AI(人工知能)活用はビジネスツールの一大トレンドだ。自社でAIをどう活用すべきか。悩んでいる人も少なくないはずだ。AIの開発や導入支援を行うクレスコの井上祐寛氏は「AIをビジネスで活用するうえで知っておくべきことは、自社データの現状把握や欠損・重複時の扱い方である」と指摘する。

クレスコ 先端技術事業部 テクニカルエバンジェリストの井上祐寛氏。企業の業務課題へのAI導入コンサルティングや講演、執筆活動を行っている。これまでに大手企業を中心に11社へのAI導入支援の実績がある
クレスコ 先端技術事業部 テクニカルエバンジェリストの井上祐寛氏。企業の業務課題へのAI導入コンサルティングや講演、執筆活動を行っている。これまでに大手企業を中心に11社へのAI導入支援の実績がある

根本的な質問ですが、そもそもAIとは何でしょうか?

井上祐寛氏(以下、井上) 私たちエンジニアは、AIを「知的な振る舞いをするソフトウエアやハードウエア」と定義しています。身近なところでは、お掃除ロボットのルンバが挙げられます。自分で家の間取りを認識して、人間が指定しなくても自動で掃除をしてくれます。さらに、充電が切れそうになると、自ら充電スタンドに戻ることもできます。

AI=ディープラーニングではない

 AIでありがちな誤解の一つが、AIブームの火付け役となったディープラーニングの存在です。一躍有名になったことで「AI=ディープラーニング」と解釈する人もいますが、ディープラーニングは、AIに学習させるための手法の一つにすぎません。AIが「学習」するとはどういうことか、簡単にご説明します。

 AIの精度を高めるには大量のデータを学習させる必要があり、その手法は「機械学習」と呼ばれています。例えば、「赤いリンゴ」の画像を識別するAIを開発する場合、機械学習では、赤や青など大量のリンゴの画像を読み込ませた上で、画像一つ一つに「赤いリンゴ」や「青いリンゴ」などのタグを付けていきます。その上で、人間が「色」に注目するよう指示を与えると、AIは新しい画像がどの色かを見て、赤いリンゴに該当するかを判断します。

 ディープラーニングは、この従来の機械学習から、より発展した学習手法です。機械学習ではリンゴの「色」に注目するよう指定しましたが、ディープラーニングは、その画像が「赤いリンゴ」に該当するかという特徴を自ら見つけて学習します。それにより人間の言葉では特徴を伝えるのが難しい画像も、AIが勝手に特徴を見つけ出して、正しい画像かの判別をしてくれます。ディープラーニングの登場により、画像認識の精度は大幅に向上しました。

 「ディープラーニングを使っていなければAIじゃない」と話す人もいますが、業務の課題を解決するのが目的なら、従来の機械学習をしているAIでも十分役立ちます。

井上氏のプレゼン資料より。ディープラーニングは機械学習の一部であることが分かる
井上氏のプレゼン資料より。ディープラーニングは機械学習の一部であることが分かる

自社でAIを活用できるかの判断はどうすればいいのでしょうか?

井上 まずは、既にAIを導入している同業他社がないか探してみましょう。類似する事例があれば、自社の状況に照らし合わせることで、導入に向けた具体的なイメージを持てると思います。

 インターネットで検索するだけでも十分です。導入事例が紹介された記事を検索したり、同業他社のHPやリリースを探したりしてみましょう。AI導入でどんな課題を解決したかが分かれば、自社で導入する際にどんな準備が必要かも分かるはずです。例えば、AIを稼働させるには学習させるデータが必要です。事例を見ると、同業他社ではどのようなデータを使ってAIを業務に生かしているのかが見えてきます。

エンジニアに一目置かれるには

データを集めるうえでのポイントは?

井上 自社が収集しているデータの中で、想定している課題解決に役立つものは何か。また、そのデータをどのような形で収集、保有、廃棄しているのかといったライフサイクルを調べておくことです。収集していても、欠損や重複が発生しているデータの取り扱いをどうすべきか把握しておくと、AI導入時のエンジニアとの会話にも役立ちます。

 例えば、毎分センサーで情報を記録している場合、ある期間だけデータが取れていなかったとします。そうした場合には(1)直前の値と同じ値を使う。(2)直後の値と同じ値を使う。(3)前後の値の平均値を使う。(4)特定の値で置き換える。以上の4つの選択肢をエンジニアから受けると思います。その際には自社の業務では、どの選択肢が望ましいか事前に考えておくと、実際にエンジニアと各選択肢のメリット・デメリットを議論するときにスムーズです。

 またデータには欠損や重複といった不備があって、当たり前だと思っていていただくといいでしょう。例えば、顧客情報ですが、社名変更をした企業の情報が旧社名のままで残り、社名変更後のデータとは別になっているといったことはよくある話だと思います。

過去のデータが大事ということになると、ゼロから何かを作るのは苦手ということでしょうか?

井上 AIは人間よりもはるかに速いスピードでさまざまなものを生み出してくれるように錯覚しがちですが、AIが行っているのは、過去の膨大なデータを手掛かりに起こり得る事象を推定すること。アウトプットを導き出すには過去の事例が必要なので、人間がデータを入れてあげないと何も始まりません。

 さらに、AIを作る際は、入力するデータの条件や枠組みをある程度限定してあげる必要があります。例えば、音声で今日の天気を教えてくれるAIに、野球の試合結果を聞いても適切な答えが返ってこないのは何となくイメージができると思います。人間は枠組みに収まらない想定外のことが起きても、適切と思われるゴールが設定でき、かつ会話の着地点を作り出すことができますが、AIはゴールを限定しないといけないのが違いです。ミスの発生が許されない分野や業務へ導入するのではなく、人の業務を支援、サポートする機能であることを理解しておくと、AIにガッカリすることもないと思います。

 今のAIには、完成品の検品や品質チェック、医療における画像診断など、人が一定の基準を設けて「OK」や「NG」といった何らかの判断をしている作業が向いています。判断するための材料が多数存在していたり、見た目など言葉では伝えにくい部分の判断をサポートしたりする目的でAIを導入すれば、時間の短縮につながります。

 もう一つは、経験の差をAIで埋めるような活用方法です。例えばコールセンターのオペレーター。慣れているベテランの人は、どのような問い合わせが来てどのように返せばいいかが大体分かっているので、問い合わせへの対応時間が短くて済みます。一方、入ったばかりで不慣れな人は、マニュアルを探し回るなど、的確な回答を見つけるまでに時間がかかるでしょう。そこで、過去の問い合わせ音声を学習したAIを開発し、問い合わせが来た際に適切な回答の候補を提示してくれれば、経験が浅い人でもベテランとの差が縮まります。

AI導入、2つの選択肢

具体的には、AIの開発はどのように行われるのでしょうか?

井上 AIの導入方法は大きく2つに分かれます。一つが、「Web API」と呼ばれるAI開発者向けに提供されたクラウド上のAIサービスを活用して開発する方法です。

 IBMが提供する「Watson」や、マイクロソフトの「Azure Cognitive Services」、アマゾンの「AI サービス」などが代表例で、最も簡単にAIを導入できます。画像認識や音声認識、チャットボットなど、あらかじめ開発された機能が用意されているので、自社の課題にフィットするかが容易に見極められます。高度なプログラミング技術やディープラーニングに関する専門的な知識は必ずしも必要とはしません。

 ただし、あらかじめ開発された機能を活用するだけなので、自由度が低いのは欠点です。Web APIで提供されているプログラム以上のことはできません。自社の課題にフィットしない場合は、2つ目の選択肢である独自開発を行います。

画像認識AIは数十枚の画像で作れる

AIを自分で作ってみることは可能でしょうか?

井上 AIをゼロから作るのは困難ですが、Watsonの様なWeb APIでAIの機能を体験することは比較的簡単です。私が主催したAIの勉強会でもGUIツール(プログラミングを使わない平易な操作法)を使うことで、プログラミングを知らなくてもWatsonを使って実際に会話ができるチャットボットや画像を認識するAIを作ってもらったことがあります。外注で作ったAIを使うだけでは、自社にとってブラックボックスになってしまうので、より上手に活用したり、AIの仕組みをより理解したりするために自分で作ってみたいというニーズがあります。

 特に画像認識は非常に簡単です。例えば、過去にうどんの画像を分類するAIを作ってもらいました。画像を見て、「味噌煮込みうどん」「カレーうどん」「鍋焼きうどん」のどれかを判別するAIです。3種類のうどんの画像をそれぞれ10枚程度用意して、味噌煮込みうどん、カレーうどん、鍋焼きうどんの画像であるというラベルを貼った上で読み込ませればAIは完成。

 あとは、新しい画像をAIに見せると、それがどのうどんに該当するか回答を提示してくれます。新しく読み込んだ画像にもラベルを付けて学習させれば、どんどんデータが増えてAIの精度が上がっていくわけです。

井上氏が勉強会で見せるためにWatsonで作ったうどんの画像を見分けるAI。画像を読み込ませると「カレーうどん0.90」「味噌煮込みうどん0.03」「鍋焼きうどん0.01」など画像が3つのどれと似ているかを数値化して示す
井上氏が勉強会で見せるためにWatsonで作ったうどんの画像を見分けるAI。画像を読み込ませると「カレーうどん0.90」「味噌煮込みうどん0.03」「鍋焼きうどん0.01」など画像が3つのどれと似ているかを数値化して示す

 ちなみに、「猫」や「山」など読み込んだ画像がうどんと全く関係がない場合でも「信頼度は低い」とした上で、3種類のうどんのどれかに分類します。

 もちろん、うどんの画像ではなく、風景や動物など他の画像でも作れるので、普段よく撮影している写真を引っ張り出してみましょう。Web APIを使うだけなら、無料で試せます。パソコンさえあれば他のソフトも要りません。

(写真/藤原達矢、画像提供/クレスコ)

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