劇場版アニメ作品『プロメア』が絶好調だ。知名度で不利なオリジナル作品にもかかわらず、興行収入は12.1億円を突破した(2019年9月下旬時点)。ヒットの秘密は世界的なアニメ会社とネットにたけたIT企業のタッグだ。同作を生み出したトリガー(TRIGGER)の大塚雅彦社長、製作したミクシィの鵜飼恵輔氏に話を聞いた。
『プロメア』は、ポップなカラーとド派手なアクション、熱いせりふの数々で見せる劇場版アニメ作品。19年5月の公開以来、全国各地でロングランを重ね、興行収入は12.1億円、観客動員数は82万人を突破した(19年9月下旬時点)。Twitterや映画レビューサイトなどの投稿を見ると、複数回観賞したというリピーターも少なくない。その勢いは止まらず、10月には4D版(4DX、およびMX4D)の上映を開始。世界62の国と地域で配給契約を締結した。
作品を見れば、話題になる要素は豊富だ。アニメーション制作は、『キルラキル』『リトルウィッチアカデミア』といった人気作品で世界に評価が高いTRIGGER。監督は『天元突破グレンラガン』や『キルラキル』などで有名な今石洋之氏。脚本は劇団☆新感線の一連の作品で知られ、『天元突破グレンラガン』『キルラキル』でも今石監督とタッグを組んだ中島かずき氏が書き下ろした。アニメファンなら胸躍る座組みだ。加えて、声優には松山ケンイチや早乙女太一、堺雅人、ケンドーコバヤシ、古田新太といった人気俳優・タレントが並び、テーマソングはSuperflyが歌う。非アニメファンへの目配りも忘れない。
とはいえ近年、映画にしろテレビアニメにしろ、完全オリジナル作品でヒットを飛ばすのは難しいと言われている。シリーズものや原作ものと違い、オリジナルは知名度が低く、ゼロから耳目を集めなければならないからだ。そんな中での前述の結果は、大ヒットと言っていい。
また、本作はミクシィが同社のエンターテインメントブランド「XFLAG」名義で製作したことも注目に値する。自社のIP(作品やキャラクターなどの知的財産)である『モンスターストライク』などのアニメは手掛けてきたものの、同社にとっても完全オリジナル作品の製作は初のこと。しかも、SNSやゲームに強い同社ならではの方法で『プロメア』を盛り上げ、ヒットにつなげた。
そこでこの記事では、TRIGGERの大塚雅彦社長、製作したミクシィのデジタルエンターテインメント事業本部 事業開発室 映像企画グループの鵜飼恵輔マネージャーにインタビューを決行。両社が『プロメア』で手を組むに至った経緯や、ミクシィが仕掛けたプロモーション手法から、動画配信サービス隆盛の中、アニメ制作の現場に起こっている変化などを聞いた。
“アドレナリン全開”はXFLAGにぴったり
興行収入、観客動員はもちろんですが、62の国と地域で配給契約を結んだというのも『プロメア』成功のポイントだと思います。この結果は予想通りですか。
鵜飼氏 当初からなるべく多くの国や地域に広めたいと思っていましたし、ネット配信などによる収益よりも劇場配給を優先して考えてもいました。封切り前に契約できたところもあれば、日本での反響を受けて熱量が上がってきたところもありますが、いずれにしろ広く公開できて良かったというのが率直な感想です。
今回、ミクシィの「XFLAG」ブランドで製作しています。まずはその経緯を伺えますか。
大塚氏 『プロメア』の企画自体はもともとありました。今石洋之監督がテレビシリーズの『キルラキル』を終えた後、次は劇場版がやりたいという話をしていたんです。でも実際にやろうとしたら、これはかなりお金かかるなと。そこで、委員会方式も含め出資先を探したところ、手を挙げてくれたのがXFLAGです。
ミクシィがXFLAGとして『プロメア』の製作を決めたのはなぜでしょう?
鵜飼氏 XFLAGのミッションは「友達や家族とワイワイ楽しめる“アドレナリン全開”のバトルエンターテインメントを創出し続ける」ことです。既にほぼ完成していたシナリオを見て、『プロメア』はそのミッションに一致すると思いました。今石監督や脚本の中島かずきさんへの信頼感ももちろん大きいですが、企業としての姿勢を示すのにぴったりというのが出資を決めた理由ですね。
難しいからこそできるところがやるべきだ
実写にしろアニメにしろ、オリジナルをヒットさせるのは難しいと一般にいわれます。その中でオリジナルにこだわった理由は?
大塚氏 原作ものはベースがあるのでスタートしやすいという側面は確かにありますが、開発にエネルギーが必要なのはオリジナルと変わりません。それなら、オリジナルのほうがいい。当たったときに得られるものも大きいし、本当にやりたいものに特化できるからです。
それに、オリジナルは難しいからこそチャレンジできるスタジオが限られます。自分たちのようにできるところがやるのは使命だと思っています。

1社製作というのはそれなりのリスクです。XFLAGとしてどう判断しましたか?
鵜飼氏 「できるところがやっていくべきだ」という姿勢に共感しました。ミクシィはゲームでの実績がない中、『モンスターストライク』(モンスト)というヒット作を生み出した。自社で立ち上げることに挑戦してきましたし、そこを突き詰めた結果、当てたという自負もあります。熱い人が作るものが当たるという経験則が社内にあるので、その可能性に懸けました。
『モンスト』という基盤があるからビジネスが展開しやすいというのもあります。過去に『銀魂』や『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』『僕のヒーローアカデミア』などのテレビアニメ作品と『モンスト』のコラボをした経験があります。パッケージ販売や配給だけでなく、『モンスト』というマネタイズのルートがあるのは踏み込みやすい要因だと思います。
SNSの動きに合わせ盛り上がる材料を投下
ミクシィはSNSからスタートし、ゲームなども持つIT企業です。テレビ局や映画会社、アニメ会社とはまた違う作品の盛り上げができるのではと思いますが、いかがですか?
鵜飼氏 大きい取り組みはやはり『モンスト』とのコラボです。公開に合わせて、同じく今石監督、中島さん、TRIGGERが組んだ『天元突破グレンラガン』『キルラキル』とともにコラボを仕掛けました。
あとは、口コミを広げる戦略をとったこと。映画は一般に初週の観客動員が勝負とされますが、『プロメア』は長期的な視点で取り組むことを会社に提案しました。SNS時代からコミュニケーションをテーマにしてきた会社で、『モンスト』も口コミで広げたという自負がありますから、そこはすんなり合意を得られましたね。
具体的にはどんな取り組みを?
鵜飼氏 こちらから仕掛けると冷めるのが口コミです。だからTwitterなどの反応を見つつ、盛り上がったところで素早くユーザーが欲しい情報を出してさらに盛り上げるということを意識しました。
「滅殺開墾ビーム祭り」(※)なんかは典型例ですね。私もシナリオを読み、アフレコを聞いて、試写見て、そのたびに口に出したくなりましたから(笑)。ネットでもきっと盛り上がると思って準備していました。
大塚氏 私たちから見ても、XFLAGは判断が速く、準備が丁寧という印象です。お客さんの声を非常によく聞いていて、喜ばれるポイントに喜ばれる情報を流す。するとそのレスポンスがさらに広がるのが素晴らしい。そのやり方が『プロメア』とよく合っていましたね。
「やりたいこと」ができる相手を選ぶ
大塚さんに伺いたいのですが、アニメの制作環境は近年、大きく変化しています。作品の出し先がテレビや映画、ネット配信と多様化し、それに伴ってパートナーシップを組む相手の選択肢も増えました。その変化はどのようにお感じですか?
大塚氏 制作の現場と経営では見え方が違います。現場から見るとさほど変化はありません。例えば『機動戦士ガンダム』が人気だった頃は玩具メーカーが主たるスポンサーでした。その後、委員会制度が主流になった。でも、作品を見てくれる人に向けて作るという意識は変わりません。
一方、経営の視点で見ると無視できない変化です。出資元が違えば制約も条件も違いますから。これまで国内のお客さんのことだけ考えていたのが、グローバルの市場を見なければいけないということもあります。その変化を見極めて受け入れ、時々に対応すること。遅れるよりは早く対応したいので、常に動向に注目しています。
ただ、パートナーシップを結ぶ上で選択肢が増えるのはいいことです。例えばネット配信はお客さんに直接届くのでより即応性が必要ですし、お客さんからのフィードバックもリアルタイムに感じられます。日本と同時に世界から反応が集まるのも面白い。国や文化が違っても同じように作品が楽しまれているということをより実感できます。
やりたいことをやるための選択肢が増えるということでしょうか。
大塚氏 そうですね。TRIGGERはチャレンジを社風としているので、意図的にいろいろなパートナーとお仕事をするようにしています。前作『SSSS.GRIDMAN』は円谷プロダクション、ポニーキャニオンとご一緒しましたし、『キルラキル』はアニプレックス、『リトルウィッチアカデミア』はクラウドファンディングの「Kickstarter」で支援を募った後にNetflix、東宝と組みました。どこと組むと自分たちのやりたいことに近づけるか、作品ごとにトライアルしています。その流れを受けて、今回はアニプレックス、東宝の力をお借りしつつ、XFLAGと組んで劇場版を作ってみようということになりました。
これまでの取り組みで、ここと組んだからこそこういう収穫があったという例はありますか?
大塚氏 お客さんの反応は作品によってもちろん違うのですが、前段階として「ここと組むとこういうことができるんだ」という発見はあります。例えば『SSSS.GRIDMAN』は円谷プロダクションのご協力で最後に実写パートを挿入できました。
XFLAGと組んで『モンスト』コラボができたのもその一つです。また、『プロメア』ではネットに強く、レスポンスが速いXFLAGだからこそ、映画を見たお客さんの喜びをさらに広げていけました。スタジオはアニメを作るだけですから、助けられているなと思います。『プロメア』にはXFLAGという選択は正しかったですね。
今後も作品合わせてパートナーを選ぶという方法を進めていくのでしょうか?
大塚氏 『プロメア』はクライアントから作品を受注するのではなく、自分たちがやりたい作品のためにクライアントを選んだというケースです。アニメの歴史ではまだあまり一般的なことではありません。初めて組んだら全然合わなかったという失敗のリスクもありますが、それでも刺激があったほうが楽しいし、実際刺激になっています。
パートナーシップは作品をより良くするためのものです。パートナーにはただお金を出してもらうのではなく、互いの長所を生かして作品を作っていきたい。そういう意味では、作品の特性に合ったパートナーを選ぶところから作品作りは始まっているんです。
(写真/志田彩香)