2019年9月にぴあ総研が発表した「ライブ・エンタテインメント市場規模の調査結果」によると、18年の音楽ライブの市場規模は3875億円で前年比11.8%増となった。そのうちの約300億円を占めるのが、右肩上がりの成長を続けている音楽フェスだ。

1997年に山梨県の富士天神山スキー場で初開催された「フジロックフェスティバル」は、日本の音楽フェスの先駆けと言える存在。99年からは新潟県湯沢町の苗場スキー場で開催されているが、「フジロック」の名称は受け継がれている
1997年に山梨県の富士天神山スキー場で初開催された「フジロックフェスティバル」は、日本の音楽フェスの先駆けと言える存在。99年からは新潟県湯沢町の苗場スキー場で開催されているが、「フジロック」の名称は受け継がれている
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子連れでも来場しやすく

 いまや“国民的娯楽”ともなった音楽フェス。その多くは8月に開催されるため、“夏フェス”とも呼ばれる。その代表とも言えるのが、野外音楽イベントとしては最大規模の「FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル、以下フジロック)」だ。「ROCK IN JAPAN FESTIVAL(ロック・イン・ジャパン・フェスティバル)」「SUMMER SONIC(サマーソニック)」「a-nation(エーネイション)」「ULTRA JAPAN(ウルトラジャパン)」などと共に多数の音楽ファンを集めるフジロック。過去10年間の平均来場者数は約12万人、2019年は前年の約12万5000人から5000人増の約13万人となった。

 フジロックのチケットは3日間の通し券が4万5000円、1日券が2万円と決して安くはない。このチケット代に加え、宿泊費、交通費、飲食代などもかかる。それだけの費用にもかかわらず、来場者が増え続ける理由はどこにあるのか、取材すると来場者の利便性を高める3つの仕掛けが見えてきた。

最大規模の「グリーンステージ」では、悪天候にもかかわらず立ち見が出た
最大規模の「グリーンステージ」では、悪天候にもかかわらず立ち見が出た
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 1つ目は、フジロック開催20周年にあたる16年に導入されたキャッシュレス決済だ。運営会社のSMASH(スマッシュ)によれば、導入理由は「来場者の利便性向上のため」。利用率も年々増加しているという。フジロックには海外からの客も少なくないが、キャッシュレス決済はインバウンド客の利便性向上にも貢献している。 「海外からの客はほとんどがキャッシュレス決済。以前は欧米からの旅行者が多かったが、ここ数年はアジア系の旅行者が増えた」と、例年、会場でTシャツなどを販売している「SLOW TURTLE(スロータートル)」の店主・山口晴康氏は言う。「楽天Edy」や「nanaco」、「Suica」「WAON」「iD」や「QUICPay」など利用できるサービスも豊富。導入から3年でキャッシュレス決済を選択する購入者が半数以上となったという。

利用可能なプリペイド型の電子マネーは「楽天Edy」「nanaco」「Suica」「WAON」など。ポストペイ型の電子マネー「iD」「QUICPay」にも対応
利用可能なプリペイド型の電子マネーは「楽天Edy」「nanaco」「Suica」「WAON」など。ポストペイ型の電子マネー「iD」「QUICPay」にも対応
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 2つ目は、子連れでも来場しやすい環境の整備だ。同じく16年から公式に開設されている子連れ向け情報サイト「こどもフジロック~FUJIROCK FOR FAMILY~」は、子連れでのさまざまな楽しみ方を提案する。子育て中のライターによるレポートを中心に、子連れ参加経験者のインタビュー記事を織り交ぜ構成された、「子連れフェスをみんなで助け合って楽しむためのメディア」(こどもフジロック公式Twitter)だ。

 音楽フェスは全体的に若年層の来場者数が伸び悩んでおり、リピートしてくれる音楽ファンは重要。ただ、以前からフェスに来ている人たちは子供がいる年代になっている。こうした世代向けに子連れでも楽しめるフェス体験を訴求する。

 同フェスに毎年参加している“フジロッカー”やフジロックの運営スタッフも「子供が増えたのはここ2~3年」と口をそろえる。スタッフの一人によれば「以前は幼稚園児くらいの子供が多かったが、19年の前夜祭はベビーカーでの来場者が目立った。Instagram(インスタグラム)のハッシュタグ『#こどもフジロック』を見て(日本最長のゴンドラである)『ドラゴンドラ』に乗りにくる子供も多い」とのこと。「こどもフジロック」の人気には、来場者によるInstagramでの拡散が大きく影響しているようだ。

「キッズランド」内の「森のステージ」では、フェースペイントなど子供向けイベントが数多く開催される
「キッズランド」内の「森のステージ」では、フェースペイントなど子供向けイベントが数多く開催される
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「ドラゴンドラ」に揺られた先にある「デイドリーミング」エリアも子供向けの設備が充実
「ドラゴンドラ」に揺られた先にある「デイドリーミング」エリアも子供向けの設備が充実
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潜在顧客の満足度を高める仕掛けも

 加えて、入場料も割安に設定する。開催初年度から設けていた「小学生まで入場無料」から、16年には「保護者同伴に限り中学生まで入場無料」に拡大した。こうした環境整備が奏功し、フジロックでは中学生以下の子供がいる世代の来場が増えた。子供の来場者数は16年からの3年間で倍増しており、18年は4000人近くがフジロックを訪れたと見られる。SMASHによれば、子供の来場者数は全体の約3~4%程度。フジロックにおける子連れ参加者の増加について、「フェス文化の成熟の証し」とSMASH FUJI ROCK FESTIVAL事務局 の石飛智紹氏は分析している。

 「フジロックには、創成期から『親子3世代で参加してほしい』という基本コンセプトがある。『キッズランド』は1997年の第1回からあった。20年以上も継続すれば、初期世代が子育て世代となるのは必然とみて、ファミリーで参加しやすい環境を整えてきた。『こどもフジロック』はその一環」(SMASH)

 3つ目は、18年に始まった「YouTube」でのライブ配信だ。ライブ配信の総再生回数は、18年の約1200万回に対し、19年は約1670万回と約39%の伸びを見せた。会場に来られない音楽ファンでもフェスを楽しめるようにし、潜在顧客の満足度を高める仕掛けだ。

 全世界を対象にした生配信の狙いについてSMASHは、「フジロックの存在、そして出演アーティスト、特に邦楽アーティストを世界に知ってもらうため」だと言う。「生配信終了後は、TwitterやInstagram、YouTube公式チャンネルのフォロワーが増えるなど、アーティストへ還元できていることが数字で見える」。

 Twitter上にはライブ配信の視聴者である“在宅フジロッカー”たちからの「来年は実際に行きたい」という声も多く、翌年の来場に結び付ける効果もありそうだ。

ステージのもようはフジロックのYouTube公式チャンネルでライブ配信された
ステージのもようはフジロックのYouTube公式チャンネルでライブ配信された
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 石飛氏は「継続による積み重ねが文化となり、結果的に集客定着に結びつけていきたいと考えている」と話す。来場者の満足を高め、何度も来てもらうには場内環境の整備なども重要になってくる。今後は、先端技術も積極的に取り入れる。19年はソフトバンクが5Gを使った新たなエンターテインメントの体験コーナーも設置した((関連記事「伝統のロックフェス、最前列へ5Gでダイブ “胸熱”な新体験」) )。新しい技術とライブ配信を組み合わせたりすることで新たな音楽フェスの楽しみ方が生まれる可能性もある。

(写真/小林恵里)