渋谷駅直結の複合商業施設「渋谷スクランブルスクエア東棟」が2019年11月1日に開業した。ひと足先に地上約230メートルからスクランブル交差点を見下ろす展望施設やテナントが報道陣に公開された。注目のポイントを紹介する。
ターゲットは「渋谷に愛着や接点がある人」
渋谷スクランブルスクエアは東急、JR東日本、東京地下鉄が協業した複合商業施設。東棟、中央棟、西棟の3棟で構成され、19年11月1日に東棟を第1期としてオープンした。東棟は地上47階建てで、渋谷駅付近では最高層。その高さを利用し、有料展望施設を設けた。地下2階~地上14階は商業エリアにショップやカフェ、レストランなど計213店舗が入居する。
渋谷は現在、「100年に一度」といわれる再開発が進んでいる。渋谷駅前だけでも12年4月に「渋谷ヒカリエ」、18年9月に「渋谷ストリーム」が開業(関連記事「『渋谷ストリーム』開業 “閑散エリア”に新たなランドマーク」)。19年12月には「渋谷フクラス」の開業も控えており、ショップやレストランが一気に増える。どのように差異化を図るのか。
施設のテナント開発を担当した渋谷スクランブルスクエア商業・展望Dept.の堀内謙介総支配人は「渋谷らしさとして『ストリート』感を重視した。レストランや食物販などのフードが充実している点も特徴。これらを駅ビルで実現したということが、ほかの商業施設にはない魅力」と話す。
ターゲットは「渋谷に愛着や接点がある人」。周辺住民や施設に入居するオフィスの従業員、渋谷を訪れる買い物客や訪日外国人客まで、幅広い層を狙うという。話題を呼びそうなテナントを実際に訪れてみた。
「プレス バター サンド」など人気商品が出店
全213テナントの内訳は、物販126店、食物販57店、飲食28店、サービス2店。地下2階は総菜やベーカリーなどが入る「東急フードショーエッジ」。30店舗弱の食物販店が並ぶ、いわゆる“デパ地下”だ。地下1階はカフェを併設した紀ノ国屋の新業態のスーパーマーケット「Gourmand Market KINOKUNIUYA(グルマン マーケット キノクニヤ)」が入る。
1階は洋菓子や和菓子などのスイーツを扱う。東京駅の“エキナカ手土産”として人気を集めた「PRESS BUTTER SAND(プレス バター サンド)」が渋谷エリア初出店。店舗限定でチョコレートやココアを使った「バターサンド〈黒〉」を発売する。ほかにも長野・安曇野のリンゴと花を使ったスイーツ専門店「アップル&ローゼス」、フランス・パリの人気パティスリー店「MORI YOSHIDA PARIS(モリ・ヨシダ・パリ)」など、国内外の有名店が都内初出店している。
フロア全体がスイーツ売り場の1階だが、実は東急百貨店が運営する「東急フードショーエッジ」と、JR東日本リテールネットが運営するエキナカ商業施設「エキュート」の新業態「ecute EDITION(エキュート エディション)」の2つの業態に分かれている。だが、もともと各店舗毎に会計を済ませるため、利用者はこの2業態の違いをさほど感じないだろう。
THEと中川政七商店の旗艦店も出店
2階から9階まではファッションのフロア。2階には「NIKE BY SHIBUYA SCRAMBLE」や「コンバース トウキョウ」などのスポーツブランド、3階には「ヴァレンティノ」「ブルガリ」などのラグジュアリーブランドが入る。6階は東急百貨店がプロデュースする化粧品フロア「+Q(プラスク)ビューティー」。7階にはイベントスペースもある。
8階の「THE SHOP(ザ ショップ)」はアパレルから洗剤などまで、幅広いジャンルの商品を開発、販売する「THE(ザ)」の国内3店舗目。渋谷店は旗艦店として同ブランドが扱う約1000アイテムを集める。
「THEの顧客には渋谷エリアで生活している人も多いが、商品を取り扱う店舗がなく『東京駅(のKITTE内にある)店舗に行かないと商品が買えない』という声が上がっていた」と同社の米津雄介社長は話す。
同ブランドのアパレル商品は全てユニセックス仕様で、性別や年齢などのターゲットは設定していない。しかし「渋谷を訪れる人は感度が高い人も多いので、THEのアイテムとも相性がいいのではないか」(米津社長)と見る。
「定番品」をうたっているだけあって、商品のデザインはどれもシンプル。渋谷店は場所柄を意識し、店頭で同ブランドがセレクトしたアンディー・ウォーホルのポスターや、ヴィンテージデニム、スケートボードなどスポーティーでポップな“一点物”も展示販売する。既存店舗にはなかった展示ウインドーとプロモーションスペースを設け、THEの認知を図る狙いだ。
11階には「中川政七商店」の旗艦店がオープン。約430平方メートルと同ブランド最大の売り場面積に、約4000点のアイテムをそろえた。コンセプトは「日本の工芸の入り口。この店をきっかけに、工芸の魅力を知ってほしい」と中川政七商店広報の佐藤菜摘氏は話す。
店頭には売れ筋商品の「かや織ふきん」など、手に取りやすい商品を並べた。ふきんの渋谷スクランブルスクエア店限定柄やハチ公をモチーフにした張り子の飾りなどの土産商品も用意している。展望施設帰りの観光客も多く立ち寄りそうだ。
店内に足を踏み入れると、土産や雑貨の店という印象がくつがえる。店舗左手には麻を使った衣類を扱うコーナー。「このところアパレルの売り上げが好調なので、旗艦店では品ぞろえを増やしている」(佐藤氏)。店舗の奥には麻布の切り売りコーナーとオーダー販売コーナーもある。いずれも同ブランド初の試みだ。
THEと同様、中川政七商店も東京駅のKITTEに店舗があり、こちらを東京本店としていた。以前は東京駅まで出向いていたが、渋谷に旗艦店ができたことでアクセスしやすくなったという人も多いだろう。
TSUTAYAが手がけたコワーキングスペース
中川政七商店の隣はTSUTAYAが手がける「TSUTAYA BOOKSTORE(ツタヤ ブックストア)」。書店にカフェラウンジ、コワーキングスペースを併設した新業態だ。コワーキングスペースの利用は90分1500円(税別)から。カウンター席や打ち合わせにも使えるテーブル席など、全173席。店内はガラス張りで、全ての席から渋谷の街が見渡せる。
コワーキングスペース内の壁面には「マガジンライブラリー」として、雑誌137タイトルの1年分のバックナンバーを用意。図書館のような感覚で利用することも可能だ。「渋谷を拠点に仕事をする人、特にクリエイティブ関連の人が多く利用するのではないか」とTSUTAYA 広報ユニット長の多田大介氏は話す。
開放感のある展望施設は一見の価値あり
目玉である有料展望施設「SHIBUYA SKY(シブヤ スカイ)」にも行ってみた。ここは地上約230メートルの高さから東京の街並みを360度見渡せるパノラマビューが売りだ。
SHIBUYA SKYへは14階の専用エレベーターからアクセスする。46階は回廊型の屋内展望施設やスーベニアショップ、カフェ、そして屋外展望施設への入り口になっている。ガラス張りのエスカレーターで屋上へ上がると、一面に東京の景色が広がる。
壁は一面ガラス張り。その壁も大人の胸の高さほどしかない場所もあり、視界をさえぎるものが何もない。まるで山の頂上からふもとの景色を眺めるような感覚だ。
訪日客にも人気のスクランブル交差点が見下ろせるのもうたい文句の一つだが、あまりにも場所が高いせいか人が豆粒のようで見えづらい。高さだけなら、東京スカイツリー(「天望回廊」、地上約450メートル)には及ばない。しかし、屋上全体を使った広々とした空間や開放感は、既存の展望施設とは一線を画す。新しい東京名所として注目を浴びそうだ。
渋谷の新名所として多くの観光客の来店が予想される渋谷スクランブルスクエア。同施設は開業から1年で来場者100万人、商業施設の売り上げは年間400億円を目指す。
(写真/酒井康治、樋口可奈子)
(写真提供/渋谷駅街区共同ビル事業者、渋谷スクランブルスクエア)