相鉄バス(横浜市)が2019年9月14日から10月14日まで、バスの自動運転の実証実験を横浜市内で行った。営業運転に使っている大型路線バスを使用し、不特定多数の利用者を対象とした実験は日本で初めて。技術的な課題を洗い出すだけでなく、自動運転が社会にどう受け入れられていくのか、乗客の反応を確かめる狙いがある。

77人乗りの大型路線バス車両を改造した、レベル2相当の自動運転バス。相鉄バスが自社保有し、実証実験を継続的に行う
77人乗りの大型路線バス車両を改造した、レベル2相当の自動運転バス。相鉄バスが自社保有し、実証実験を継続的に行う

 見た目は見慣れた路線バスと変わらないが、運転士がハンドルから手を放して自動走行する--。そんな珍しいバスが、横浜市内を1カ月間営業運行した。「里山ガーデンフェスタ」というイベントの開催に合わせ、会場とよこはま動物園(ズーラシア)正門とを結ぶ無料シャトルバスに「レベル2」の自動運転バスを投入。レベル2とは、原則として自動運転システムがハンドルやアクセル、ブレーキの操作を担うが、緊急事態に備えて、ドライバーが常に周囲の状況を監視する段階の自動運転を指す。

 この実証実験の最大の特徴は、相鉄バスが保有する大型ノンステップバスを改造したバスを使用していること。これまで日本各地で自動運転バスの実証実験が行われているが、コミュニティバスなどに使われる小型車両のため、定員は10人以下と極めて少ない。これに対して、今回の実証実験で使用されたバスは定員25人。安全面への配慮から全員着席が条件となったが、立ち席も含めれば最大77人が乗車できる車両だ。実使用の条件に一歩近づいた。小型車両と比べると理想的な軌跡や速度パターンが異なり、新たな挑戦だったという。

 運行ルートは、よこはま動物園正門のバスロータリーを出発して、片側1車線の道路を走り、里山ガーデンフェスタの会場前までの約900メートル。横浜市が管理する施設内の道路のため厳密には公道ではないが、よこはま動物園への来園客のマイカーなども走る環境だ。ただし、途中に信号はない。

 自動運転システムは群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センターが開発したものを使用。事前に群馬大学のスタッフが低速で運転して走行ルートを決定し、プログラムされたルートをGPSで現在の位置を確認しながら自動運転する仕組みだ。ハンドルと、アクセルやブレーキの操作はすべて自動で行われる。LiDER(光を利用した測距システム)が搭載されており、駐車車両など障害物を検知した場合は自動で停止。ただし、駐車車両を自動的に避けて走行することはできず、運転士の手動運転に切り替える。

 9月末の金曜日、実際に乗車してみた。よこはま動物園正門のバスロータリーで待っていると、自動運転バスが停車中のバスやタクシーを避けるように、歩道からだいぶ離れたルートを通って乗り場に入ってきた。これは、停車中の車両があることを考慮して事前にルート設定されているもので、感知して回避したわけではないという。

駐車車両(右奥)を想定して、ロータリーの内側を走行するようにプログラミングされている
駐車車両(右奥)を想定して、ロータリーの内側を走行するようにプログラミングされている

 バスの車内は通常のバスとほぼ変わらないが、運転席後ろの1席分がなくなり、自動運転システムの機器が置かれている。車内にはテレビモニターが2台設置され、運転士がハンドルから手を離して運転している様子が確認できる。運転士は通常より多い2人が乗務しており、運転席に座っていない1人は、周囲を監視したり、自動運転バスについて乗客に説明する役割を担っている。

自動運転のための機器搭載により、座席が1席分削られている
自動運転のための機器搭載により、座席が1席分削られている

 運転士が出発ボタンを押すと発車。ハンドルが自動で回転する様子は見ていて新鮮だ。バスターミナルを出るところで一旦停止。運転士が周囲の安全を確認して、アクセルペダルの横の確認ペダルを踏むと自動運転が再開する。車道に入ってしばらくすると、左手によこはま動物園の駐車場への出入り口があり、ここでも安全確認を促す音声が流れた。確認ペダルを踏まないと自動停止する仕組みで、このような安全確認スポットが要所要所に設定されている。

走行中はハンドルを手に添える程度で、操作はしない(写真提供/相鉄バス)
走行中はハンドルを手に添える程度で、操作はしない(写真提供/相鉄バス)

 目的地の里山ガーデンフェスタ会場までは緩い上り坂。自動でアクセル操作が行われ、時速約18キロメートルを保って走行する。安全面の配慮からだが、通常のクルマはもちろん、手動運転のバスと比べてもやや遅いスピードだ。バスの最後部には「低速走行中」という表示があり、他のクルマに道を譲る光景も見られた。

 里山ガーデンフェスタ会場の入り口へは右折で進入。ここでも自動で一旦停止し、安全確認後、自動運転が再開した。バス停まで自動で走行し、運転は終了。所要時間はおよそ5~7分だった。

 バスの降車場所には乗車した印象などを尋ねるアンケートボードが置かれており、試乗した乗客たちが回答していた。今回の実証実験のもう一つの特徴が、事前予約なしで誰でも無料で乗車できたこと。毎週金~月曜日に1日16往復運行され、1カ月間(営業日は17日)で延べ4907人が自動運転を体験したという。「自動運転バスを実用化するにあたっては、乗客に受け入れてもらうことが重要。今回の実証実験には受容性を探る目的がある」(相鉄バス)。無料シャトルバスには自動運転バス1台の他に2台の通常バスも使われていたが、わざわざ自動運転バスを待つ人も見られ、注目度の高さがうかがえた。

降車場所で行われていたアンケート調査。自動運転を不安に感じる人はそれほど多くないようだった
降車場所で行われていたアンケート調査。自動運転を不安に感じる人はそれほど多くないようだった

運転士が不要になる「レベル4」目指す

 スピードが遅い点はやや気になるものの、アクセルやブレーキ、ハンドル操作には特に違和感はなく、すぐにでも実用化できる印象を受けた。しかし、バス事業者から見れば、まだその段階には至っていないという。

 最大の問題は、ドライバーが常に周囲の状況を確認するレベル2にとどまっていること。バス事業者にとって自動運転に取り組む狙いは運転士不足への対応だが、レベル2では依然としてプロの運転士が必要となる。しかも、「現状のセンサーのレベルでは、障害物の検知なども運転士のほうが早い」(相鉄バス)。自動運転が、必ずしも運転士の負担軽減につながっていないのが現状だという。LiDERは光を使うため、雨天時などに障害物を誤認識するケースがあることも課題となっている。

 自動運転の実証実験は各地で行われているが、自動運転システムを開発しているスタートアップなどが車両を保有し、交通事業者が借り受けて一時的にテストするケースが大半だ。しかし、相鉄バスは自社が保有する最新の路線バス車両を改造。「今後も継続的に実証実験を続け、決められた経路上では自動運転システムがすべての操作を担う『レベル4』を目指す」(相鉄バス)。他社よりも自動運転に対する意気込みの強さが感じられる。

 今回の車両にはLiDERだけなく、信号機の色を読み取れる全方位カメラを装備しており、今後は信号機があるルートなどがターゲットになりそうだ。レベル4が実現すれば運転士の乗務は不要になる。その一方で「接客などを担うスタッフを置き、サービスレベルを高める必要が出てくるかもしれない」(相鉄バス)としている。

屋根上に設置した全方位カメラで信号機の色を読み取り、自動的に停止できるかの確認が次のステップになりそうだ
屋根上に設置した全方位カメラで信号機の色を読み取り、自動的に停止できるかの確認が次のステップになりそうだ

(写真提供/相鉄バス)