サイボウズの総合イベント「Cybozu Days 2019 モンスターへの挑戦状」が2019年11月7、8日幕張メッセで開催された。社内で仕事や働き方改革を停滞させる“思い込み”の正体と、それを捨てる方法が見えてくる内容だった。

大勢の来場者でにぎわった「Cybozu Days 2019 モンスターへの挑戦状」。12月5、6日には大阪でも開催される
大勢の来場者でにぎわった「Cybozu Days 2019 モンスターへの挑戦状」。12月5、6日には大阪でも開催される

 Cybozu Daysは2016年から毎年様々なテーマで開催されている。今年のテーマは「モンスターへの挑戦状」だ。11月8日に行われた基調講演ではサイボウズ社長の青野慶久氏が登壇し、「モンスター」が仕事や働き方改革を停滞させると訴えた。

 青野氏がいうモンスターとは、人が心の中で作り出してしまっている実在しない「思い込み」のこと。世の中には男らしく女らしくなど様々な思い込みがあり、それに支配されて苦しんでいるのではないかというのだ。

サイボウズ代表取締役社長 青野慶久氏
サイボウズ代表取締役社長 青野慶久氏

 会社には多くの思い込みが存在する。「『会社のために頑張らないと』など、実体のない思い込みに苦しめられているのではないか。会社は人が幸せになるためのものなのに、それに支配され、不幸になってしまうのはおかしい」(青野氏)

モンスター化した会社が人を苦しめる
モンスター化した会社が人を苦しめる

 だが青野氏は「会社というモンスターはいない。そこにいるのは人間だ。言葉で同僚や上司、お客様と話し合っていくことが大切」と話す。つまり思い込みから脱却するには、コミュニケーション力を高めることが有効だと訴えた。そしてゲストを招き、思い込みを捨てて製品開発やマネジメントを推し進めた事例を紹介した。

 PHP研究所 PHP新書副編集長・大岩央氏は、青野氏が18年2月に出版した『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)の編集者だ。彼女にとっての思い込みは会社は企画に反対するというものだったが、青野氏の著作を編集するうちに対処法が明確になったという。

PHP研究所 PHP新書副編集長 大岩央氏
PHP研究所 PHP新書副編集長 大岩央氏

 「本を編集していくうちに『会社さん』はいないんだと学んだ。社内で企画に反対されても、実際に反対しているのは会社ではなく人であり、その人に届くような言い方で伝えて戦えるようになった。戦い方が明確になった」(大岩氏)という。

 大岩氏は企画に反対する思い込みと戦うために大切なこととして、力をつけて会社にとって役立つ人材になること、言葉にして会社に自分がどう思っているか伝えること、仲間を作ること、の3つを挙げた。

 宿題をなくした先生として知られる、千代田区立麹町中学校校長・工藤勇一氏は、宿題を与える行為は先生から生徒への一種のサービスだという。彼が考える思い込みは、指示(=サービス)は先生から与えられるものというものだ。会社に置き換えれば指示は上司から与えられるものといえるだろう。

 「サービスを与えられることに慣れすぎた人は、うまくいかないことがあると必ず他人のせいにするようになる。誰かを批判する、誰かをたたく、誰かのせいにする子供ばかりになってしまう」(工藤氏)と語る。

千代田区立麹町中学校校長 工藤勇一氏
千代田区立麹町中学校校長 工藤勇一氏

 解決法は、生徒に決定権を与えることだ。

 「権限を与えると、自分たちで考えて行動するようになる。例えば、生徒たちが委員会活動をやめてボランティア方式にしたいと言ってきた。委員会方式だとやらされている感覚になるのだそうだ。そこでボランティア方式にしたところ、委員会方式の頃よりも活動に参加する人数が増えた。活動の質も変わり、昨年と同じ活動で済ませようというのではなく、様々なゼロベースのアイデアが出るようになってきた」(工藤氏)

 会社でも部下に権限を与え、当事者にすることで工夫が生まれる。そうした環境がリーダーを育てる。指示は上司から来るものという思い込みはすぐに捨てたほうがいいだろう。

働き方改革のために必要なのは風通しのよさ

 基調講演以外にも注目の講演がいくつかあった。例えば、8日の午後にはワンキャリア最高戦略責任者、レントヘッド代表取締役、作家の北野唯我氏を招いて「働き方改革と『天才、秀才、凡人』の関係性とは? 『天才を殺す凡人』著者 北野唯我さんと語る、組織変革の罠」と題した講演が行われた。

ワンキャリア最高戦略責任者、レントヘッド代表取締役、作家の北野唯我氏
ワンキャリア最高戦略責任者、レントヘッド代表取締役、作家の北野唯我氏

 北野氏は、人や会社に対する期待値が高すぎることが不幸を生むのではないかと語る。

 日本の企業で従業員に「満足していないこと」を調査すると、人材の長期育成が断トツだという。しかし企業のトップを調査すると、人材育成に力を入れていると思っている人が多いそうだ。北野氏は「食い違いが大きい。みんな会社に対して期待しすぎではないか。そんな会社はこの世に存在しない。自分のキャリア、長期的育成は自分自身が設計しないといけない」という。

 「期待値をコントロールすることが大事。自分と違う価値観を持っている人がいるという前提があれば、期待値は適正になる」(北野氏)

 また北野氏は、平成の30年間で伸びた会社と落ちた会社の違いを調べたところ、伸びた会社の特徴の一つに風通しのよさという風土があるという。

 「伸びた会社には、なんとなく働きやすい、なんとなく意見を言いやすいという空気がある。職場の風通しがいいと、正の影響が出て業績が上がる。職場の空気が利益につながる」(北野氏)

 ただし風通しのいい組織では、衝突も多く起きる。そのとき大切なのは「やさしさ」だ。

 「やさしさには2種類ある。自分の意見を言わずに相手の意をくみ取ることと、自分の思っていることを言って相手の意見も聞くことだ。風通しのいい組織に必要なのは後者」(北野氏)

 ほぼ満席となった会場から多くの質問も寄せられ、来場者の関心の高さがうかがえる講演となった。

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