2019年3月に15周年を迎えたカプコンのゲームシリーズ「モンスターハンター」(モンハン)。18年発売の『モンスターハンター:ワールド』は全世界で1400万本を出荷するヒットとなった。プロデューサーの辻本良三氏に“モンハン”のブランディング施策などを聞いた。
ユーザー同士が協力して巨大なモンスターを狩る「モンハン」シリーズ。クエスト達成の醍醐味やモンスターから得た素材で装備を充実させる面白さなどで、タイトルを重ねるごとにユーザーを獲得してきた。
18年1月発売の『モンスターハンター:ワールド』は世界出荷1400万本(19年10月時点)というシリーズ最大のヒットを記録。19年9月には、その拡張コンテンツとなる『モンスターハンターワールド:アイスボーン』をリリースし、ますます勢いを増している。
近年は食品やアパレル商品とのコラボをはじめ、シリーズの世界観をモチーフとした飲食店「モンハン酒場」や、結婚式場見学をクエストに見立てた「モンスターハンター×ブライダルフェア」、ゲーム中の楽曲をフルオーケストラが演奏するコンサート「狩猟音楽祭」など、他業種への展開も活発だ。
15周年を迎える「モンスターハンター」の歩みと今後の展開について、シリーズのプロデューサーで、カプコンの常務執行役員 CS第二開発統括兼 MO 開発統括の辻本良三氏に聞いた。
04年当初からオンラインプレーを意識
まずは発売から現在の経緯を振り返っていただけますか。
辻本良三氏(以下、辻本氏) 第1作となった『モンスターハンター』は、04年3月にPlayStation 2(PS2)版のタイトルとしてリリースしました。「モンハン」シリーズは、当初から最大4人でのオンラインマルチプレーを実現していたのが一つの特徴ですね。
今でこそユーザー同士がオンラインで一緒にプレーするのは当たり前ですが、当時はネットインフラもまだ整っておらず、重要性はさほど高くありませんでした。でも、PS2は「BBユニット」という外付け機器を使えばネットにつながりましたし、オンラインになるべく早く対応したかった。だから、ネット環境の普及前でも対応を決めたんです。
翌05年には、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の携帯ゲーム機「プレイステーション・ポータブル」(PSP)版の『モンスターハンターポータブル』をリリースします。これで通信を介してプレーする環境は飛躍的に整いました。
『モンハンポータブル』が使うのはPSP同士を直接つなげるアドホック通信で、オンラインマルチプレーが一般化するのはもう少し後です。ただ、このPSPでの協力プレーが若い人を中心に受け、「モンハン」は一般に認知されるようになります。エンターテインメントの世界で若者のハートをつかむのは本当に難しいですが、うまく響いてくれました。
これを受けてPSP版2作目『モンスターハンターポータブル 2nd』(07年2月発売)や3作目『同 2ndG』(08年3月発売)では、学生や女性を意識しました。少年漫画誌のようなタイトルロゴにしたり、PSPとゲームタイトルを同梱(どうこん)した製品に付属するグッズに男性向けのかっこいいデザインだけでなく、女性に喜ばれそうなかわいいデザインも用意したりしました。
外出先でプレーする機会を増やした
『2ndG』は中高生にヒットし、社会現象にもなりました。どこのファストフード店に行っても高校生が4人1組で遊んでいて、ゲーム禁止の貼り紙をする店舗もあったほどです。
辻本氏 そうですね。『2ndG』で一気に広がりました。日本ではこの頃に入ってきたユーザーが、今もファンの基盤になっていると思います。
公式イベントの「モンスターハンターフェスタ」など、リアルの世界でファンに喜んでもらえる施策を立ち上げたのもこの頃です。モンスターハンターフェスタは「モンハン」の公式大会や来場者同士がマルチプレーを楽しむ「リアル集会所」などを行います。
当時は携帯機なので「モンハン」を外でプレーするシーンを増やしたかった。PSPに対応したことで、外出先や電車などの移動中でもプレーしてもらえるようになりました。スマホがある今は電車内でゲームをするのは見慣れた光景ですが、当時は結構はばかられましたね。それがPSPで「モンハン」をプレーする人が増えて、人の目に触れるようになったんです。そのこと自体がプロモーションのような効果を発揮し、認知度が高まりました。
オンラインプレーでは、上級者が初心者のクエスト達成を手伝ったり、アイテムをあげたりしているのもよく見ます。
辻本氏 「モンハン」はユーザー同士が協力して遊ぶゲームですから、人を誘いやすい。対戦ゲームでは初心者は上級者の相手になりませんが、協力プレーだと上級者が初心者をフォローしたり、助けたりして一緒に楽しめます。
初心者が育てばプレー人口は増えますし、そのうち強くなって一緒に難易度の高いクエストに挑戦できるようになる。だから上級プレーヤーが積極的にサポートしてくれるんだと思います。
その後、任天堂の「Wii」や「ニンテンドー3DS」でも発売しました。
辻本氏 任天堂のハードは本当にユニークで、そのハードだから生かせる特性があるのが面白かったです。ニンテンドー3DS版のタイトルでは、女性層の拡大につながりました。その後、『モンスターハンター 4』(13年9月発売、ニンテンドー3DS版)で本格的なオンライン通信時代へ入ります。
ニンテンドー3DSやPS4など、ハードによってゲームの特性が微妙に変わっていますね。
辻本氏 実はタイトルごとにテーマを変えているんです。例えばニンテンドー3DSでリリースした『モンスターハンター クロス』(15年11月発売)、『同ダブルクロス』(17年3月発売)はお祭り的なタイトル。いろいろな遊びを盛り込んで楽しめるのがテーマです。
PS4でリリースしている『モンハンワールド』はその名の通り、世界標準、グローバル環境を考えています。『2ndG』では中高生や女性を強く意識していましたが、いつしかターゲットとなるユーザーが拡大し、今では年齢、性別を問わず全方位になりました。
新しいユーザーを呼び込みやすいのがいい環境
ターゲットが中高生や女性から全方位に拡大して、マーケティング施策上の変化はありますか。
辻本氏 一貫しているのは「モンハン」以外の“色”が付かないようにすることです。テーマソングにしてもタイアップなどせず、『英雄の証』というオリジナルの楽曲を使い続けています。タレントを起用したCMもありますが、プレーヤー代表として自然に楽しんでもらえるように収録前にかなりゲームの説明をしました。
逆に「モンハン」ブランドを他業種へ持ち出すことは積極的にされていたように感じます。
辻本氏 そうですね、他業種とのコラボは積極的に行ってきました。今はさまざまな企業が当たり前のように行っている「ユニクロ」のTシャツとのコラボも、ゲームIPとのコラボが珍しいタイミングで行えました。
これは消費者と「モンハン」との接点を増やすことを重視してのことです。コラボなどでキャラクターやタイトル名が露出すれば、「モンハン」をプレーしたことがない人にも認知してもらえます。その分、興味を持ってもらいやすくなり、既にプレーしている人が誘いやすくもなるはずです。「モンハン」は協力ゲームですから、既存のユーザーが新たなユーザーを呼び込みやすくすることが良い環境作りになるのです。
そんな中、『モンハンワールド』は世界的な大ヒットになりました。要因をどう分析していますか。
辻本氏 『モンハンワールド』ほどではないものの、それ以前のタイトルも海外で売れてはいて、各国にコアなコミュニティーがいくつも形成されています。そういう場所に呼ばれてイベントに参加することがありますが、その時は必ず何かしら新しい情報を出すようにしています。結果、コミュニティーとのつながりができてきました。そんなタイミングで『モンハンワールド』の情報を全世界同時に解禁したことがヒットにプラスになったと思います。
「モンハン」を知っている人と知らない人で出す情報も分けました。特に知らない人には丁寧な情報提供を重視しました。その一例が米ロサンゼルスで開催された世界最大のゲームイベント「E3」(Electronic Entertainment Expo)です。専門性の高いイベントでは試遊台を置いて実際に触ってもらうのが常とう手段ですが、初めてプレーした人は操作を覚えるだけでいっぱいいっぱいで、ゲーム自体の魅力を理解する前に試遊時間が終わってしまうんです。そこで今回はユーザー自身にプレーしてもらうのではなく、スタッフがプレーして見せ、どういうゲームであるかを伝えることに注力しました。
『モンハンワールド』が国内だけでなく世界でも売れたのには、これまでと違った工夫があったのでしょうか。
辻本氏 特にゲームの仕様面で海外向けに作っているものはありません。面白さに対する本能的な部分は、日本人も外国人も変わらないと思います。グローバルタイトルになることは目指していましたが、日本のユーザーをないがしろにするつもりは全くありません。
それよりも、既存ユーザーと新規ユーザーの両方に楽しんでもらうということを意識しました。日本に比べてプレーしたことがある人が少ない海外に対しては、地域や文化の違いよりも「モンハン」に初めて触る人と捉えていました。
『モンスターハンターワールド:アイスボーン』はリリースから1カ月がたちましたが、状況はいかがですか。
辻本氏 『アイスボーン』はグローバルで280万本出荷(コンシューマ版のみ、19年9月時点)と好調で、ユーザーからの反響も上々です。『アイスボーン』の発売を機に『モンハンワールド』自体の売り上げも伸びていて、19年10月にはグローバルの出荷本数が1400万本を達成しています。
『アイスボーン』は大ボリュームですが、新作ではなく拡張版です。それはなぜでしょう。
今回『アイスボーン』を拡張版としたのは、既に『モンハンワールド』を持っているユーザー全てに楽しんでもらいたいと考えたからです。『モンハンワールド』にはディスク版を購入した人もダウンロード版を購入した人もいます。その全てに向けて発信するには、新作としてリリースするより拡張版にしたほうがいいと考えました。
新規の方も考えて『モンハンワールド』ではあえてタイトル名からナンバリングを外しました。新規ユーザーが増えるだろうというこのタイミングで「前作をやっていないとプレーできないの?」とか「分からないんじゃないの?」と思われたくなかったからです。
『モンスターハンター:ワールド』と『モンスターハンターワールド:アイスボーン』では「:」の位置が変わりました。今後は『モンハンワールド』をベースに、シリーズ展開するのでしょうか。今後の展開を教えてください。
辻本氏 そこはまだ分かりません。今は『アイスボーン』が出たばかりなので、できるだけ多くの人に長く『アイスボーン』を遊んでいただくことを第一に考えています。東京ゲームショウ2019でアップデートのお披露目をしましたが、今後も大小問わず数回のアップデートをしていきます(関連記事「『モンハン』スペシャルステージで最新情報が一挙に公開【TGS2019】」)。あとは、まだ「モンハン」でプレーしたことがない人に遊んでいただくこと。既に発表していますがハリウッド映画などの展開も考えています。
カプコンでは「バイオハザード」シリーズが映画化されて成功しています。ゲームより映画として認知している人も多いでしょう。
辻本氏 「モンハン」も同様に認知度が高まれば、既存のユーザーがまだゲームをプレーしたことがない人を誘いやすくなると思うんです。あとはグローバルでさらにどういうことをやれるかを考えているところです。
(写真/志田彩香、写真提供/カプコン)