カシオ計算機の腕時計「G-SHOCK(Gショック)」シリーズが中国で売り上げを伸ばしている。世界的な人気を誇るG-SHOCKだが、これまで中国では認知度が低かった。それが2014年度から18年度にかけて約20%高まり、その結果売り上げも約3倍になったという。カシオの中国マーケ戦略を解説する。

中国でG-SHOCKがヒットしているカシオ計算機。中国食文化と組み合わせたユニークなプロモーションも仕掛けた
中国でG-SHOCKがヒットしているカシオ計算機。中国食文化と組み合わせたユニークなプロモーションも仕掛けた

 カシオ計算機は、1996年に中国でG-SHOCKの販売を開始した。だがその認知度はなかなか上がらなかった。その理由は、ウレタン樹脂を使ったデジタル時計のイメージにあったという。

 カシオ計算機の海外営業統轄部 時計部 推進一課 高橋一也氏は、「中国はアナログ時計が人気でデジタル時計は人気がなく、また光るメタル至上主義的なところがある。ウレタン樹脂を使った黒いデジタル時計を認知してもらい、身に着けてもらえるようにすることがまず課題だった」と振り返る。

 メインターゲットを18~35歳男性として、そうした人たちに身に着けてみたい、買いたい、と思ってもらうため、中国の若者の琴線に触れる「商品」「プロモーション」「流通」「価格」の工夫を積み重ねていった。

 商品開発を担当する、同社事業戦略本部 時計BU 営業戦略部 第一企画室 担当課長 伊藤卓氏は、「中国の大きな特徴はネット市場の大きさ。中国ではネットで買い物をする人のうち8割以上が35歳以下。つまりG-SHOCKのメインターゲットと重なる。デジタル時計のG-SHOCKを価値あるものとして認識してもらうため、店頭と並行してネットを中心に情報拡散、ブランディング、販売に取り組んできた」と語る。

 しかしネットの写真を見ただけでは購入してもらうのは難しく、店頭で実物を試した後にネットで購入する、あるいはネットで見てから店頭で購入することが多い。カシオショップなどリアル店舗作りにも力を入れた。「装飾品は実際に身に着けてもらい、体験してもらうことが重要。そのため店頭もネットもしっかり作ってきた。ネットとリアルを一体化することで情報の拡散力が増す」(高橋氏)

 ネットで商品を見て実物を確かめずにそのまま購入し、届いた商品が思っていたものと違えば、誰だってガッカリする。中国人はそうしたことに敏感で、ネットでの買い物でだまされないという点で大変賢いという。ネットと店頭の価格比較にも厳しい。そこで、カシオではネットでも店頭でも同じ価格で販売している。そうすることで好感度が上がり、支持を得られるという。

 「中国人が日本に来て買い物をするのは、そのほうが安く、また中国では売っていないものが手に入るから。カシオでは、中国でも日本と同じものを同等の価格で販売している。『中国でも日本と同じ価格で同じ製品が手に入る』ことが、カシオの好感度を上げてファンを増やすことにつながっている」(高橋氏)

中国でのG-SHOCK躍進の仕掛け人、カシオ計算機の海外営業統轄部 時計部 推進一課 高橋一也氏
中国でのG-SHOCK躍進の仕掛け人、カシオ計算機の海外営業統轄部 時計部 推進一課 高橋一也氏

テレビ、新聞、雑誌は誰も見ない

 ネットの流通では、天猫(Tmall)や京東商城(JD.com)などの大手ECサイトでの取り組みを強化した。中国は春節、婦女節、七夕節、国慶節、光棍節(独身の日)など年間を通して商戦期が多く、ECサイトのセールなどを含めるとほぼ毎月のように商戦期がある。そうしたタイミングに合わせてネットでアピールすることが効果的だという。

 中国のECサイトは、それ自体がマスメディアのような媒体になっている。流通とプロモーションが一体化しているので、拡散力や販売力が非常に強い。「今や8~9割の人がスマホでECサイトを見て買い物している」(高橋氏)という。

 ECサイトでは、ユーザーを引き寄せるための仕組みが発達している。G-SHOCKも含めてさまざまなブランドデーやイベントを仕掛け、商品を展示するだけでなく、ユーザーが見たくなる、読みたくなるコンテンツを掲載する。SNSも日本とは比べものにならないぐらい発達しており、仕事でもメールを見ないで上司を含めてSNSのメッセージで仕事をするため、ビジネスのスピードがとても速いという。

 「みんな、テレビや新聞、雑誌は検閲があってつまらないので見ない。若い人は時間さえあれば、ずっとスマホでネットを見て情報を収集している。そこでいいもの、引っ掛かるもの、新しいものを貪欲に求めている」(高橋氏)

 そのため、雑誌やテレビ、新聞に広告を出すことはほとんどやっていない。そうした日本式のプロモーションを持ち込んでも効果がないのだ。

 「雑誌やテレビに広告を載せても商品はまったく売れない。しかしWeibo(微博・ウェイボー)やWeChat(微信・ウィーチャット)といったSNSに誰かが『これはすごくいい製品だ』と写真を載せると、あっという間に広がってその製品が売れることがある」(高橋氏)

 製品の善しあしではなく、SNSで拡散されたかどうかで売れ行きが決まるようなことも少なくないようだ。

 「もちろん、G-SHOCKは製品をしっかり作っている。その上で、ネットやSNSでユーザーに引っ掛かった点をどうやったら広げていけるのか。それを中心にマーケティングをしてきた。例えば中国の人は購入したものの写真をSNSで公開して自慢することが多い。SNSで『いい時計してるね』と言われればうれしいだろう。そこで限定モデルなど、自慢できるポイントを必ず作るようにして、そこをアピールして買ってもらえるようにしている」(高橋氏)

中国の文化に合わせた製品作り

 中国で主に好まれるのは、アナログにデジタル表示を組み合わせたモデルだ。日本で販売しているものの中から、中国で売れそうなものを絞っているが、日本や他の国では問題なくても、中国ではNGなモデルがあるという。

 「色遣いにも国ならではの事情がある。例えば中国で黄色は、昔の日本のピンク映画の“ピンク”のイメージで印象がよくなく、あまり使えない」(高橋氏)

 数字や文字列にもNGなものがある。

 「“250”や“SB”は中国では“バカ”や“大バカ”という意味になってしまうので、これらが型番などに入っているだけで現地のスタッフから“これは取り扱わない”と言われてしまう」(伊藤氏)

 中国独特の文化に合わせた商品も用意した。干支(えと)に合わせたモデルや、七夕に合わせたペアウオッチ、四神をモチーフにしたモデルなども用意した。パッケージも派手な見せ方を重視するなど中国市場に合わせた。

ペアモデルのメインは日本だとクリスマス時期だが、中国では七夕になる。それに合わせてG-SHOCKとBABY-Gのペアウオッチを用意した。これはその一つ「SLV-19A」(写真提供/カシオ計算機)
ペアモデルのメインは日本だとクリスマス時期だが、中国では七夕になる。それに合わせてG-SHOCKとBABY-Gのペアウオッチを用意した。これはその一つ「SLV-19A」(写真提供/カシオ計算機)
これも中国の七夕に合わせたペアウオッチ「SLV-19B」。いずれも日本未発売の中国向けモデル(写真提供/カシオ計算機)
これも中国の七夕に合わせたペアウオッチ「SLV-19B」。いずれも日本未発売の中国向けモデル(写真提供/カシオ計算機)

 中国のECサイトは、ネットだけでは売り上げが伸びないので、最近はイベントやポップアップショップに力を入れている。G-SHOCKも、日本と同様に実物に触れられる体験イベントやスポーツイベントへの協賛などを行っているが、中国ならではの考え方や文化をイメージして一風変わったコラボもしている。例えば中国の食文化とのコラボだ。

 「中国は食文化がすごい。それと若者文化を掛け合わせた、例えば火鍋×若者をテーマにした斬新で若者を集める店などがたくさんある。そこで食文化をテーマにしたイベント案内やディスプレーを行ったり、火鍋をモチーフにしたパッケージを用意したりするなどして、それをネットで中国全土に発信した」(高橋氏)

 異色のコラボを行ったのは、G-SHOCKを知らない人の認知向上が目的だ。G-SHOCKの認知を高め知ってもらうために、食文化をはじめ、さまざまな分野とのコラボに取り組んできた。

 「スポーツに興味がある人はすでにG-SHOCKを知っていることが多い。しかし食文化が興味の中心である人はほとんど知らないだろう。これまでにない分野とのコラボを行うことで、G-SHOCKを知らない人たちに知ってもらい、新しいファンを取り込める」(高橋氏)

若い富裕層を狙う

 認知向上とともに、ブランドステージの向上にも取り組んできた。日本円で1万円台のベーシックなモデルだけでなく、G-SHOCKのプレミアムラインの販売にも力を入れている。中国には、IT産業などで稼いで若くして裕福になった人が多い。最初は若い人に支持してもらおうと日本円で1万6000~2万円の価格帯のモデルを中心に展開していたが、G-SHOCKが好きな若い人の中にお金持ちが多いことに気がついたという。

 「G-SHOCKを卒業するとオメガやロンジンといったブランドに行ってしまう。そうした人にカシオのプレミアムラインを身に着けてもらおうと、G-SHOCKのプレミアムライン中心にプロモーションをかけている」(高橋氏)

 日本ではベーシックなモデルを中心に長年展開し、G-SHOCKファンの年齢層が上がるにつれてプレミアムラインも展開するようになっていった。それが中国では、ブランド確立とプレミアムラインの展開を同時に推し進めている格好だ。G-SHOCKストアのような実店舗への展開や高級モールへの出店など、富裕層に刺さるような展開を進めており、プレミアムラインの販売比率はだんだん上がっている。メタルを使ったモデルが人気だという。

 デジタルへの抵抗感は、G-SHOCKのオリジンを紹介することで薄れてきた。

 「G-SHOCKを説明するときに『G-SHOCKはここから始まった』とオリジンとして初代モデルを取り上げる。それによって、例えばジーンズ好きが初期のジーンズと同じモデルを求めるように、初代と同じ形のG-SHOCKを欲しがる人が徐々に増えてきた」(高橋氏)

 同じ形のメタルモデルが出たこともタイミングがよく、デジタルの浸透につながった。まだデジタルが完全に受け入れられているというわけではないが、初代G-SHOCKの形のデジタルは好きだという人が増えているという。

1983年に発売された初代G-SHOCK「DW-5000C-1A」(写真提供/カシオ計算機)
1983年に発売された初代G-SHOCK「DW-5000C-1A」(写真提供/カシオ計算機)
2018年に発売された「GMW-B5000D-1JF」。初代G-SHOCKをフルメタル化したデザインで、世界中で人気を集めている(写真提供/カシオ計算機)
2018年に発売された「GMW-B5000D-1JF」。初代G-SHOCKをフルメタル化したデザインで、世界中で人気を集めている(写真提供/カシオ計算機)

G-SHOCKを理解して買ってくれるファンを作ること

 中国ならではの切り口やファンを増やす方法など、まだまだできること、やれることは多いという。目的はただ売るだけでなく、G-SHOCKを理解して買ってくれるファンを作ることだ。

 「中国には時計店がほとんどない。しかしカシオショップならある。だからブランドを認知してもらい、“時計を買いに行こう”ではなく、“カシオを買いに行こう”となってもらうことが必要だ」(高橋氏)

 中国には、ファンになったら2度、3度とリピートしてくれる熱心なユーザーが多いという。

 「中国は人とのつながりを大切にする国だ。認知度を高めてファンを作り、そのつながりを尊重して大事にしないと通用しない」(高橋氏)

 今後は女性市場に注目している。

 「中国は男性以上に女性がお金を使う。そこに気がついて女性市場に注力し始めている。G-SHOCKには女性向けサブブランドのBABY-G(ベイビーG)があるが、これが以前から子供向けの丈夫な時計として売れていた。それを身に着けていた人たちが成長し、G-SHOCKを身に着けるようになってきた」(高橋氏)

 中国の女性の間でもG-SHOCKの人気は急上昇中だという。女性市場も取り込むことで、カシオの中国市場での売り上げがさらに伸びることになりそうだ。

(写真提供/カシオ計算機)

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