2019年10月8日、ネスレ日本がコーヒーマシンの新モデルを発表した。レンタル専用のマシンは本体正面にタブレットを設置し、交通系ICカードなどのキャッシュレス決済に対応。オフィスの他、非飲食業での利用拡大を狙う。
タッチ操作でコーヒーをカスタマイズ
ネスレ日本のコーヒーマシン「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ(以下、バリスタ)」の新モデルで、レンタル専用商品の「バリスタ デュオ プラス」が2019年10月8日に発表された。
新モデルには、ラテ用のフォームミルクをマシン内で泡立てる機能を追加した。これまでのバリスタシリーズのマシンではラテ系メニューを作る際、あらかじめカップに牛乳やコーヒー用クリームを入れておく必要があった。だが、「ユーザーが自分でミルクを準備するのは面倒だった」(ネスレ日本レギュラーソリュブルコーヒービジネス部の島川基部長)。
その手間を無くすため、新モデルではタンク内に牛乳ではなく、粉末状のミルクを入れることで衛生的な問題をクリアした。マシン内にはコーヒー用とクリーマー用の2つのタンクを内蔵。タンクごとに分けて抽出するので、コーヒーとミルクそれぞれの風合いを損なうことがなく、きめ細かな泡の本格ラテが楽しめる。
さらに目を引くのは、マシンの正面に設置された10インチディスプレーのタブレットだ。タブレットにはエスプレッソ、ブラック、ラテなど8種類のメニューがあらかじめ設定されており、タッチ操作で手軽にコーヒーを抽出できる。コーヒーや水の量を指でスライドして調整することも可能だ。バリスタシリーズのその他の商品は、メニュー別のボタンを操作するシンプルな仕様だが、16年発売の「バリスタ i[アイ]」からマシンにBluetooth機能を搭載。同時に自分好みの濃さや味にカスタマイズできる専用アプリを配信したところ、アプリを使ってコーヒーを抽出する人が増えたという。
今回、ディスプレーを搭載したことでアプリを使わなくても直感的な操作ができるようになり、従来通りアプリで個人認証すれば、自宅外のマシンでも自分好みの味わいのコーヒーを楽しめる。また、コーヒーを飲むとポイントがたまり、商品と交換できる「ネスカフェ ポイント プログラム」とも連動している。
コーヒー抽出の間には、ディスプレーにニュース記事や設置場所に応じてプロモーション動画などを表示させられる。「これまでコーヒーが抽出し終わるまでの約2分間は、マシンの前に立ってただ待つしかなかった。マシンの正面はユーザーとの大きなタッチポイントになる」と島川氏は話す。
コーヒー抽出と集金代行の一台二役
最大の特徴は、タブレットを使ってキャッシュレス決済ができることだ。コーヒーの種類を選択後、Suicaなどの交通系ICカードや専用アプリ、デュオ プラスのために開発した決済機能付きのタンブラーをタブレット上部にかざすと、支払いが完了する。
これまで家庭外での利用を強化してきたことが、決済機能追加のきっかけとなった。ネスレ日本は12年からマシンのレンタルとコーヒーの販売をセットにしたオフィス向けの定期サービス「ネスカフェアンバサダー」を開始。従来、家庭内の使用が中心だった同社のコーヒーマシンをオフィスなどにも広げた。19年10月現在の契約数は、約46万件に達する。代表者が契約したマシンをオフィスに設置して複数人で共有しているパターンが多いが、「アンバサダー(契約者)がコーヒーの購入費用を立て替えていることも少なくない。そのため、集金作業が負担になっているのではないかと考えた」(島川氏)という。
従来のコーヒーマシンの横に決済のためのタブレット端末を置くことも考えたが、余計な場所を取ってしまう。そこで、タブレットとコーヒーマシンを一体化し、コーヒーの抽出と集金代行の一台二役の機能を持たせた。このマシンは、日本独自の展開だ。
競合はカウンターコーヒー?
狙いは他にもある。非飲食業でのコーヒーマシンの利用拡大だ。同社はスーパーなどにマシンを設置してコーヒーを提供する「カフェ・イン・ショップ」事業を13年に開始。同社と取引のあった小売店からスタートし、ガソリンスタンドやクリーニング店などの非飲食業にも広げていった。客が自らコーヒーをいれる「セミセルフ形式」なら、店員は水やコーヒー豆を補充するだけでいいので、非飲食業でも取り入れやすいというわけだ。
「ちょっとしたスペースでも開業できるので、サイドビジネスとしても大きな可能性がある。決済機能付きのマシンがあれば、会計の手間が省けるので導入しやすいのではないか」と島川氏は期待を寄せる。
例えば、フラワーショップやテークアウト専門の飲食店などは、商品の受け渡しまでに顧客が時間を持て余す場合が多い。こうした店舗にまでマシンのレンタルが広がれば、それだけコーヒーの売り上げも伸びる。つまり、ネスレ日本のシェア拡大に寄与するということだ。
ネスカフェアンバサダーのサービスでオフィスに進出する際、同社が当初想定した“ライバル”は、ビル内に設置されている自動販売機だった。その点、家庭とオフィス以外へも拡大を狙うバリスタ デュオ プラスのライバルは、コンビニのカウンターコーヒーといったところだろう。だが、コンビニがどこにでもあるのに対し、例えばカフェ・イン・ショップは全国に約4200店舗。数も少ないうえ、どこに行けば飲めるのか、利用者が把握しにくいという課題もある。同社は今後、アプリ上に一般開放されているコーヒーマシンの位置を地図で表示することも検討するという。
「缶コーヒーは自販機の普及で世の中に浸透した。カウンターコーヒーもコンビニがその仕組みを作ったことで広がった。コーヒーの発展は機械のイノベーションがあってこそ。バリスタシリーズもその1つだと考えている」(島川氏)。人手をかけずにコーヒーを販売できるキャッシュレスマシンの投入で、「あらゆる場所のカフェ化」を狙うネスレ日本。家庭外のコーヒー市場をさらに拡大できるか、注目だ。
(写真提供/ネスレ日本)