米インテル日本法人はeスポーツイベント「Intel World Open」の開催を発表した。海外ではeスポーツで実績のあるインテルが満を持して日本で仕掛ける大会だ。同社の鈴木国正社長と大会公式タイトル「ストリートファイターV」を販売するカプコンの辻本春弘社長へのインタビュー後編。
eスポーツを直接観戦する機会を増やしたい
――eスポーツの裾野を広げる意味では、オフラインイベントを直接観戦する楽しみ方があります。「Intel World Open」によって、eスポーツをオフラインで楽しむ機会が増えることに関してはいかがでしょうか(関連記事・インタビュー前編「PCもゲーム機の主軸に 新eスポーツ大会に懸ける社長の構想」)。
辻本春弘社長(以下辻本) グローバルで捉えたとき、やはりeスポーツイベントの規模が違います。「Intel Extreme Masters Sydney 2019」は一番高い入場料で1299ドルなど、安くはありません。それでも2万人以上の来場者を集めてしまうのです。さらに大会期間中のオンラインによる観戦者数は累計2000万人を超えます。我々も「ストリートファイター」を活用した年間ツアーとして、「CAPCOM Pro Tour(カプコンプロツアー)」を米国子会社主体で実施してきましたが、ようやくグローバルで本格展開できるようになりました。
日本では東京ゲームショウ2018で「CAPCOM Pro Tour ジャパンプレミア」の開催にこぎ着け、「ストリートファイターリーグ」を19年に始めたばかりです(関連記事「eスポーツ普及はカプコンの使命 次世代育成狙う新リーグも始動」)。eスポーツのライブイベントは2020年からもっとやりたいですし、その前提でIntel World Openに向けて行動していきたい。まずは、数百人規模でもいいのでライブイベントを展開していきたい。これは興行として考えているので、有料化を目指します。さしあたっては20年の「ストリートファイターリーグ」の予選から実施しようと思っています。
地方開催も視野に入れています。自治体と組んで、チームを地方に展開して地域の活性化につなげていこうと思います。その際も、プラットフォームがPCベースであることは優位に働くと考えています。PCは汎用機であり仕事など他の用途にも使えるので、地方自治体に大会を管理してもらう際に、ハードとして導入していただきやすくなるわけです。
――若い人とPCとの関わりについてはどのようにお考えですか。
鈴木国正社長(以下鈴木) 現在、PC市場は極めて安定した状態にあり、BtoB市場で見ると、拡大しています。働き方改革をはじめ、多くの人がPCを必要とし始めているからでしょう。PCはいろいろな使い方ができるので、今までとは違う用途を提案できます。その1つがゲーミングです。他にもVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などがありますが、PCパワーが必要になってきます。モバイルだけではどうしても賄えない部分が出てきますよね。こうしたPCならではの使い方が、若い層にもアピールできると考えています。
ゲーミングPCというとデスクトップをイメージする人もいますが、現在はノートでも十分楽しめることを打ち出していきたい。そうしたPC周りのことをシンボリックに表現する意味合いとして、今回の大会があるわけです。
知的財産についての権利は主張する
――基本的にeスポーツはIP(ゲームのキャラクターなどの知的財産)ホルダーが大会を運営することが多く、第三者による運営は多くありません。Intel World OpenでIPホルダー以外が主催するイベントの指針が示せれば、カプコンにさまざまな大会開催のオファーがくる可能性が出てきます。
辻本 長年「ストリートファイター」を使ってカプコンプロツアーを開催していますが、個々の大会はコミュニティーベースであったりします。しかし「ストリートファイターリーグ」については我々IPホルダーが主導すべきだと思っています。カプコンが目指しているのは、プロ野球やJリーグのようなプロスポーツリーグです。運営母体があって、各リーグに所属するチームが存在する形です。この運営にIPホルダーが加わることで、健全性が保たれると考えています。
他のスポーツとeスポーツが違うのは、ゲームコンテンツがあって初めて成り立つ点です。そのコンテンツにゲームメーカーが投資をしているわけです。したがって、知的財産権も存在しますし、アップデートや次回作の開発に向けた資金集めもしなくてはなりません。それらを踏まえると、やはりIPホルダーが主体的に関与するメリットがあると考えるべきでしょう。
――eスポーツイベントをIPホルダーが管理することで、一定以上の水準が保たれる側面もあるということですね。
辻本 海外、特に米国ではコミュニティーベースで始めた大会が次第に大きくなっており、さらなる発展に向けて大会開催にあたってのルールを整備すべく、コミュニティーとIPホルダーが議論し始めています。
これまで日本では、コミュニティーベースでも大会をなかなか開けませんでした。それが18年に日本eスポーツ連合(JeSU)が発足して、IPホルダーを中心にeスポーツを推進していけるようになりました。こうした動きは世界的にもまれなケースですから、海外のIPホルダーから、なぜ日本ではIPホルダーがしっかりグリップできているのかと聞かれます。
日本は海外に比べてeスポーツの普及が遅かった。ただ、そのおかげで諸外国が抱えていた問題などが整理された状態で取り組みを始めることができたのです。今回の東京ゲームショウでも多くのeスポーツイベントが開催されていましたが、JeSU主催とIPホルダー主催のイベントが併存しています。
――IPホルダーがコミュニティーベースの大会も管理するとなると、チェックが大変なのではないでしょうか。
辻本 申請内容をチェックし、承認できるかどうかの判断をしています。管理するというわけではありません。当社としては、今後の発展に向けた分析のために各大会の実績は把握しておきたく、大会のデータを提供してもらったり、結果について報告してもらったりはしています。無料の大会に関しては申請料などもいただいていませんし、申請していただくことでIPホルダー公認の大会になりますから、双方にとって望ましい結果になるのではないでしょうか。
PC関連ブースの拡大を見て、「迎え入れられた」印象を受けた
――今回の東京ゲームショウ2019の印象はいかがでしたか。
鈴木 eスポーツ関連からコンシューマー、モバイルまであらゆる分野が出展しており、現在のゲーム業界を反映していると感じました。PC関連のブースも拡大しており、こんなにPCが注目されているのかと驚いたくらいです。以前、辻本社長が「これからはPCもやらないといけませんね」と話されていたので、すごく迎え入れられた印象を受け、本気でPCに取り組んでこられたことが分かりました。
確かにゲームでもPCを推進したいと思っています。しかしそれは家庭用ゲーム機に取って代わったり、市場を奪い合ったりということではありません。PS4は総合体験プラットフォームとして優秀です。PCはそれに加えてゲームの楽しみを深めるものであり、「足し算」という認識ですね。
辻本 2019年は米国のE3や中国のChinaJoyにも行きました。名だたるゲームショウを見てきましたが、東京ゲームショウは総合的に世界一のゲームイベントになったのではないでしょうか。国内外の多種多様な人や企業が参加してくれていますし、ホスピタリティーが高く、安全面もしっかりしています。イベントとしての質や国際性では、世界トップクラスでしょう。今回は5Gも話題となりました。5Gの恩恵を受けるのはスマートフォンとも言われていますが、PCこそ恩恵を受けると思います。鈴木社長もおっしゃっていますが、PCと家庭用ゲーム機は共存できます。グローバルにおけるゲーム市場はまだまだ拡大します。これからのゲームビジネスの世界は、家庭用ゲーム機に加え、PC市場も巻き込んでいくことになるでしょう。
(写真/中村 宏)