秋葉原で「サンコーレアモノショップ」を展開するサンコーが、近年力を入れているのが家電製品だ。ハンガー、炊飯器、簡易洗濯機などを販売し、参入以来売り上げは右肩上がりで成長している。サンコーの家電戦略について、同社代表取締役CEOの山光博康氏に話を聞いた。

サンコーの創業者で代表取締役CEOの山光博康氏。社名は本人の名前からきている
サンコーの創業者で代表取締役CEOの山光博康氏。社名は本人の名前からきている

 2003年に会社を設立したサンコーは、一風変わったPC周辺機器やデジタルガジェットの輸入販売から事業をスタートした。家電に参入したのは15年で、そこから会社の売り上げは伸び続け、15年の約9億円から18年には約14億5000万円となった。山光博康氏(以下山光氏)は、家電参入のきっかけは「スマートフォン(スマホ)だった」と言う。

 「創業3、4年目ぐらいから独自商品を作りたいと考え、USBから電源を取るハンドウォーマーやスリッパなどのガジェットやPC周辺機器を作り始めた。その後、市場の中心がPCからスマホに変わるのに合わせてスマホアクセサリーに軸足を移していったが、スマホにはあまりアクセサリーや周辺機器のマーケットがないことに気が付いた」(山光氏)

 スマホはそれ単体でインターネットに接続して利用でき、ケース、ヘッドホン、スピーカー、モバイルバッテリーぐらいしかアクセサリーのマーケットがない。「サンコーが追求してきた“これがあったらいいな”という製品作りがほとんどできなかった。では何をすべきかとなったとき、原点に立ち返って“自分たちが困っていること”を解決する物を作りたい。それならば家電を手掛けようと考えた」と山光氏は振り返る。

 それ以前から「家電系をやりたい」という声はスタッフから出ていた。しかし家電は扱う商品の範囲が非常に広く、大手メーカーがひしめいている。日本の消費者は要求レベルも高く、新規参入が難しい。そこで切り口を工夫することにした。

 「我々はレアモノショップ。“面白くて役に立つもの”というコンセプトで輸入する商品を選んだり、製品を開発したりしてきた。家電もこの切り口でいこうと考え、“面白くて役に立つ家電”を選定・開発していくことに決めた。ニッチに見えるかもしれないが、これなら大手メーカーとバッティングしないマーケットを切り開ける。お客様の不満や不便に対応できれば、それが大きなマーケットになるのではと考えた」(山光氏)

 最初に手掛けたのはハンガー型のドライヤー。中国メーカーの製品を輸入販売したところ、想定以上に売れた。「これによって大手メーカーが作っていない製品で、お客さんの問題解決につながるところに需要があることが見えてきたので、そこにフォーカスして製品開発を進めた」(山光氏)。

家電製品として最初に手掛けた「服や靴が早く乾く!温風ハンガー乾燥機」。シャツや靴などの乾燥ができる(写真提供/サンコー)
家電製品として最初に手掛けた「服や靴が早く乾く!温風ハンガー乾燥機」。シャツや靴などの乾燥ができる(写真提供/サンコー)

 サンコーレアモノショップはユニークなものを販売していることで知られるが、輸入商品の選定や製品開発で重視しているのは、ユーザーが抱えている問題を解決できるかどうかだ。

 「“面白い”や“役に立つ”だけではなかなか買ってもらえない。この2つを高いレベルで両立させ、お客さんが抱えている課題を解決することが重要だ。そうしてお客さんに喜んでもらい、お金を出す価値があると思ってもらわないと、ビジネスは成り立たない」(山光氏)

毎月10製品を発売する

 現在のラインアップはオリジナル家電と輸入商品を織り交ぜている。毎月、オリジナル製品を2製品、日本向けに改良した中国や台湾などの製品を8~10製品、合計10製品以上を送り出している。すべて自社開発で作りたいが、まだそれだけのマンパワーがないのだという。

 「毎月10製品というのはこれまでの経験から導いた数だ。これが正解というわけではないが、これ以下だと注目度が下がって直販サイトのアクセスが減る。逆にこれ以上だと製品が多すぎて売れにくくなる」(山光氏)

 製品数が多いと在庫リスクが気になるが、新製品は初回ロットを絞り、リスクを極力減らしている。

 「毎回薄氷を踏むような感じでやっている部分がある。しかし数を控えめにしていると、販売して数時間で完売してしまうことも結構あり、予測が難しい。例えばヒットした糖質カット炊飯器の初代モデルは、発売してすぐに売り切れた」(山光氏)

「糖質カット炊飯器」の初代モデル。米を煮た後、糖質成分が溶け出た煮汁を排出することで糖質を約3分の1カットできるというもの(写真提供/サンコー)
「糖質カット炊飯器」の初代モデル。米を煮た後、糖質成分が溶け出た煮汁を排出することで糖質を約3分の1カットできるというもの(写真提供/サンコー)

スタッフからの企画と提案で製品を開発

 市場ニーズを読み取り、“当たる”製品開発を積み重ねるために、毎週、店頭販売スタッフを含めて30人以上いるスタッフ全員に企画と課題を提案してもらっている。製品のアイデアだけでなく、生活の中で「こういったことに困っている」という課題を出してもらうとヒントになることが多く、それを企画開発の担当者が製品に落とし込んでいく。

 「集まったすべての課題や商品提案に、私がサジェスチョンをしている。良い案には報奨も出しているが、それ以上に皆、自分が考えたものが形になって販売されたり、テレビなどで取り上げられたりすることがやりがいになっている。現在、社内にすごくいい流れができていると感じている」(山光氏)

 社員のアイデアで生まれた製品の1つが、まだ家電を手掛ける前に発売した、スマホに取り付ける自撮り用のクリップリングライトだ。自撮りで顔が暗く写るのを解決したいという店舗の女性スタッフからのアイデアだった。その他、寝たまま使える机「ゴロ寝デスク」や、衣服のシワを伸ばす乾燥機「アイロンいら~ず」も現場スタッフのアイデアによるものだ。

アイロンがけが面倒だというスタッフのアイデアがきっかけになった、シワを伸ばす乾燥機「アイロンいら~ず」。シャツの形をした乾燥機にシャツを着せて乾かす(写真提供/サンコー)
アイロンがけが面倒だというスタッフのアイデアがきっかけになった、シワを伸ばす乾燥機「アイロンいら~ず」。シャツの形をした乾燥機にシャツを着せて乾かす(写真提供/サンコー)

 社内スタッフによるアイデア出しで製品を開発しているため、市場リサーチなどは一切行っていない。

 「費用をかけていろいろ調べて集めた情報も、結局は何らかのバイアスがかかっていることが多い。そうした情報に右往左往させられるのではなく、自分たちが消費者として困っていることをうまく解決できるかどうかを大切にしている。例えば『自分が30歳の女性だったらこの商品をどう思うか』といったことをスタッフに話し、そうした視点で考えてもらう。この積み重ねでヒットにつながる精度がかなり上がってきた」(山光氏)

 外部からアドバイザーやデザイナーを招くこともないという。「外部の力に頼ってしまうと、自分たちで試行錯誤しなくなってしまう。仮に製品がヒットしたとしても、それがどういう要因でヒットしたか分からないのでは進歩がない」と山光氏。

 ユニークさが評価され、テレビ番組で製品が採り上げられることも増えてきた。販売はECサイトと店舗中心だったが、大手家電量販店や商社との取引強化を図る。今後はサンコーのブランド化を進めていきたいという。まさに大手メーカーの“スキを突く”サンコーの家電製品。目にする機会がますます増えそうだ。

(写真/湯浅英夫、写真提供/サンコー)

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