※日経トレンディ 2019年12月号の記事を再構成

元AKB48グループの指原莉乃がプロデューサーとしての手腕を発揮し始めた。5カ月で50万箱を売り上げたカラーコンタクトレンズに、自らがプロデュースする女性アイドルグループ。SNSをフル活用した指原式マーケティング術を聞いた。

指原莉乃(さしはら・りの)。1992年11月21日生まれ、大分県出身。2007年にAKB48へ加入。12年にHKT48へ移籍し、13年にはHKT48劇場支配人にも就任。第5回AKB48選抜総選挙で1位を獲得し、第7回から三連覇を果たす。19年4月、HKT48を卒業
指原莉乃(さしはら・りの)。1992年11月21日生まれ、大分県出身。2007年にAKB48へ加入。12年にHKT48へ移籍し、13年にはHKT48劇場支配人にも就任。第5回AKB48選抜総選挙で1位を獲得し、第7回から三連覇を果たす。19年4月、HKT48を卒業

 2019年4月にAKBグループを卒業後、タレント活動の傍らで力を入れるのが「プロデューサー業」だ。

 現在プロデュースしているのは、自ら立ち上げたカラーコンタクトレンズ(カラコン)の新ブランドと、新人アイドルグループの2つ。19年5月に発売された、カラコンブランド「TOPARDS(トパーズ)」(PIA/東京・品川)の第1弾(計4色)は、既に50万箱を突破。5万箱が新商品のヒットの目安といわれるカラコン業界では、大ヒットといっていい数字だという。

 飾らないキャラクターや抜群のコメント力で、幅広い層からの支持を集める指原。単なるアイドルにとどまらない優れた自己プロデュース力でも注目されていた“マーケター指原”に、ヒット商品のつくり方を聞いた。

卒業したら「ものづくり」をしてみたかった

 AKBグループからの卒業が決まったころ、できれば今までやったことのない「ものづくり」をしてみたいという気持ちが生まれ、あれこれ模索する中で思いついたのが、カラコンのプロデュースでした。

TOPARDS
カラコン「TOPARDS」は、自身が商品開発から販促まで手がけた。黒目が大きくなりすぎないナチュラルなデザインが特徴。19年5月の発売から4カ月で50万箱を売り上げた。10月には新たに2色を発売し、全6色を用意

 実は、それまではカラコンを使ったことがなかったんです。それなのに、よくファンの方から「カラコンは何を使っていますか?」と聞かれていたので、相当需要があるんじゃないかと(笑)。あと、HKT48のメンバーの中に、明らかにサイズの合わないカラコンをしている子がいて、ずっと気になっていたんです。ただ「これを使うといいよ」といったアドバイスができない悔しさもあり。

 そうした経験から「みんなに似合うカラコンを作りたい」と思うようになり、周りの人たちに「カラコン作らせてくれる会社知らない?」と聞いて回りました。

 アイドルやタレントが広告塔になる商品は多いが、指原のブランド「TOPARDS」はそうではなく、自分でゼロから考え抜いて作った商品といえる。ものづくりで心がけたのは、まずリサーチに当たって、「全部自腹で買う」「全部自分でも試す」の2つだった。

 50種類にも及ぶカラコンを自身で購入して試しました。誰かにお願いするよりも自分で買う方が早いし、自分で買わないと、値段に対する感覚とかネットで注文してから届くまでのワクワクする気持ちとか、消費者のリアルな気持ちが分からないので。

 その中でたどり着いたのが、「ナチュラル」をコンセプトとしたカラコンブランドです。「TOPARDS」は、目を大きく見せすぎないのが一番こだわったポイント。それまでははっきりした色合いのものや大きめのものが主流だったけど、最近は「自然に、でもちょっぴりかわいくなりたい」「ちょっぴりきれいになりたい」という目的で使われることが多い。だから盛り過ぎずに、日常的に使えるタイプの方が売れると考えたんです。

テレビ番組出演がマーケティングの場に

 開発中に行ったのが、「自分を使ったマーケティング」だ。カラコンの開発を行っていることは伏せたまま、さまざまなカラコンを装着して、テレビ出演やSNSでの発信を行い、消費者の反応を分析した。

 オンエア後にSNSなどでエゴサーチをし「指原、カラコンでかすぎ」「今日のカラコンはかわいかった」といった、視聴者の方の声を確認しました。カラコンって、他人からどう見えているか、自分ではなかなか分からないじゃないですか。鏡で見るとつい決め顔しちゃうし(笑)。

 SNSやブログには、私のファンだけではない視聴者の方の率直な感想が書かれているので「このくらいの大きさだと不自然に見えるんだな」とか「世間でナチュラルカラコンといわれているものでも、他人からは大きく見えるんだな」とか、気づかされることが多いんです。とても商品開発の参考になりました。

【テスト】マーケティング
【テスト】マーケティング
発売前からカラコンを着用して、テレビ番組などに出演。SNS上で反響をエゴサーチして開発に役立てた。ファンの声だけでなく、「目がでかすぎる」といった批判的な意見にも注目していたと語る

 発売後の反響ももちろん調べますよ。自分が褒められるより、商品が褒められた方がうれしいですね。以前大きすぎるカラコンを付けていた後輩が「こんないいカラコンがあるなんて知らなかった」と言っているのを聞いて、「この反応が欲しかった!」と思いました。

 一方で、日常使いに振った結果として、「盛れない」「かわいくならない」という意見も少なからずありました。なので次はそれらの声を反映し、不自然にならない範囲で、少し大きめの商品を作ってみたいと思います。「その人のニーズに合う商品、納得のいく商品が、必ず一つはある」というラインアップにしたいと思っているので。

 情報収集のみならず、宣伝においても戦略的に活用したのがSNSだ。発売数カ月前から情報発信を始め、期待感を高めた。発売直後は公式ECサイトの商品が即完売し、店舗への供給が追いつかない事態となった。

 最近の若い子の買い物の仕方は、上の世代とは大きく異なります。店頭で実際に商品を見て買うよりも、むしろSNSで話題になった商品をネットで買う傾向の方が強い。日常使いできるうえで写真映えする商品、「何これ」と思ってもらえる商品を作り、SNSでバズらせる必要があると感じました。

 そのため、第1弾で発売した4種類のカラコンのうちの1つ、「ラピスラズリ」という商品をあえて青系の色にしました。既存の青系のカラコンは、色味が強く、どうしても爬虫類っぽくなってしまいがちですが、ラピスラズリはナチュラルなヌケ感があるので、一目で違いが分かるし「こんな青系のカラコン、見たことがない」と思ってもらえるからです。実際、SNSでの効果は抜群で、ラピスラズリを装着した写真をアップすると「どこのカラコンですか?」と訊かれることが多かったですね。

発売時にはツイッターやインスタグラムで装着時の着用感を自らレビューした。青みがかった特徴的な色合いの「ラピスラズリ」は、SNSでの拡散を意識して開発した
発売時にはツイッターやインスタグラムで装着時の着用感を自らレビューした。青みがかった特徴的な色合いの「ラピスラズリ」は、SNSでの拡散を意識して開発した
【共感】マーケティング
【共感】マーケティング
SNS上では頻繁にフォロワーと会話を繰り広げる。プロデュースしたカラコンに合うコスメの提案を試すこともあり、等身大の姿がファンの心を掴んだ

 フォロワー数260万人超とツイッター上での発信力が高く、頻繁につぶやいている。ファンとの交流も活発で支持を得ているが、SNSとどう向き合っているのか。

 SNSから学ぶことは多いですよ。例えば私、この間「シャウエッセンの中にチーズ入ってるのやばい・美味しすぎた・神の食べ物」ってつぶやいたんです。「食べたい」「買ってみたい」ってリプが多い中で、ハッとしたのが「でも、普通のより1本少ないんだよね」という書き込み。

 「なるほど、その発想はなかった!」って思いましたね。こんな感じで「人の数だけ価値観があるんだなあ」と思うことがしょっちゅうあります。 もちろん、中にはシビアな意見もありますが、単なる誹謗中傷はスルーしつつ、そうしたリアルな反応や感想にもしっかり向き合うことが重要です。ファンの方は、基本的には良いことを言ってくださるんですが、客観的に自分を見るためには、否定的な意見に目を向けることも大事ですね。

SNSに強いタレントは正直者が多い

 中学生のころから、好きなアイドルを応援するためにブログを立ち上げたり、掲示板に書き込みをしたり、「とにかくネットばかり見ていた」と語る。SNSとの上手な付き合い方を聞いた。

 ズバリ、SNSに強いタレントさんって正直者が多い印象です。私もできるだけ等身大の自分を見せるようにしています。高級なものを食べたときもカップラーメンを食べたときも、SNSで同じように報告するし、何か商品をお薦めするときは、実際に使って「いい」と思ったもの、食べて「おいしい」と思ったものだけを紹介する。

 ファンの方は、私のことをよく見てくださっているし、とても敏感。ありがたいことですが、少しでも嘘があると気づかれてしまうし、1つでも嘘があると、全体が嘘だと思われてしまう。そうすると、自分が発信する情報への信頼度も下がってしまうんですよね。

 また、SNSで宣伝をするときに、できるだけ誇張表現を使わないように心がけています。誇張表現って逆に消費者側の心理的なハードルを上げてしまうんですよね。SNSで「誰もがハマる」とか「一度食べたらやめられない」とか書かれている食べ物や美容グッズを試して、「何だ、普通じゃん」とがっかりすることが、私もよくあるので(笑)。商品の良さが伝わるような写真を載せ、簡単な説明を加える程度にした方が、最終的には良い印象を持っていただけるのではないかという気がします。

 「多くの人に理解してもらうためには、伝え方が大事だ」ということもネットから学びました。ネットやSNSで公式に何かを発言するときは、「こう言えば、こんなリアクションが返ってくるだろうな」というのを、あらかじめしっかり考えるようにしています。

ヒットの新方程式
1)実際と乖離がある誇張表現はNG。商品との“出会い“を大事に
 SNSで情報を発信するうえで嘘はご法度。1度疑いが掛かるとアカウント全体の信頼性が落ちてしまう。最近は、消費者の「誇張疲れ」も起きている。SNSに釣られて実際の商品を体験した際に、イメージとの落差があるとリピーターが根付かないので要注意だ。

2)客観視を欠かさない。SNSは最高のマーケティングツール
 商品を作っているとついポジティブな意見ばかりに目が行きがち。そんなときは批判を恐れずに、SNSを使って世間からの評価を確認するのが早道だ。多くのファンを持つがゆえに、シビアな意見の重要性を実感したと語る。

3)SNSで宣伝するなら自分がとことん商品のファンになる
 SNSで情報を発信するうえで重要なのは、嘘をつかないことだ。1つでも嘘があるとすぐに見破られてしまい、アカウントの信頼度が下がってしまう。「ものづくり」から関わり、自分が商品を徹底的に好きになれば、おのずとSNSでの情報発信力が強まる。

アイドルのプロデュース法は「秋元さんと真逆」

 17年からは、代々木アニメーション学院の協力の下に誕生した声優アイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のプロデュースも手がける。プロデューサー秋元康氏が築き上げたAKB48と、自身が思い描く令和のアイドル像に違いはあるか。

 秋元さんのプロデュースのやり方は「自由にさせよう」「個性を伸ばそう」というものでした。

 私は秋元さんから「お前は不幸な方が絶対いい」と言われたことがあります。その方が、負のパワーが爆発して面白いから、と。その結果、私のひねくれたコメントが、バラエティーなどで面白がってもらえました。私が今こうしていられるのは、秋元さんから芸能人としての生き方を教えていただいたおかげです。

 ただ、私のプロデュースのやり方は、秋元さんとは基本的に真逆(笑)。特に新人の子を指導する場合には、やっていいことと悪いことが分かるまで、SNSなども必ずマネジャーにチェックさせるようにしています。私はもともとアイドルが好きなので、できれば私みたいにキャラクターで売るのではなく、まずはパフォーマンスのスキルを磨いて、まっとうなやり方で人気を得てほしいんです! 世の中の流れもパフォーマンス重視の本格派アイドルを求める流れに変わってきていると思います。

 アイドルであれ楽曲であれ商品であれ、自分が提供するからには、恥ずかしくない「いいもの」を作りたい。だから私は、自分が作った曲が大好きで何度も聴くし、自分が手がけた商品には自信があるので、使い倒します。そのくらいじゃないと、お金を出して買っていただいた方、応援してくださる方に失礼だと思うので。自分が褒められたときには謙遜しますが、自分が作ったものが褒められると「そりゃそうでしょ。ちゃんと作ったんだから」という気持ちになります(笑)。

 手がけたものや作ったものに対して、自分自身がどれだけファンになれるか。それが「ものづくり」においては大事なのではないかと思います。

アイドルのプロデュースにも注力
=LOVE(イコールラブ)
代々木アニメーション学院との協力で、声優を集めた女性アイドルグループ。19年10月に6枚目のシングル『ズルいよ ズルいね』をリリース

≠ME(ノットイコールミー)
新たにデビューした=LOVEの姉妹グループ。19年8月に配信限定の1stソングをリリースし、10月には「君の音だったんだ」のMVを公開
日経トレンディには掲載できなかった未公開ショット
日経トレンディには掲載できなかった未公開ショット

(写真/三瓶康友、スタイリスト/米原佳奈、メーク/天野優紀)