良品計画は2019年11月1日、食の大型専門売り場を備える新業態の2号店「無印良品 京都山科」をオープンした。生鮮食品やグロッサリーの他、総菜や菓子の専門店も多数導入。食を通じて地域とつながる店舗づくりは、閉店が相次ぐ地方・郊外百貨店や商業施設の後継テナントとしても期待を集めそうだ。
専門店を導入した“食のセレクトショップ”
「無印良品 京都山科」が進出したのは、JR山科駅前に立地する商業施設「ラクト山科ショッピングセンター」の地下1階~地上2階。2019年3月まで大丸山科店が営業していたフロアに、無印良品は後継テナントとしてオープンした。売り場面積は3フロアで約3934平方メートル。18年3月にオープンした「イオンモール堺北花田店」に次ぐ関西最大級の広さを誇る。地下1階が食品とフードコート、1階がCafé&Meal MUJIとキッチン用品、子供服、ヘルス&ビューティー、ステーショナリー、スイーツ専門店、2階が婦人服、紳士服、インテリア家具、収納用品などで構成。店舗の約3割強を占めるのが食の専門売り場だ。
無印良品の食品といえば、レトルト食品や菓子、冷凍食品が人気だが、生鮮まで含めた本格的な食品売り場を開設したのはイオンモール堺北花田店が初めて。旧有楽町店で産地直送野菜を販売したことはあるものの、鮮魚や精肉、総菜などは初めての取り組みだったため、京阪グループとの協業により“無印良品の食品スーパー”をオープンさせた。その2号店が「無印良品 京都山科」だ。今回はラクト山科のリニューアルを手掛ける京阪流通システムズが誘致し、同社は食品売り場の運営管理全般を担うという。
堺北花田店での経験とノウハウが生かされているのと同時に、京都山科店では新たにチャレンジした点がある。それは無印良品のオリジナルブランドの他に、他社の専門店ブランドを複数導入したことだ。売り場では無印良品ブランドの統一イメージを打ち出しているが、他社のブランドをショップインショップ形態で展開するのは初めての試み。そのために協業パートナーを4社から12社に増やし、農家や漁港など生産者だけでなく、調味・加工の専門店とも協業した。
協業するパートナーは「可能な限り無添加の素材を自分たちの目で選んで仕入れ、生産者とつながりがあることが条件。食文化をただ引き継ぐだけでなく、革新しながら新しい食文化を作ろうとしている店に専門店の形態で出店してもらった」と、同店コミュニティマネージャーの松枝展弘氏は話す。
食品売り場の形態も堺北花田店はスーパーマーケットそのものだったが、京都山科店はデパ地下のコンパクト版といった印象だ。青果、精肉、鮮魚、日配品、オリジナルブランドの売り場に加え、ベーカリー専門店、弁当・総菜専門店、スイーツ専門店、フードコートを配置。地元の生産者らとの協業に取り組み、食のセレクトショップを目指すという。
食材調達でパートナー同士の連携も
「どんな人がどんな思いで工夫して作っているのかを知った瞬間に、商品の価値が分かり、おいしいと感じられる。その心動く瞬間を、商品とともに届けることが我々の重要な役割。地域の人と共有するスペースとして、背景にある物語や食にまつわる情報を伝えていきたい」と松枝氏は語る。
例えば京野菜を使った新感覚の漬物「漬け野菜」を量り売りする専門店「イソイズム」は、京都の自家農園と協力農家などから仕入れた旬の野菜を独自技法で漬け、サラダ感覚で食べやすくした。食品添加物に頼らない味付けで作る家庭料理の総菜店「咲菜(さかな)」は、「おいしい、安心安全、健康、出来たて、手作り、便利」がモットー。心を込めて作った総菜や弁当を、顧客との交流を大切にしながら提供する。1階には京都の地豆腐店が手掛けるスイーツ専門店「あまいもん京都久在屋」がアンテナショップを出店。契約農家が生産した国産丸大豆を原料に作った豆腐やおから、豆乳を使った体に優しいロールケーキやプリンなどのスイーツを販売する。
パートナー企業とは新商品の共同開発に取り組む他、パートナー同士の連携も進んでいる。例えば惣菜屋「咲菜」で使う野菜は、Café&Meal MUJIにも提供されている。ベーカリー「ブーランジェ オクダ」では、青果売り場に新鮮な野菜が入荷すればパンの材料に使う。「パートナー同士の連携は、食の分野に後発で参入した無印良品だからこそ実現できた。同店の強みになっている」(松枝氏)
食の売り場を強化する狙いとは
無印良品の売り上げ全体に占める食品の構成比率は2018年度で7.6%にとどまる。これを将来的に30~40%まで高める計画だ。18年にはチルドスイーツや冷凍食品など商品カテゴリーを拡大すると同時に店舗の大型化を推進し、売り上げ増を図っている。
食を強化する理由は他にもある。デイリーニーズの高い食品を充実させれば、顧客の来店頻度が高まり、キッチン用品など生活雑貨のついで買いを促せる。先行する堺北花田店では食品の売上比率が店全体の約5割を占めるという。その結果、無印良品の平均来店回数は月1~2回だが、堺北花田店では大幅に増加した。客層も拡大して既存店と比べて50~60代が3割以上多く、これまで取り込めていなかった層が来店したことでハウスウエアや収納用品、家具が売れている。
こうした状況を受け、「ターミナル駅で乗降客数が多い山科駅前の立地なら、地元客や鉄道利用者が気軽に立ち寄れ、高い来店頻度を見込める」と松枝氏は期待する。客数が見込めれば広い売り場を確保できることから、京都山科店のインテリア売り場では、実際の家のようなしつらえも見られ、通常店ではできなかった演出が可能となった。
地方の困っている館を立て直したい
京都山科店オープンに際し、良品計画の金井政明会長は今後の店づくりの考え方についてこう語っている。
「これからは地域の人たちが健全な経済活動に参加し、豊かな文化を共に育てて人間的に温かい社会を共創していく時代。その本拠地に無印良品はなりたい。近代小売業は作る人と食べる人を分断してしまったが、顔が見える関係が大事になる」
堺北花田店では、生鮮食品の約3割を地域の農家や漁港など生産者から直接仕入れることにした。スタッフ自ら産地を訪ねて取材リポートを作成し、イベントなどを通じて生産者と消費者をつなげる取り組みにも力を入れている。「地域と交流して店を育てていくのがこれからの出店のあり方」と松枝氏は考えている。
良品計画は19年4月、東京・銀座に世界旗艦店を開業(関連記事「無印良品の新旗艦店、見どころは『青果売り場』や『弁当販売』」)。グローバルな立地への出店を続ける一方、昨今、閉店が相次ぐ地方百貨店や郊外百貨店、地方の再開発事業からの要請にも応えていく意向だ。金井会長は「地域に入り込みながら地元の食材で商いされている方とともに、困っている館をなんとか立て直していきたい。自治体とも連携し、これからの時代に合った商空間をつくれるのではないかと思う」と意欲を見せる。縮小する国内市場の掘り起こしを目的に着々と進むローカライズ戦略が、疲弊する地方の救世主となるか注目される。
(写真/橋長初代)