人気女子プロレス団体「スターダム」がブシロード傘下の「キックスロード」と事業譲渡契約を締結。今後キックスロードの事業部門としてスターダムを運営する。ブシロード取締役の木谷高明氏はプロレスをキャラクターコンテンツと位置づけ、ライブエンターテインメントの発信を強化する考えだ。

スターダムの選手たちとともに登壇した社長の“ロッシー小川”こと小川宏氏が登壇
スターダムの選手たちとともに登壇した社長の“ロッシー小川”こと小川宏氏が登壇

ブシロードグループが女子プロレスの運営にも着手

 ブシロード傘下のキックスロード(2019年12月1日に「ブシロードファイト」へ社名変更予定)は19年10月17日、女子プロレス団体「スターダム」と事業譲渡契約を結んだことを発表した。今後キックスロードは現在運営しているキックボクシング「KNOCK OUT」と並行し、スターダムの運営も手掛ける。

 スターダムは11年1月23日に新木場で旗揚げをした女子プロレス団体。約20人の選手とともに会場へ姿を現した同社社長の“ロッシー小川”こと小川宏氏は会見冒頭、団体が20年1月で10年目に突入することやトップ団体としての自負を語った。ブシロード傘下に入る理由は、団体がより大きな発展を遂げると確信したことと、ブシロードの関係者がスターダムに対して深い理解を示したからとのこと。

小川氏は会見の冒頭でブシロードとの事業譲渡を決めた背景などを語った
小川氏は会見の冒頭でブシロードとの事業譲渡を決めた背景などを語った

 会見にはブシロード創業者で同社取締役の木谷高明氏と、キックスロード社長で新日本プロレスリング前社長の原田克彦氏も同席。原田氏は今後の予定として、スターダム10周年に向け20年4月29日に東京・大田区総合体育館で「東京シンデレラ2020」、同年8月8日9日に後楽園ホールでの2連戦を計画していること発表。BS日テレとTOKYO MXでレギュラー番組の放送も決定しており、選手の個性、魅力を伝えていく意向を示した。

19年12月1日よりブシロードファイトへ社名変更するキックスロード。社長の原田克彦氏は、今後のスターダムの試合予定などについて報告
19年12月1日よりブシロードファイトへ社名変更するキックスロード。社長の原田克彦氏は、今後のスターダムの試合予定などについて報告

新日本プロレス同様、キャラクターコンテンツとしてスターダムに期待

 続いてマイクを取った木谷氏は、スターダムとの契約に至った動機を「プロレスのみならず格闘技や各種スポーツにおいて女子選手の存在が大きな位置を占めてきていることを2年ほど前から意識していた」と話す。同氏の認識では、プロレスや格闘技のメジャーな団体において「女子の試合のない団体は存在しない」と言う。

 実際、海外で新日本プロレスが試合を行ったときに「なぜ女子の試合がないのか?」といった声が上がることがあるそうだ。現状では「新日本プロレスのリングに女子選手が上がることはない」と断言しつつも、国内でも「ある日突然、『なぜ女子の試合がないのか?』と世間の空気が一変するリスクがあると思っている」とのこと。

ブシロードのコンテンツ戦略の鍵を握る木谷氏。スターダムへ興味を持ったきっかけは新日本プロレスに欠けた女子選手というピースを埋めるためだったが、すぐに興味はスターダムの持つ魅力とその可能性へと移っていったという
ブシロードのコンテンツ戦略の鍵を握る木谷氏。スターダムへ興味を持ったきっかけは新日本プロレスに欠けた女子選手というピースを埋めるためだったが、すぐに興味はスターダムの持つ魅力とその可能性へと移っていったという

 こうした状況に対し、木谷氏は「何もやらないでいいのか?」という思いを抱いて女子プロレスや格闘技団体のリサーチを始めたという。その中でスターダムが現状も素晴らしいうえ、さらに伸びしろを秘めた団体であるとの報告を受け、興味を持ったそうだ。

 スターダムをもっと大きなものにするため「いくつか目指していきたい方向がある」と述べた木谷氏の発言の中で印象的だったのが、新日本プロレスをグループに迎えたときにも語ったという「プロレスは『キャラクターコンテンツ』だ」というもの。同氏にとって、スターダムもまたキャラクターコンテンツとの認識だ。

 「人間が感動するのは、キャラクターとストーリー。スポーツも例外ではない。スターダムが持つ素晴らしいキャラクターとストーリーをもっと広げるよう努めていきたい」(木谷氏)

 スポーツ部門とライブエンターテインメント部門はブシロードグループにとって重要な事業だ。新日本プロレス同様、「スターダムもグループが誇るキャラクターコンテンツの一つとして、あらゆる方法で世の中に発信し、新しいことをどんどんやっていきたい」と抱負を語った。

既存コンテンツとの連携には慎重な姿勢

 質疑応答でスターダムのどこに可能性を見いだしたかを問われた木谷氏は、スターダムの現状として、観客の年齢層が高く、ほぼ男性しかいないことを挙げた。

 かつて女子プロレスが流行した時代があったが、その人気を支えていたのは女性ファンであったことに加え、「現在は昔よりも頑張っている人を応援したい文化が育っている」ことも指摘。木谷氏は「女子が女子を応援することが増えてきていると実感している」と言う。また、若い男性にも女子選手を応援したい人は少なからずいるはずで、そうした層を取り込み、客層を広げられれば、スターダムは大きく成長すると木谷氏は考えている。

 ブシロードが持つ女性を主体とした他のコンテンツとの連携については、木谷氏は慎重な姿勢を示した。薄く広くではなく、狭く深いコンテンツが豊富にある現代において、「観客は自分が好きなものに違うものが混ざることを嫌がる」(木谷氏)からだと言う。

 しかしコンテンツ連携を完全否定しているわけではない。例えば19年12月7日、8日に米国で開催されるブシロードグループ主催の「CharaExpo USA 2019」では、スターダムの選手による試合も予定されている。このイベント会場にはカードゲームのテーブルだけで1300台、それ以外にステージや一般の出展ブースがあり、プロレスのリングも設営されているという。こうした「アニメもゲームもカードゲームもプロレスも楽しめる、完全なお祭り空間」(木谷氏)であれば、前述のような嫌悪感も抱かれないだろうと見る。

この日登壇した選手たちは、なかなか見ることのできないスーツ姿。会見後にはあいにくの雨の中、フォトセッションが敢行された。撮影後には選手たちから「スーツの撥水(はっすい)加工をしておいてよかった」といった声も
この日登壇した選手たちは、なかなか見ることのできないスーツ姿。会見後にはあいにくの雨の中、フォトセッションが敢行された。撮影後には選手たちから「スーツの撥水(はっすい)加工をしておいてよかった」といった声も

 女子プロレスの選手には舞台経験者が結構いるそうで、プロレスをやりながら舞台に出るといったことは「十分にあり得る話」(木谷氏)で、「これも違和感を抱かれることはないだろう」と語った。かつて新日本プロレスをグループに迎えた際も、東京ゲームショウの会場にリングを設け、試合を披露したことがある。そのときのように、ファンに受け入れられ、前向きに喜んでもらえるようなシチュエーションを探りつつ、少しずつ連携の道を模索する意向のようだ。

 ブシロードは19年7月の株式上場以降、9月の劇団飛行船との業務提携、今回のスターダムの事業譲渡契約締結と、攻めの姿勢が明確だ。その裏にコンテンツ作りの最前線で指揮を執る木谷氏の戦略と配慮がしっかりと存在する。今回のスターダムとの新展開でも、その一端を十分うかがわせた(関連記事:「業績好調ブシロードがマザーズ上場 愛美もセレモニーで鐘鳴らす」「ブシロードが老舗劇団と提携 新たなコンテンツ開拓を目指す」)。

(写真/酒井康治、稲垣宗彦)

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