スノーピークは2020年4月、長野県白馬村に隈研吾氏設計の新たな体験型複合施設を開業する。観光案内所や国内最大規模となる直営店を設置し、スターバックスなど知名度の高い飲食店も誘致。エリア開発を通じて一帯を海外戦略の柱となる観光都市にするのが目標だ。
白馬エリアの通年リゾート化を推進する新拠点
国内有数のスキー場を有する長野県の白馬周辺地域は、ここ数年スキーやスノーボード目的の海外客を狙ったホワイトシーズン頼みの産業から脱却するため、春から秋の“グリーンシーズン”に向けた様々な動きを活発化させている。アウトドアメーカーのスノーピークは19年1月に白馬村との間で包括連携協定を締結。2019年11月8日にはその一環である体験型複合施設「Snow Peak LAND STATION HAKUBA(スノーピークランドステーション白馬)」の概要を明らかにした。
新施設の設計は新国立競技場の設計にも携わった建築家で東京大学教授の隈研吾氏。デザインは人が自然に帰っていく時代を表し、屋根の形は白馬三山のシルエットをヒントにしたという。「地域の自然と人々の温かさ、自然の中での活動、そういうものが全部ここで一体になるような、(まさに)『ステーション』というのはぴったりな名前。白馬三山に向かって屋根が開く構成に、ガラスを多く使った。みんなが使いやすい、集まりやすい、そういったものが世界のリゾート施設の中でも白馬らしい施設になるのではないか」と同氏は話す。
屋外には地元の人々がマルシェなどを通じて観光客と交流できる「イベントエリア」、木が生い茂る森の中で手軽にキャンプ体験ができる「野遊びエリア」がある。野遊びエリアには同じく隈氏がスノーピークと共同開発した木製のトレーラーハウス「住箱-JYUBAKO」(2台)があり、宿泊が可能だ。
施設内にはスノーピークにとって国内最大規模となる直営店が出店し、アウトドア用品や地元の物産品を販売する。最寄りのJR白馬駅からのアクセスの良さを生かし、白馬村観光局が運営するインフォメーションも入居。周辺エリアの観光情報を入手したり、各種施設の予約ができたりするなど、公共性の高いサービスも受けられる。
飲食関連にも力を入れる。住民と観光客がつながりを持てる場を充実させるため「ミシュランガイド 東京」で三つ星獲得の「神楽坂 石かわ」の店主・石川秀樹氏が監修する「スノーピークレストラン」やスターバックスが出店する。
石川氏はスノーピークの本社がある新潟県燕三条の出身。レストラン内で料理を提供するほか、店舗の外でもクッキングイベントやアウトドアディナーなどの体験プログラムを展開し、生産者と消費者がつながる機会の創出に取り組む。
スターバックスは白馬の近隣地域では初出店となる。隈氏の設計する建物の中でスノーピークの椅子に座り、雄大な山岳風景を眺めながらコーヒーが飲めるのがポイントだ。隈氏とスタバとのコラボレーションは、国内では太宰府天満宮表参道店、スターバックス リザーブ ロースタリー 東京に続く3店舗目となる。白馬の店舗ではコーヒーセミナーなども開催する予定で、人と人との交流を後押しする考えだ。
海外展開の「戦略拠点」の役割を課した狙い
スノーピークは18年9月、白馬村を中心に事業を展開する子会社「スノーピーク白馬」を白馬観光開発(長野県北安曇郡白馬村)と共同で立ち上げた。スノーピークランドステーション白馬の運営は同社が手掛ける。
共同会社設立のきっかけは、約2年前、スノーピークの山井社長が白馬の地域住民から受け取った「白馬を助けてほしい」という内容の手紙だった。その後、現地の事業者と会合した際に知り合ったのが白馬観光開発の和田寛社長だ。「(和田社長は)世界中のスキーリゾートのトップをベンチマークして、日本にないものを追加し始めている。そうした索道会社(ゴンドラやリフトの運営会社)はいろいろ考えているので、ホワイトシーズンはすぐに良くなる。併せて僕らがグリーンシーズンを頑張れば、白馬はもっと上がってくる」(山井社長)。
いかに近年はインバウンド需要が旺盛とはいえ、通年で稼がなければその対応が追い付かない。和田社長は「マウンテンリゾートとしての新たな市場で戦うため白馬を変革してきた」と語る。山井社長も「海外にも素晴らしい山がある。しかし海外のリゾートに行ってホスピタリティーを考えると、地元の食材や人の温かさなどは日本のほうが優れている」と白馬のポテンシャルを評価する。山井社長は事業性の可否を検討し、現地に根付いたビジネスは成功できると判断した。
白馬観光開発では18年8月、栂池高原に「白馬つがいけWOW!」、2カ月後の同年10月には白馬岩岳の山頂に「白馬マウンテンハーバー」と立て続けに新施設を開業した。特に米ニューヨーク発の有名店が出店する白馬マウンテンハーバーができたことで、岩岳エリアでは数年前の4倍の来客数を達成した。
攻めの姿勢はなおも続く。岩岳山頂付近に19年7月、リモートワーカーが仕事を持ち込みながら観光できるワーケーションに活用できるなど、春から秋の需要を見込んだ「イワタケグリーンパーク」の運営も開始。同月には白馬八方尾根に若年層の集客を狙った「白馬マウンテンビーチ」も開業した(関連記事「異色の社長と著名Pが仕掛ける、標高1400mのビーチリゾート」)。
スノーピークでは白馬での動きと並行して、19年10月に欧州初の直営店を英ロンドンに出店。20年春には米ポートランドにも旗艦店の出店を予定している。今回のスノーピークランドステーション白馬には海外展開の戦略拠点としての役割もあるという。ここでスノーピークに直接触れてもらい、本国に帰ったインバウンド客がロンドンやポートランドの店舗に足を運んでもらえるようにする狙いだ。
白馬エリアで話題の施設を次々立ち上げてきた手腕が光る和田社長と、アウトドア分野で勢いを増すスノーピークがタッグを組み、世界的建築家を起用した新施設だけに、将来性に期待が持てる。和田社長も「白馬を世界の10本の指に入るようなマウンテンリゾートにしたい。白馬はなれるポテンシャルがある」と意気込む。
(写真/酒井康治、丹野加奈子、画像提供/スノーピーク)