2018年末に発売された「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」が300万本超を売るなど、19年にかけて「Nintendo Switch」の存在感が際立った。一方、米グーグルや米アップルがゲーム業界に本格参戦。20年末には「プレイステーション 5」の発売も控える。激動の予感も漂うゲーム業界の今後を、「週刊ファミ通」編集長の林克彦氏が読み解く。

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林 克彦(はやし かつひこ)氏
「週刊ファミ通」編集人・編集長
1973年、青森県生まれ。94年より「週刊ファミ通」編集部に勤務。ニュースページ担当デスク、副編集長を経て、2013年4月「週刊ファミ通」編集長に就任。ゲームは雑食。インタビュー好き。進化を続けるゲーム業界に常に対応すべく、アグレッシブな誌面作りを心掛けている

 18年末からの1年間を総括しつつ、新たなプレーヤーが増える20年について予測してもらった。

任天堂がハードとソフトの両面で強み

18年末から19年にかけて最も売れたゲームソフトは、2位に大差をつけて「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL(以下スマブラSP)」(任天堂)でした。

林克彦氏(以下、林氏) スマブラSPは、過去の全てのファイターが登場するなど、集大成的な1本でした。売れるべくして売れたとも言えるでしょう。さらに、ハード機である「Nintendo Switch(以下スイッチ)」(任天堂)の勢いとの相乗効果も見逃せません。スイッチの累計販売台数は「PlayStation 4(以下プレステ4)」(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)を上回っており、年末年始にかけて、さらに販売台数を伸ばすと思います。

 スイッチが発売されたばかりの頃は、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(任天堂)や「スーパーマリオ オデッセイ」(同)などを発売し、任天堂はまずコアなゲームファンを取り込みました。スマブラSPはその集大成と言えると同時に、ライトなゲームファンにもリーチできる強力なタイトルです。ハード機メーカーとして、ゲームソフトメーカーとして、両面での任天堂の強さがうまく合致したことが、スイッチの勢いにつながっていると思います。

19年9月発売の「Nintendo Switch Lite(以下スイッチライト)」(任天堂)は、発売3日間での累計販売台数が17万台以上を記録。同年10月発売のスイッチ用ゲームソフト「リングフィット アドベンチャー」(任天堂)は2週間で13万本以上販売と、共に好調な出だしでした。今後もスイッチの勢いは続くのでしょうか。

林氏 スイッチの強みは据え置き機としても、携帯機としても使えることです。スイッチライトは携帯機に振り切っていて、ジョイントコントローラーも本体と一体化しているなど、かなり割り切った作りだという印象です。ただ、20年3月には「あつまれ どうぶつの森」(任天堂)が発売されます。どうぶつの森ユーザーは女性比率が高いこともあり、むしろ据え置き機として使えなくても、手軽に使えるスイッチライトのほうがいいというユーザーは多いかもしれません。任天堂もそれを見越して、スイッチライトを発売した可能性は高いと思います。

 「リングフィット アドベンチャー」は、フィットネスブームの追い風もあり、個人的にはすごくはやると思っています。短期間の開発で発売できるゲームではありませんから、早い段階からフィットネスに目を付けていたということ。このタイミングで発売できる戦略は素晴らしい。さらに、同じくフィットネスに主眼を置いていた、かつての「Wii Fit」(任天堂)より、さらにエンタメ性を高めたといえる出来栄えです。「敵を倒すために腹筋する」といった高いゲーム性とフィットネスの両立は、任天堂でないとできません。特に、中高年の需要がかなりあると予想できます。

 前述の通り、まずはゲームファンを中心に取り込んできましたが、さらに女性や中高年を取り込もうという任天堂のアグレッシブな姿勢がうかがえます。改めてここ数年、任天堂の強さを実感しています。

ゲーム性を備え、ドラクエウォークがヒット

アプリゲームでは、19年9月にリリースされた「ドラゴンクエストウォーク(以下ドラクエウォーク)」(スクウェア・エニックス)が約1カ月で800万ダウンロード突破と垂直立ち上げに成功しました。

林氏 アプリゲームは、リリースから半年以上たってから、どれだけユーザーが残っているかが勝負です。なので、あくまで現段階で最終的な判断はできないという前提はありますが、これだけプレーヤーの熱量が高いのは久しぶりに見た印象です。19年に最もヒットしたアプリゲームと言っていいでしょう。

 ドラクエウォークがヒットした理由は、パーティーを組んで敵を倒すなど、昔ながらのドラクエのゲーム性がしっかり入っているからだと思います。ゲームとして面白い。また、ARゲーム(位置情報ゲーム)の先駆者である「ポケモンGO」(米ナイアンティック)は、当初はバトル要素に弱さを抱えていました。一方、ドラクエウォークは、リリース時点からしっかりバトル要素も作り込まれていました。過去にリリースされたゲームをしっかり研究しているなという印象です。

この1年のゲーム業界の総括として、業界全体の変化を感じた点はありますか。

林氏 ゲームソフトのヒットタイトルが生まれた一方、発売されたタイトル自体は、昔に比べてそれほど多くありませんでした。この1年に限らず、数年顕著になっている傾向です。理由は、ゲームソフトの開発費が高騰していて、開発期間も長くなっているため。重厚長大な「AAAタイトル」を制作すると、3~4年は普通にかかってしまうので、一定の間隔でたくさんのゲームが出せる時代ではなくなっているのです。

 これに合わせて、ゲームメーカーのアプローチも変化しています。好例が、「モンスターハンター:ワールド(以下モンハンワールド)」(カプコン)。ここ数年のモンハンシリーズは、携帯ゲーム機で発売し、一定期間をおいてアップグレート版を出して完結する流れがありました。ですが、モンハンワールドは定期的にイベントを開催したり、他のIP(タイトルやキャラクターなど)とのコラボを仕込んだり、マルチプレーがしやすい環境を整えたりするなどして、長く遊べるゲームになっています。19年9月には「モンスターハンターワールド:アイスボーン」(カプコン)も発売されましたが、これまでのアップグレート版とは違い、新しいフィールドやモンスターを追加することで、モンハンワールドの世界でもっと長く遊ぶことに主眼を置いています。これまでアップグレート版は1つ出て終わりでしたが、モンハンワールドのアップグレート版がさらに1つ、2つと出てくる可能性もあると思っています。

 長く遊べるゲームソフトは、最初にしっかりユーザーを抱えて軌道に乗れば、適切な開発人数、予算で運営ができます。ゲームメーカー側にも、先々の見通しが立てやすいというメリットがあります。こうした「運営型」のゲーム設計はアプリゲームがはしりですが、コンシューマー向けのゲームソフトでも同じ傾向が強くなっています。

 ユーザーの遊び方も変わりました。昔はゲームソフトを購入して、エンディングを迎えたら次に欲しいゲームを探す、というサイクルが一般的でした。今はそれが崩れていて、1つのゲームを2~3年、もしくはそれ以上遊ぶことが一般的になっています。

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「FF7リメイク」がリバイバルゲームに極地に

20年のゲーム業界の予測に移ります。ゲームソフトでは、前述の「あつまれ どうぶつの森」の他、「FINAL FANTASY VII REMAKE(以下FF7リメイク)」(スクウェア・エニックス)など注目タイトルの発売も控えています。

林氏 2作が発売される3月は非常に注目です。「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」(任天堂)や「メガドライブミニ」(セガゲームス)などは分かりやすい例ですが、ここ数年、ゲーム業界にはリバイバルブームが来ています。昔ヒットしたゲームソフトが、さらに良い画質になったり、最新のゲーム性を備えたりして、一定間隔で復活する。こうしたビジネスがゲーム業界に定着しています。ゲームメーカーにとっても、投資がある程度抑えられる、堅実な売れ行きが期待できるなどのメリットがあります。

 「ファイナルファンタジーVII」(スクウェア・エニックス)は伝説的なRPG。「FF7リメイク」は、さらにバトルのシステムを向上させているし、グラフィックは最先端になっている。リバイバルブームの極地と呼ぶべきゲームソフトになると思います。「FF7リメイク」は、昔なじみのユーザーを取り込むでしょう。また、前述の通り、「あつまれ どうぶつの森」は女性ユーザーや、新たなスイッチユーザーを取り込む可能性を秘めています。この2本が、ゲーム業界に大きなムーブメントを生むでしょう。ともに期待値は非常に高いです。

20年末には「プレイステーション 5(以下プレステ5)」(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が発売されます。20年は、ハード機でも大きな動きがありそうです。

林氏 プレステ5にはもちろん注目していますが、それに対抗する存在として、グーグルの「Stadia」やアップルの「Apple Arcade」が登場し、米ネットフリックスもゲーム業界に参入してきます。20年は、ゲーム業界に新たなプレーヤーが増える年でもあります。これは楽しみ。新しい群雄割拠の時代に入っていくのではないかと思っています。

 ただ、結局のところ、ハード機がヒットするかどうかはゲームソフト次第。例えば、ネットフリックスには選択肢の選び方によってストーリーが変わっていく「ブラック・ミラー: バンダースナッチ(以下バンダースナッチ)」という作品があります。こうした、映像作品を見る感覚で進めていくゲームが増えていくと思っています。これは、映像コンテンツを持っているグーグルやネットフリックスの強みを生かすことにもなります。もともとドラマ好きだった人がゲームを遊ぶようになることが、1つの新たなスタンダードになるかもしれません。あるいは、任天堂やソニーとは違うアプローチでゲームファンを取り込み、既存のゲームのシェアの取り合いになる可能性もあります。

 今後はゲームメーカーでも開発者でも、こうした映像作品とゲームの垣根を取り払うような開発のアプローチが増えてくると思います。まだバンダースナッチの認知度は日本では高くありませんが、こうした作品に有名な日本人俳優が出演すればきっと話題を呼ぶでしょう。きっかけ1つで、爆発的に広がっていく可能性はあると思っています。

 個人的に、特に注目しているゲームソフトは、「DEATH STRANDING(以下デススト)」(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)。手掛けた小島秀夫監督は今、日本人で世界から最も注目されている人物といえます。「デススト」は一言で説明するのが非常に難しいゲームソフトではありますが、ゲームの中に、自分だけでなく他人を気遣うという要素があります。小島監督は、「つらくて心が折れるゲーム」と表現していましたが、互いを思いやる気持ちに触れることで、心に残るプレー体験と、その余韻に深く浸れるようなゲームソフトになると予想しています。こうしたゲームは今までにありません。販売本数以上に、どう評価されるのかが気になります。

「週刊ファミ通」(KADOKAWA Game Linkage発行・毎週木曜日発売)の2019年11月21日号(11月7日発売)では、林氏が「心に残り、余韻に深く浸れるゲームになる」と予想したデスストを取り上げている
「週刊ファミ通」(KADOKAWA Game Linkage発行・毎週木曜日発売)の2019年11月21日号(11月7日発売)では、林氏が「心に残り、余韻に深く浸れるゲームになる」と予想したデスストを取り上げている
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(写真/佐藤正純)