ユーグレナは10月29日、「初代CFOが決定した」と発表した。名前は、小澤杏子さん。東京都内の高校に通う17歳の女子高生だ。東京証券取引所一部上場企業で最年少となるCFOの誕生である。
CFOと言ってもChief Financial Officer(最高財務責任者)ではなく、Chief Future Officer(最高未来責任者)である。これからの企業はどうあるべきか、そのために今何をすべきか──若者の視点から意見を言う役割を担うのがCFOだ。
任期は、2019年10月から20年9月までの1年間。業務委託契約を結び、報酬も支払う。今後、同社が取り組む30年に向けたSDGs(持続可能な開発目標)に関するアクションや目標の策定に参画する。
ミドリムシを使った健康食品やバイオ燃料の開発・製造で知られるユーグレナは、貧困や気候変動問題を解決し、より良い未来をつくることを目的にしている。経営陣の議論に「未来の当事者」である若者が参加していないのはおかしいと考え、CFOを採用した。
今、若者の声に耳を傾ける企業が増えている。企業が持続的に成長するためには、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した長期視点の経営が欠かせない。その羅針盤となる長期ビジョンは、将来の社会で中心的な存在となる若者の声を反映させることが重要だ。経営戦略のデザインに若者の意見が欠かせなくなりつつある。
「未来を良くするための提案をどんどんお願いしたい」(出雲充社長)。大きな期待を背負い、CFOに就任した小澤さん。その人物像に迫った。
CFOの募集をどこで知ったのですか。
私は毎朝、新聞に目を通すようにしていて、それで知りました。新聞に一面広告が出せるなんて(資金的に)相当力がある会社だと思いましたが、対象を18歳以下に限定しているのはどうしてだろうと興味を持ちました。
言うだけなら簡単
それで詳しい募集要項を読まれた。どんな点にひかれたのですか。
SDGsは使いやすい言葉というか、「将来のことを考えていますよ」「SDGsを考慮していますよ」と口先だけなら誰でも言えてしまいます。目標だから。実際に行動に移したり、計画したりするのはハードルが上がります。でも、ユーグレナはSDGsの活動を形にできると思ったんです。
私は、今、「フラボノイドと腸内細菌の関係」をテーマに研究をしていて、これをどう形にしていくか、社会にどう還元していくかをいつも考えています。ユーグレナはそもそも、研究を形にするというところからできた会社で、それに成功しています。SDGsの活動もきっと形にできると思っています。私もその一員になりたいです。
SDGsを最初に知ったとき、どんな印象を持ちましたか。
中学2年生のとき、仲の良い友達がやっていたワークショップに参加してSDGsを知りました。私が通う学校はSGH(スーパーグローバルハイスクール)とSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の認定を受けていて、その子はSDGsの研究をしていました。
SDGsはすごく良いゴールだと思いました。でも、まだみんながしっかり意識を向けて取り組めているわけではないと思います。17のゴールをさらに深めた目標があることを、みんなが知る機会がもっとあったほうがよいのではないでしょうか。実際、私も、17あるゴールのそれぞれに対していろんな小さな目標があるというのを知ったのは、そのワークショップに参加してから1年も後、しかも学校の授業を通してでした。
研究者の可能性をつぶしている
CFOに応募した際に提出した文書には、ユーグレナで取り組みたいこととして、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」を達成するために、研究者を支援したいとありました。日本の研究者が減っている現状を変えたいそうですね。
中学生のころは貧困問題を解決したいと思っていました。けれど、高校生になって、私1人が影響を及ぼせる範囲を考えたとき、貧困を無くすためにパッと動いて何か変えられるかというと、それは夢のまた夢だと気づいたんです。本当は自分で自分の限度を決めるのはよくないですけど。
じゃあ、自分の周りを見て、何に不自由しているかなと考えたとき、ずいぶん前に読んだ新聞記事を思い出しました。その記事には、日本の研究資金が減っているという京都大学の教授の話が紹介されていました。
私自身が将来、研究者になるかどうかはまだ分かりません。ただ、先日、ノーベル賞をとられた方(旭化成の吉野彰氏)もそうなのでしょうけれど、これまでの研究者に対する投資が今、形になっています。研究者の育成がどんどん手薄になっていったら、ノーベル賞をとる人も減ってしまう。賞をとる人を増やしたいというわけではありませんが、資金を減らしているというのは可能性をつぶしてしまっているのではないでしょうか。
日本から優秀な人材がどんどん海外に流れてしまっていると感じています。私の知っている先輩にもハーバード大学やイェール大学に進学した人がいますし、もう日本に戻ってこないかもしれません。
もちろん、日本にも素晴らしい人は多いと思いますが、資金や設備、環境をもうちょっと充実させたほうがいいのかなという気がします。そういうのを変えていきたいです。
ユーグレナは、飛行機や自動車が排出するCO2を減らすためにバイオ燃料の開発・普及を進めています。環境問題についてはどのように考えていますか。
環境問題に関心を持ったのは、中学2年生のころにキリンのワークショップに参加したのがきっかけです。私は1年間参加して、原料の生産者がレインフォレスト・アライアンス認証を取得できるように、キリンが技術を教え、できた農産物を買い取るという活動を続けていることを知りました。
それまで貧困問題などについて学んでいたものの、自分の中で可視化できていませんでした。キリンのワークショップでは現地の様子を写真で見ることができたので、イメージがわき、理解が深まりました。それ以来、環境問題は頭の片隅にいつもあります。
そのワークショップは学校の授業の一環だったのですか。
いえ、私が個人的に興味を持って参加しました。いろんなところに参加するようになったのは、「SA(service and action award)賞」という中学校の制度が大きく影響しています。これは、社会貢献活動をいろいろやって、最後に振り返りをするというのをたくさん積み重ねるともらえる賞で、中学1年生のときの活動が認められて私も受賞しました。それから、いろんなところに参加しようという気持ちを持つようになりました。
中学1年生のころは、どちらかというと賞が欲しくて社会貢献活動に参加していたところがありますが、中2、中3、高1と進んでいくにつれて、だんだんと自分の興味に変わっていきました。
雑学を増やすのが楽しい
将来、どんな仕事がしたいですか。何か目標はありますか。
私は研究をしているので理系に見えるかもしれませんが、文系の面もあって、本を読むのが好きなんです。社会問題に関するニュースや記事にも興味があって、気になる報道があったらネットで調べて、関連記事をパパッと読む。そんなことが習慣になっています。
雑学を増やしていくのが楽しいんです。話すのもけっこう好きです。人と話し、外と何らかの関わりが持てる仕事ができたらとぼんやり思っています。
今回のCFOの仕事は、そうした希望につながりそうですか。
多分、CFOの仕事は自分が将来やりたいことをはっきりさせてくれるきっかけになると思います。1年間を通して、自分が何をしていきたいのかを考えていけたらと。今まで、中学、高校といろんな活動をしてきましたが、自分からここにしようと1つに定めたことがありませんでした。いろんなことができるのがいいなと思っていたからですが、今度はここ(ユーグレナのCFO)に集中してみようと思います。
話す相手が高校生と大人とではプレゼンの仕方も変わるでしょう。私はこれまで話す対象が年下の子や同級生でしたので、これからたくさんの大人に話をすることが経験になり、知識も増えます。すごく学べると思うので、今からとても楽しみです。
(写真/尾関裕士)
※ユーグレナのCFOに関しては、「日経ESG」でも詳報する予定です。