「筋肉は裏切らない」――このフレーズ、どこかで聞いたことはないだろうか。実はこれ、筋骨隆々の男性たちがただひたすら筋トレするNHKの番組「みんなで筋肉体操」に登場する講師・谷本道哉氏の決めぜりふだ。世は筋トレブーム。キーフレーズの主に、なぜ今“筋肉”が注目されているのか理由を聞いた。

「みんなで筋肉体操」では、ムキムキな筋肉アシスタントたちが淡々と筋トレする様子が話題になった
「みんなで筋肉体操」では、ムキムキな筋肉アシスタントたちが淡々と筋トレする様子が話題になった

 2018年8月にNHK総合で放送された「みんなで筋肉体操」。深夜の5分番組ながらTwitterでトレンド入り。番組内で発せられた「筋肉は裏切らない」は、18年ユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされるほど人気を博した。

 19年1月に第2シリーズ、同年7~8月に第3シリーズが放送。人気はとどまることを知らず、同年9月には『みんなで筋肉体操』(ポプラ社)と『みんなで筋肉体操語録 ~あと5秒しかできません!~』(日経BP)の2冊の本が発売された。いったいなぜ、日本人はこれほどまで筋肉を愛するようになったのか。みんなで筋肉体操で講師を務める近畿大学生物理工学部人間環境デザイン工学科准教授の谷本道哉氏に話を聞いた。

筋トレブームのきっかけは?

 「ここ数年の筋トレブームの要因は3つある」と谷本氏は話す。1つ目は高齢化だ。『人生100年時代』といわれる昨今、動ける今、体を鍛えておかないと、いずれ寝たきりになってしまうかもしれない。実際、加齢とともに筋肉量は減少する。鍛えられるときに鍛えて「筋肉貯金」することが大切なのだ。

 若い世代への影響という点では、「ライザップ」の登場が大きい。従来の運動やダイエットに関するテレビ番組や書籍は、「楽々変われる!」「○○するだけで!」といった「甘い言葉で市場にこびた潮流があったが、ライザップは真逆をいった」と谷本氏。簡単には痩せられないという“本音”が、市場に受け入れられた。しっかり鍛えなければ何も変わらないという認識が浸透し、多少きつくても、効果のあるトレーニングが求められるようになった。

 3つ目は、中高年のお尻の垂れ。「今どきの中年は若々しい人が多く、自分も若くいたいと思う人が多い」(谷本氏)ため、筋トレをしたりジムへ通ったりする人が増えたと分析する。15年ごろから、スクワットチャレンジが流行したのも、要因の一つだろう。

 そこでダメ押しとなったのが、みんなで筋肉体操だ。5分という短い時間でも、指導通りに行えば“効く”のを実感できる。道具など一切必要無く、いつでもどこでもできる手軽さも人気の理由だろう。

「消費者は夢を買っていたので、効果が実感できなくても文句を言わなかった。ライザップの登場で、消費者は効果を買えるようになった」(谷本氏)
「消費者は夢を買っていたので、効果が実感できなくても文句を言わなかった。ライザップの登場で、消費者は効果を買えるようになった」(谷本氏)

「筋トレは権利です」

 19年9月16日には、『みんなで筋肉体操』の発売を記念してイベントが開催された。イベントには谷本氏の他、番組内で筋肉アシスタントを務めた庭師の村雨辰剛氏が登壇し、文字通りみんなで筋肉体操が行われた。番組内では「あと5秒しかできません」など、ポジティブすぎる名言も話題となったが、今回のイベントでもニューワードが飛び出し、会場を沸かせた。

「この感覚が気持ちいい この感覚がたまらない」
「限界より強く あと5秒やってもいいですよ」
「筋トレは権利です」

 来場者は谷本氏の発言に追い込まれるどころか、ニコニコとしながら筋トレを続ける。こうした“名言”は、谷本氏が筋トレをしているときに思うことをそのまま言っているそうだ。「YouじゃなくてWe、やれじゃなくてやろうよというスタンスなので、響くのではないか」(谷本氏)。これはビジネスの場でも同じだ。「命令形では響かないが、自分も実践する立場に立つことで、響く声掛けができる。方法論を提示するときも同じ」と谷本氏は話す。

 『みんなで筋肉体操』で筋トレ方法を学び、『みんなで筋肉体操語録 ~あと5秒しかできません!~』で何事にも前向きに取り組む姿勢を学ぶ。そうすれば、健全な肉体に健全な魂が宿りそうだ。

左が『みんなで筋肉体操』(ポプラ社)、右が『みんなで筋肉体操語録 ~あと5秒しかできません!~』(日経BP)
左が『みんなで筋肉体操』(ポプラ社)、右が『みんなで筋肉体操語録 ~あと5秒しかできません!~』(日経BP)
「腕立て伏せの後、大胸筋が大きくなる感じがうれしい」(村雨氏)と笑顔で話す。本の宣伝も欠かさない
「腕立て伏せの後、大胸筋が大きくなる感じがうれしい」(村雨氏)と笑顔で話す。本の宣伝も欠かさない
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