ナイキは2019年11月1日、渋谷スクランブルスクエアにコンパクトな新店舗「NIKE BY SHIBUYA SCRAMBLE」をオープンした。“NIKE Live”と呼ぶITを活用した新コンセプトストアで、米国以外では初の展開となる。
NIKE Liveのコンセプトは、スマホ用の「NIKEアプリ」を通じて会員からのデータなどをもとに、スムーズな買い物体験やサービスを提供しようというものだ。
会員はオンラインで購入した商品をここで受け取れるほか、店頭でバーコードスキャンによる商品情報の確認、特典の取得、ここにしかない限定商品の購入などができる。最適なサイズのナイキシューズを購入できるように、店頭でスタッフが会員の足のサイズをスキャンしてアプリに登録してくれる“Nike Fit”、スタッフとLINEでチャットして質問できる“Nike Store Chat”などのサービスも利用でき、無駄を減らしたスピード感のある買い物ができる。地域密着を掲げ、商品は周辺地域の会員の購買履歴データなどをもとに2週間に1度更新する。新商品を先行販売することもあるという。
アプリを通じた買い物体験は、旗艦店である東京・原宿の「NIKE HARAJUKU」でも提供している(参考記事 「在庫をアプリで確認 ナイキ、日本でもデジタルと店舗の融合加速」)。NIKE BY SHIBUYA SCRAMBLEは面積176平方メートルと原宿店に比べると狭く、展示されている商品も少ない。デジタルを活用することで店舗をコンパクトにできたのだという。
グローバル・ナイキ・ダイレクト・ストア&サービス GMのCathy Sparks氏は、今後こうした店舗を増やしていきたいと語る。
「店舗をコンパクトにできた要因は2つ。1つはデジタルサービスのハブとして作ったためで、オンラインで商品を選んで、ここで受け取るという形だ。2つめはサプライチェーンの改良により、商品の配送が1日2回できるようになったため」(Sparks氏)
米国の店舗と異なるのはオンラインで購入した商品の受け取り方だ。米国では購入した商品は個別にロッカーに入っていて、ユーザーが自分で開けて取り出す。NIKE BY SHIBUYA SCRAMBLEでは大きな扉のついた棚に入っていて、店舗のスタッフが取り出して手渡してくれる。これは「試行錯誤のひとつ。日本においてサービスの価値を高めるため、セルフサービスではなく、スタッフが取り出して手渡す形にしてみた」(Sparks氏)という。
ナイキはデジタルを活用した店舗作りを積極的に推し進め、“デジタルとフィジカルの融合”を目指すとしている。デジタル化は省力化のためではなく、顧客と接する時間を増やすためのものだ。
「我々は顧客との関係作りやコミュニティーを重視している。実際の商品に触れたい人や、店舗でスタッフの意見を聞きたいという人もいて、そこはデジタルに置き換えられるものではない。この店舗はコンパクトだがスタッフの数がそろっていて、顧客と接する時間を取りやすいことが強み」(Sparks氏)
今後、賃料の高い大都市の一等地などではこうしたコンパクトな店舗を増やしていきたい考えだ。
「様々な体験ができる大型店がある一方で、コンパクトな店舗でデジタルを活用したスピーディーな体験を提供していく。例えば、自宅で宅配を受け取るのが難しい顧客にとって、通勤中などに立ち寄れるこうした店舗は便利だろう」(Sparks氏)
店頭に足を運んでもらうための施策も用意する。例えば会員は3週間に1度、アプリ内のメンバーパスを使って店頭のデジタル自動販売機から無料の特典を受け取れる。店頭で商品を試着して確認できるのも実店舗だからこそだ。ネットの利便性と実店舗のメリットの良い所取りをすることで、コンパクトな店舗で満足度の高い買い物体験を提供し、ファンを増やす。ナイキの狙いが明確に表れた店舗と言えそうだ。
(写真/酒井康治)