小林製薬が2017年10月にリニューアル発売した、いぼ痔(じ)の内服薬「ヘモリンド舌下錠」が売れに売れている。初年度は2億円、2年目には10億円を達成。19年1~6月の中間決算では前年比145%と、その勢いは止まらない。
パッケージを変えたら売り上げが急増
小林製薬がヘモリンド舌下錠(以下ヘモリンド)の販売権を取得したのは2017年。もともとは扶桑薬品工業が1963年から販売していたものだ。
ヘモリンドは、市販薬としても珍しい「舌下錠タイプ」。舌の裏の粘膜で吸収された有効成分が血流に乗って“いぼ痔”に届き、根(うっ血)を小さくする。ただ、いぼ痔の治療薬は軟こうや注入型といった外用薬が一般的で、内服薬はなかなか浸透しなかった。
小林製薬ヘルスケア事業部 マーケティング部 新製品開発グループ 課長の奥山保雄氏は「広告で目にするのはたいてい外用薬。消費者が『痔の薬=外用薬』というイメージを持ったことも内服薬の認知度が上がらなかった原因」と分析している。
ところが小林製薬のヘモリンドは、30~40代を中心に男性にも女性にもほぼ半々の割合で爆発的に売れた。ひそかに痔に悩む人たちのニーズも取り込み、発売後1年足らずで購入者の3割以上がリピーターになったという。
爆売れの理由は、慣例を打ち破った“パッケージの分かりやすさ”にある。実は小林製薬は、ヘモリンドの処方も名称も一切変更していない。ただパッケージを大幅に刷新しただけなのだ。
「痔の市販薬のパッケージは文字情報がほとんど。お尻のイラスト入りはそれまで見たことがなかった」と言うのは、小林製薬グループ統括本社 広報・IR部 東京グループの鄭利花氏。ヘモリンドは、内服薬が患部にどう作用するのか、商品の特徴を分かりやすく伝えることに徹した。痔の外用薬は手や下着が汚れることへの不満が強 い。パッケージのPOPで「朗報!」とうたうのは、「塗る」という行為をすることなく、いぼ痔の根元から小さくしていくことを意味するという。
分かりやすさを前面に出すのが小林製薬流
それが狙いとはいえ、大きく描かれたいぼ痔のイラストはいかにも目立つ。店頭で買いづらい心理も働きそうだ。奥山氏は「痔に悩む人にとっては大変に深刻な問題。恥ずかしさがあっても、早く解決したいという気持ちのほうが強い」と言い切るが、お尻のイラストが採用されるまでの道のりは決して平たんではなかった。
当初、ヘモリンドのパッケージは痔の市販薬にありがちな文字をメインにした表現を採用していたが、発売前の調査では期待した反応が得られなかった。「このままで市場に出すのは難しい」と、発売が危ぶまれたタイミングで担当が奥山氏に代わった。奥山氏は過去の調査結果を分析し、「伝えるべきことを分かりやすく絞った表現に変更した」と言う。
最終的なパッケージを決定する会議に及んでも、役職者たちから反対の声が上がった。しかし、「分かりやすさを前面に出さないと、お客さまには気づいてもらえない。そのことを徹底的に訴え、(反対する役職者たちを)説得した」と奥山氏は振り返る。
女性たちの聖域に「ヘモリンド」を展開
いぼ痔になった人の6割は、まずインターネットで対処法を検索することが小林製薬の調べで分かっている。ヘモリンドのウェブページの閲覧者は、製品情報のページからEC(電子商取引)サイトへの移動が、他の製品に比べて明らかに多いという。そこで小林製薬では、ヘモリンドと親和性の高いウェブ広告を強化している。
また、実店舗での販促活動にも工夫がある。ヘモリンドは漢方・生薬に分類される内服薬だが、ドラッグストアの漢⽅コーナーではなく、競合商品がひしめく痔の外⽤薬の近くに並べてその存在をアピールするのだ。「痔の薬を買い求める人は、塗り薬(外用薬)のあるところに真っすぐ行きますから。漢方のコーナーに置いても刺さらない」と鄭氏。
さらに新たな販売戦略として、「生理用品コーナー」での展開も検討中だという。購買層である30~40代の女性が、生理用ナプキンや尿漏れもケアするおりものシートを買う際、お尻のイラストに目を留めるかもしれない。痔の外用薬コーナーよりも、“女性の秘め事”を共有する一角で手に取るほうが心理的ハードルは低い。
人知れず悩む消費者に商品を手に取ってもらうには、「買う決断」を促す大胆さと、「恥ずかしさ」に寄り添う繊細さが必要なのだ。
(写真提供/小林製薬)
パッケージのPOPの「朗報」意味について、一部を修正いたしました。[2019/10/25 13:30]
記事タイトルを「いぼ痔薬「ヘモリンド」、お尻のパッケージで売り上げ10億円超」から、「いぼ痔薬「ヘモリンド舌下錠」、お尻パッケージで売上高10億円超」に修正しました。[2019/12/25 15:30]