花王は吹き付けた極細繊維で肌に皮膜を作る独自技術を使い、美容液の浸透効果を高めたスキンケア商品を発表した。専用機器を含めた初期費用は税別7万円と高価だが、同社は今回の新商品「未来の肌体験の第一章」と位置づけ、メーキャップやボディーケア、医療などへの応用を目指す。
商品化の第1弾は初期費用7万円のスキンケア商品
専用ディフューザーで“繊維”を吹き付けた手の甲を、別の手のひらで押さえると、白かった吹き付け跡が透明の極薄の膜になった。それも境目がほとんど分からないほど、皮膚とのなじみは抜群。“第二の皮膚”のようなその膜は、端を引っぱるだけで気持ちいいくらいきれいに剥がせる――。
1ミクロン以下の細い繊維を肌に直接吹き付け、柔らかく自然な膜を肌表面に作るこの技術は、花王が15年をかけて実用化にこぎ着けたという「ファインファイバーテクノロジー」だ。小型ディフューザーを開発したパナソニック アプライアンス社とタッグを組み、同技術を応用した初の商品を2019年11月1日に発表した。
ファインファイバーテクノロジーを使った商品の第1弾はスキンケア商品だ。就寝前に専用美容液(エフェクター)を肌に付け、その上からディフューザーで繊維を吹き付け極薄の膜で覆う。目覚めとともに膜を剥がすと、肌に染みこんだ美容液の効果が期待できるという。初期費用はディフューザーと膜を作る化粧液、そして最初に肌に付ける専用美容液などを合わせて税別7万円。発売は19年12月4日で、日本やアジアを中心に展開する花王の「est (エスト)」、欧州をメインに展開するカネボウ化粧品の「SENSAI(センサイ)」という2つのブランドから発売される。
「(ファインファイバーテクノロジーは)もともとおむつや生理用品に使う不織布の研究の一環として生まれた技術。研究を進めていくと、皮膚に近いものができることが分かり、化粧品の方向に大きく転換した」
そう花王の澤田道隆社長が説明するファインファイバーテクノロジーが作り出す「積層型極薄膜」は、これまでなかったさまざまな利点を持っている。まず肌と膜との段差が少なく、剥がれにくい。肌に自然になじむため、皮膚の凹凸を見えにくくする効果もある。身体の3次元の動きや皮膚の動きにも追従し、高い毛管力で美容液などを速やかに広げて保持する。さらに「1本の糸が空間を持って積層されるので空気が通りやすく、通気性が高い」(澤田社長)という特徴もある。
こうした極薄膜の特徴を丸ごと活用したのが、新発売のスキンケア商品だ。最初に肌に付けた美容液を、繊維の効果で肌に広げて保持。膜とはいえ実体は繊維を重ねた極薄膜のため通気性もいい。ハイテク型のフェースパックのような効果も期待できそうだ。
実用化のポイントにはディフューザーの貢献も大きい。この技術で極細のファイバーを作り出すのは「ポリマー溶液の電解の力」。発表会で紹介された「開発当初のファインファイバー試作機」の写真を見ると、現在のディフューザーに当たる機械は人の丈ほどもある大きなものだった。そのディフューザーをパナソニックが約4年かけて女性が片手で使えるサイズにまで小型化した。
ディフューザーだけで5万円(税別)という高価なキットとなるが、花王執行役員でカネボウ化粧品の村上由泰社長は今回のスキンケア商品を「未来の肌体験の第一章」と位置づけ、他のファインファイバーテクノロジー関連商品でもこのディフューザーを使えるようにする考えだ。
今後について「メーキャップ、ボディーケア、アート、そして最終的には医療を目指して応用していきたい」(澤田社長)。これまでなかった未来の肌体験によって、「将来的な事業規模は1000億円を目指す」と澤田社長の鼻息は荒い。
(写真/福光 恵)