗降場所を以前の16カ所から27カ所に拡大。1日乗り放題で400円のチケットを売り出す他、地元ユーザー向けに自宅のテレビからオンデマンド交通の配車予約をできるシステムを試験的に導入する。こちらは、東急グループのイッツ・コミュニケーションズが開発した「テレビ・プッシュ」サービスを活用した取り組みだ。当初は経路検索結果にオンデマンド交通は含まれないが、今後は経路検索結果から予約できるようにする予定という。
また、新生Izukoでは、日帰り観光が多いという伊豆エリアの課題解決のため、ホテルや旅館との連携も進める。具体的には、当初9カ所の宿泊施設でチェックイン時にデジタルフリーパスなどを提示すると、土産物店の1000円分の割引券をもらえるようにする。また、伊豆急を舞台にした謎解きイベントや鉄道車両の撮影ツアーなどとデジタルフリーパスの連携、オンデマンド交通の停留所の1つになっているスーパーでの買い物に対して5%割引を行うといった取り組みも行う。「観光MaaSで重要なのは『旅の文脈づくり』。今後はポケモンGOのような位置情報ゲームとの連動企画や、観光地で仕事をする『ワーケーション』で活用しやすい仕組みなど、観光MaaSの魅力アップを検討していきたい」(森田氏)と話す。
第1弾のアプリでは、デジタルチケットの販売数は目標の1万件に対して1045件にとどまった。だが、第2弾の今回は、Webブラウザベースで利用のハードルを下げ、デジタルチケットを大幅に充実させたことで、販売数1万件の達成を目指すという。地域に人を呼び込むと同時に、地元の交通課題も解決する観光MaaSの成功事例となり得るか、注目される。