「TikTok」に代表されるショートビデオなど、動画配信のトレンドで日本の先を行く中国。今年急速に伸びているのが、日常生活を飾らずに10~20分の動画で紹介する「Vlog(ブイログ)」だ。背景にあるのは、インフルエンサーの投稿が過剰に広告目的化したことがある。これに対し、日本ではユーチューバーの重要性は揺るがないと関係者は見る。

中国の有力インフルエンサーが配信した日本への旅行のVlog(ブイログ)
中国の有力インフルエンサーが配信した日本への旅行のVlog(ブイログ)
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 中国・深センの全天球カメラメーカー・Arashi Vision(ブランド名は「Insta360」)が2019年10月、新たな事業領域に参入した。親指サイズと極めて小さいアクションカメラ「Insta360 GO」だ(参考記事:「「親指サイズのアクションカメラ AIサポートの編集機能も画期的」」)。

 これまでのアクションカメラは防水性や耐衝撃性、手ぶれ補正の性能の高さが売りで、スポーツなど動きの激しい撮影に主眼が置かれてきた。これに対してInsta360 GOは重さが18.3gと極めて軽く、付属のマグネットやクリップを使い、服やキャップに取り付けて使える手軽さが売り。軽く押すだけで30秒(設定により最大1分間)の動画撮影ができるほか、静止画を連続撮影するハイパーラプスなら最大8時間記録することができる。撮影した画像は、スマホアプリが人工知能(AI)で自動編集(iOS版のみ)。ベストショットを切り出し、BGMを付けてダイジェスト動画が生成される。日常の出来事を撮影して、SNSに投稿する「ウエアラブルカメラ」とでも言うべき、今までにないカテゴリーの製品だ。

「Insta360 GO」のサイズは親指程度と極めて小さい(写真提供/Arashi Vision)
「Insta360 GO」のサイズは親指程度と極めて小さい(写真提供/Arashi Vision)
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服などに取り付けて撮影が可能(写真提供/Arashi Vision)
服などに取り付けて撮影が可能(写真提供/Arashi Vision)
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ウエアラブル撮影した例(写真提供/Arashi Vision)
ウエアラブル撮影した例(写真提供/Arashi Vision)
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 商品企画の背景として、Arashi Visionは中国での「Vlog(ブイログ)」ブームを挙げる。VlogとはVideo Blogの略。ブログのように、日常の出来事を動画で紹介するもので、特に作り込まれた凝ったコンテンツではない。

 中国のトレンドを分析し、プロモーション戦略などを支援しているトレンドExpress(東京・千代田)のプランニング部長・神林珠希氏によると、「18年がVlog元年だった」という。その前の16年にはライブ動画がはやり、17年には「抖音(Douyin)」などのショートビデオがはやった。抖音は「TikTok」の名前で日本にも進出し、若者の支持を得ているのはよく知られている通りだ。

 TikTokでダンス動画が好まれることからも分かるように、ショートビデオで目を引くコンテンツの主流は派手でインパクトがあるもの。ここまでは中国も日本と同じだ。しかし、大きな違いが一つある。日本のTikTokは商品の直接的なPRが商用利用として禁止されているのに対し、中国の抖音にはECへのリンク機能が実装され、プロモーション投稿が可能なのだ。そのため、有力インフルエンサーの多くが広告目的のショートビデオを投稿。「広告ばっかりという印象が根付いてしまった」(神林氏)。

 同じような評価は抖音だけに限らない。中国版Instagramと言われる「小紅書(RED)」に至っては、アプリ内で商品が買える仕組み。SNS型ECアプリとも呼ばれ、商用目的の投稿が席巻している状態だ。

 商品紹介という狙いが見え見えの投稿が増えるにつれ、人々が求め始めたのが、飾らない日常生活を垣間見ることができるVlogだった。19年6月に中国の調査会社iiMedia Researchが公開したリポートによると、中国のVlog利用者は18年に1億2600万人だったのに対し、19年には2億4900万人へと倍増。高速大容量の次世代通信規格「5G」が商用化されることから、同社は20年には3億6800万人、21年には4億8800万人まで増加すると予測している。

 同社の調査によると、Vlogユーザーの87%が休息や娯楽目的で視聴していると回答。また平均視聴時間は10~20分と、15秒に限られているショートビデオとは大きく異なる。視聴するタイミングについては、半数以上のユーザーが食後あるいは就寝前を挙げており、ある程度まとまった時間がある時に見ているようだ。

 有望なVlog市場を獲得しようと、動画プラットフォーム間の競争も激しくなってきている。最も早くVlogを取り込んだのが、中国版Twitterの「微博(Weibo)」。19年に入ると、抖音が動画の15秒制限を緩和して、より長尺の動画の投稿を認め始めた。動画共有サイトの「bilibili」もVlogの投稿コンテストを行うなど、ブイロガー(Vlogの投稿者)の獲得に余念がない。

Vlogでもプロモーションはできる

 「コンテンツの作り込みがない」「日常生活が垣間見られる」というと、淡々とした映像かと思いがちだが、そこは日本人と中国人の意識の差があるもよう。実際に投稿された作品を視聴してみると、ノリは日本のユーチューバーとそう変わらないような印象だ。「商品を直接的にアピールすることは難しいが、使用感などをさりげなく伝えることはできる」(神林氏)。

 中国国内では既にスマホメーカーのOppoや高級ブランドのルイ・ヴィトンなどが有力ブイロガーを使ったプロモーションを展開。トレンドExpressも日本企業に対して、中国人への訴求にVlogを活用する提案を始めているという。その一つの例が、「MIMARU」というホテルを運営するコスモスホテルマネジメント(東京・港)のプロモーションだ。

 MIMARUは大人数で宿泊できるのが売りの、訪日外国人客をターゲットに据えたアパートメントホテル。台湾のブロガーを起用して台湾での知名度は上がったが、中国大陸からの訪日客の獲得が課題になっていたという。そこでトレンドExpressは、旅行関連の情報発信をしているインフルエンサー「KiKiWiWi看世界」氏にホテルに宿泊してもらい、ライブストリーミングアプリ「一直播(yizhibo)」で配信することを提案した。

 KiKiWiWi氏は19年7月に夫、子供と来日。京都のMIMARUに宿泊し、約48分のライブ動画を配信した。

 KiKiWiWi氏は冒頭からMIMARUのロゴ入りの法被を着て登場。ただ、いきなりホテルの紹介をするのではなく、まずは京都の町中を散策し、フォロワーから来るメッセージに対話する形で撮影を進めていった。ホテルに到着したのは、配信を始めて10分ほどたってから。まずロビーにあるキッズスペースなどの設備を紹介し、その後フロントの中国人スタッフにお薦めの観光スポットを質問し始めた。

 結局、スタッフに客室へと案内され、設備の説明が始まった時には、既に配信開始から30分が経過していた。配信の終盤になると、部屋でくつろぐKiKiWiWi氏の夫や子供が登場。ホテルのPRという要素は控えめにして、あくまでも旅行に来た様子を紹介する体で配信は終わった。

自撮り棒に取り付けたスマホで撮影。終盤にはKiKiWiWi氏の子供が登場し、家族旅行を垣間見るような印象を与える
自撮り棒に取り付けたスマホで撮影。終盤にはKiKiWiWi氏の子供が登場し、家族旅行を垣間見るような印象を与える
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 今回のプロモーションに当たっては、家族で楽しめる京都の観光スポットを事前にレクチャー。また、ロビーにキッズスペースがあり、部屋にも子供向けの備品が用意されていること、訪日客が客室でどのように過ごしているかなども情報提供したという。夫や子供連れというのも、ファミリー向けというMIMARUのコンセプトと合致したもの。つまり、ホテル側のアピールポイントは不足なく盛り込まれていたのだ。

 KiKiWiWi氏のライブ動画の閲覧回数は平均で200万回程度のところ、この動画は400万回を記録。ホテル側からは継続してVlogでプロモーションを行いたいとの意向が示されているという。

日本ではユーチューバーが依然として強い

 では、Vlogの波は日本へやってくるのだろうか。

 ウエブを使った広告マーケティングを行うゴンドラ(東京・中央)マーケティング推進部の俵翼氏は「5G時代になると、短時間でより多くの情報が得られる動画への移行が加速するはず。ただし、中国のブイロガーのスタイルは日本のユーチューバーとそう変わらず、プラットフォームもYouTube以外は考えにくい」と話す。若者の中には、YouTube上でキーワード検索をする人が増えており、「恐らくGoogleと並ぶ検索プラットフォームになるのではないか」(俵氏)。

 そこで同社では、ユーチューバーによるプロモーション動画の制作に加え、コンテンツ内でTwitterのハッシュタグキャンペーンを紹介し、情報を拡散させる方法を提案。キャンペーンの事務局対応を含めてワンパッケージで提供するサービス「MOVE CAMP」を始めた。情報を拡散する力があるSNSとしてはInstagramもあるが、俵氏は「ブランディングには使えるが、外部サイトへのリンクが貼れないので個別商品のマーケティングには不向き」という。

 YouTubeで配信するコンテンツについては「開始30秒くらいから離脱するユーザーが増えるが、1分を過ぎると落ち着いてくる。5~10分が適正と見ている」(俵氏)。また、中国のインフルエンサーのように表立って広告とうたわない点に関しては、日本で通用するかどうか否定的。俵氏は「ユーチューバーは身近な存在と捉え、応援している視聴者が多い。率直にプロモーションの仕事がもらえたと伝えるほうが、共感を得やすい」と考えているという。

 中国と同様に、今後日本でも動画マーケティングの重要性は増しそう。ただし形態としてはこれまで通りYouTube+ユーチューバーが軸になる。その中で、いかに工夫を施して視聴者からの共感を得るかが問われる。

■修正履歴
記事掲載当初、トレンドExpressの社名の表記に誤りがありました。現在は修正済みです。[2019/11/28 18:15]