米インテルの日本法人は賞金総額50万ドル(約5400万円)のeスポーツ大会を2020年7月に開催すると発表した。そこで同社社長の鈴木国正氏と、大会公式タイトル「ストリートファイターV」を販売するカプコン社長の辻本春弘氏にインタビューを実施。その狙いを2回に分けてお届けする。
海外では10年以上eスポーツと関わってきたインテル
――2019年9月11日に新たなeスポーツイベント「Intel World Open」の東京開催を発表されましたが、インテルとカプコンが手を組んで大会を手掛けるのには驚きました(関連記事:「賞金総額25万ドル!『ストリートファイターV』大会を発表【TGS2019】」)。そもそもお二人は旧知の仲だそうですね。
辻本春弘社長(以下辻本) 鈴木社長は以前、旧ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)にいらっしゃいまして、PlayStation(PS)を担当されていました。PS4を発売するタイミングで、カプコンへあいさつに来てくださったのが最初の出会いです。
鈴木国正社長(以下鈴木) PS4ではネットワークサービスを充実させたかったので、辻本社長に相談というか話をしに行きました。その後しばらく疎遠だったのですが、私がソニー・ピクチャーズ エンタテインメントに移ったとき、米国のゲーム見本市「E3」のカクテルパーティーで久々にお会いました。要所において顔を合わせている印象があります。
辻本 そうした経緯やご縁があったから、今回のIntel World Openに至った感じがします。
――日本のeスポーツファンから見ると、インテルが日本でeスポーツイベントを開催するのを意外に思う人もいるでしょう。
鈴木 日本では知らない人も多いと思いますが、インテルは海外で以前からeスポーツイベントに力を入れて取り組んでいます。「Intel Extreme Masters」という大会は、それこそ10年以上の歴史があります。そこで日本の状況を考えたところ、ちょうどeスポーツブームが起こり、一般の人々の認知度も格段にアップしていました。時期的には申し分ないと思い、新たな大会の開催を決めました。
日本でeスポーツイベントを開催するなら、日本の強いコンテンツを使いたい。そこで白羽の矢を立てたのが、カプコンの「ストリートファイター」です。辻本社長とも知らない仲ではないとなると、もうやるしかないじゃないですか(笑)
日本はコンシューマー市場におけるゲーミングPCの割合が、世界と比較してかなり少ない。つまりこれから大きく伸びる可能性がある。インテルとしてPCをどうするか考えたとき、eスポーツが起爆剤になるだろうと。Intel World Openはゲームを楽しんでいる人たちが、PCに着目するきっかけになってほしいですね。
世界を見据えたとき、「PCも主軸」がカプコンの戦略
――カプコンも2013年以降「CAPCOM CUP(カプコンカップ)」や「CAPCOM Pro Tour(カプコンプロツアー)」など世界を中心にeスポーツを展開してきて、ようやく18年ごろから日本での活動が活発化してきました。今回インテルと一緒に開催するということは、機が熟したと考えていいのでしょうか。
辻本 日本で18年2月に日本eスポーツ連合(JeSU)が発足し、ようやく日本でも本格的なeスポーツ大会を開催できる環境が整ってきました。東京ゲームショウ2018で国内で当社初めての主催となったジャパンプレミア大会や、19年に立ち上げた「ストリートファイターリーグ」などがそうです。
これまでカプコンは家庭用ゲーム機を軸にビジネスを行ってきましたが、世界ではPCの存在感が増しています。北米や欧州の販売店では、PCの売り場はゲーミングPCがメインです。グローバルでのeスポーツ展開を念頭に置くと、今後はPCでの展開を強化する必要があると考えていました。そんなとき、インテルから話をいただいたのです。家庭用ゲームソフトの事業はマルチプラットフォームを継続していきますが、世界を見据えて「PCも主軸として対応する」、これがカプコンの行き着いた戦略です。
――ゲームのプラットフォームとして、PCを強く意識し始めたのはいつからですか。
辻本 2018年です。eスポーツと直接関わる話ではありませんが、18年は『モンスターハンター:ワールド』が世界的にヒットしました。その要因の1つに、PC向けゲーム配信プラットフォームのSteamでリリースしたことがあります。そこで、私たちが考えていたより、幅広い地域において販売が好調に推移した。これらを鑑みて、今後のカプコンはPC展開をさらに強化すべきでは……と思い始めたのです。ですから今回の話をいただく前から、我々はPCプラットフォームに対する準備はできていました。

「ゲームはPCで」を分かりやすく伝えられる
――PCベースのeスポーツイベントを開催しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。
鈴木 インテルとしてはもっとPCを使ってほしいという思いはありますが、まずはeスポーツ自体の裾野を広げたい。eスポーツは年齢、男女差、ハンディキャップなど関係なく一緒に参加でき、老若男女を問わないところが魅力です。そこを広く知ってもらいたい。その先に、eスポーツをきっかけとしてPCに興味を持ってもらえればありがたいですね。
辻本 日本は家庭用ゲーム機が中心の市場ですが、eスポーツはより多くの選択肢で楽しんでもらいたい。家庭用ゲーム機の場合、PS4であればソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)、Nintendo Switchであれば任天堂と、それぞれプラットフォーマーが存在します。しかしPCはそうした明らかなプラットフォーマーがいません。つまり、さまざまな相手とタッグを組めるわけです。今回インテルがeスポーツイベントを手掛けることで、PCでeスポーツを押し出すことがユーザーに分かりやすく伝えられます。カプコンとしては、そこにもIntel World Openの大きな意味を見いだしているのです。
――eスポーツを興行と考えれば、協賛したい企業が手を挙げてくるだろうと思います。その辺りの準備はされているのでしょうか。
鈴木 今のところ協賛パートナーの募集は考えていません。まずはIntel World Openを成功させることに注力します。動画配信も予定しており、そこには何かしらのコマーシャルが流れるかもしれませんが、その収益が目的ではありません。インテルがPCでeスポーツをやるからといって、即座にPCの販売を押し出すことはないでしょう。
Intel World Openはあくまで象徴的なものだと考えています。1回の大きなコマーシャルではなく、eスポーツの裾野を広げるためのシンボリックなもので、インテルのゲーミングに対する姿勢の意思表示の場だと思っています。イベントをメディアとして、スポンサーを多く集め、スポンサーフィーを得ることはまだ考えていません。将来的にはそういう話も出てくると思いますが、現時点ではとにかくIntel World Openの成功が最重要課題です。
(後編に続く)
(写真/中村宏)