「日経トレンディのヒット商品ランキングは新事業を生み出すネタの宝庫だ」。こう語るのは、デジタル領域の分析・コンサルティングファームD4DR(東京・港)の藤元健太郎社長。ヒット商品が生まれる裏には3つの要因があり、この分析が次のヒット商品開発の第一歩になる。その要点を解説してもらった。

2020年にヒット商品を生み出すには……(写真:Shutterstock.com)
2020年にヒット商品を生み出すには……(写真:Shutterstock.com)

 毎年生まれては消えていくヒット商品の情報から、我が社の次のヒット商品企画・開発に役立つ知見をどう抽出するか。3つの視点でヒット商品を分析することが大事だ。

ヒット商品の裏にある3つの要因
ヒット商品の裏にある3つの要因

 例えば、「2019年ヒット商品ベスト30」で7位となった「Netflix」のようなサブスクリプション型サービスは、スマートフォンの普及でコンテンツの流通が簡単になったという点で、「1.テクノロジーで不可逆的に起きる変化から生まれるヒット商品」と言える。テクノロジーの進化によるヒットは、コンテンツ産業だけでなく全ての業界で起こり得る。

 6位の映画『ボヘミアン・ラプソディ』は、「2.長いトレンドの中で起きる価値観やライフスタイルの変化から生まれるヒット商品」の一つだ。モノを所有することより体験することに価値を感じ、お金を投じるようになっている。ボヘミアン・ラプソディでは、映画と一緒に歌える「応援上映」も各地の劇場が開催。フレディ・マーキュリーのように口ひげを付け、タンクトップとジーンズのコスプレをした人が多く参加した。他の映画とは異なる体験価値がヒットの一因だ。

 「3.その時々の人々の気持ち、エモーションから生まれるヒット商品」の代表例が、4位の「ラグビーW杯2019日本大会」や5位の「令和&さよなら平成」だろう。こうしたヒットは毎年移り変わっていく。

 3つの要因は重なることもある。1位の「ワークマン」の成功の背景には、ファッションに機能性が求められる長期的なトレンドと、それを実現するテクノロジーの進化という2つの面がある。ワークマンが作った「激安&高機能のカジュアルウエア」市場に新たに参入するブランドも出るとみられ、ワークマンは新市場を築くことに成功したといえる。

 なぜこうした視点を持つべきなのか。商品開発などを担うマーケターの業務が、企業の経営戦略と深く関わる時代を迎えているからだ。商品寿命が短命化する既存市場に向けて商品を改良する以上に、⻑期な事業戦略を支えるようなロングセラー商品、 イノベーティブな新しい市場をどう作っていくか――それが今どきのマーケターに課された使命となっている。

 過去のヒット商品ランキングを振り返ると、13年の1位「コンビニコーヒー」のように市場に定着したものもあれば、2015年の4位「コンビニドーナツ」のように消えてしまったものもある。3つの視点からその違いを考えてみることもできる。コンビニドーナツが話題になった背景には技術的な革新や長期的な世相の変化はあったのだろうか。

 一方で、コンビニコーヒーと15年の7位「チョイ呑み」には、飲食店より安価に家やオフィスで楽しみたいという共通のトレンドがあるのではないか。自社もこのトレンドを生かすにはどうすればよいのか、といった仮説づくりや自分事化が次のヒット商品開発につながる。

新たなデータ活用でマーケティングDXを

 さて、多くの企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)の遂行を迫られており、我々も支援することは多い。例えば、Excelを使ったデータ分析をRPA(ロボットによる業務自動化)で効率化しようとする企業も多いが、そもそもそのデータ分析は必要なのかといったところから見直しを進めている。

* デジタルトランスフォーメーションとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革すると共に、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(経産省「デジタル経営改革のための評価指標<「DX推進指標」>資料より)

 こうしたDXはマーケティング分野にも求められる。肝要なのは、データをリアルタイムに生かすことだ。

 日本企業では、データ活用に熱心な現場のマネジャーがいても、経営会議向けに丁寧に(経営陣の意向をそんたくしながら)リポートを作り、報告されるのは現場がデータを把握した1カ月後というのが常識だった。今は、話題の移り変わりが激しく、デジタルマーケティングで即座に消費者にアプローチできる。リアルタイムなデータ分析に基づく意思決定が増えるだろう。既に米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)では、会議室を囲む壁に経営指標を閲覧、分析できる画面があり、新鮮なデータを見ながら経営陣らが議論し、意思決定できるという。

 見るべきデータも変わっていく。現在は「購買データ」が最も重要だが、今後は商品やサービスのIoT化やサブスクリプションの広がりに伴い、「利用データ」が顧客との関係を深めるうえで大切になる。購入後の商品の利用シーンの把握である。

 例えば、資生堂が提供する月額1万円(税別)のパーソナライズ化粧品サービス「Optune」では、ユーザーがどんな肌の状態で、どんな調合のスキンケアを利用しているのかが企業側も把握できる。原材料調達の最適化、新たな商品開発、利用シーンを踏まえた広告クリエイティブの制作などに生かせるだろう。

 また、私が最近興味深く分析したのは、ニトリの接触冷感「Nクール寝具」のInstagramへの投稿データだ。実はペットがNクールでくつろいでいる写真が多数投稿されている。それを見てかどうかは分からないが、ニトリはペット用ベッドを発売した。Instagramなどには、商品を利用した写真があふれている。自社商品がどんな風に利用されているのか把握するのに最適だ。

 商品やサービスの購買、利用にまつわるデータは今後も広がる。大量のデータから適切なデータを選び出し、購買や利用行動の裏に潜む要因を理解し、分析する能力は商品開発などを担うマーケターにとってますます重要になるだろう。

セミナー「ヒットメーカーの実例に学ぶ 成功する商品開発」12月5日に開催
本記事を寄稿したD4DR藤元健太郎社長は、日経クロストレンドが主催するセミナー「ヒットメーカーの実例に学ぶ 成功する商品開発~ポスト2020に消費者に支持される商品とは?~」で、ワークショップ「『日経トレンディ 2019年ヒット商品ベスト30』『2020年ヒット予測100』から読み解くポスト2020ヒットの条件」を実施します。日経トレンディ「2019年ヒット商品ベスト30」「2020年ヒット予測100」、日経MJ「2019年ヒット商品番付」に登場した商品、サービスを分析。共通するキーワード、世の中の大きな変化(トレンド)をグループワークを通じてあぶり出し、2020年以降にヒット商品を生み出すための条件を探ります。詳しくはこちら。