小田急電鉄は、2019年10月末からMaaSアプリ「EMot(エモット)」を提供し、新百合ヶ丘駅周辺エリア、箱根エリアを舞台に実証実験を始める。経路検索や周遊デジタルパスの発行といった“本流”の機能に加え、1日1回指定メニューを注文できる「飲食サブスク」の仕組みも取り込む。その中身は?

小田急電鉄のMaaSアプリがいよいよ始動
小田急電鉄のMaaSアプリがいよいよ始動

 小田急がリリースするMaaSアプリ「EMot(エモット)」の名称は、Mobility with Emotionに由来する。小田急電鉄の星野晃司社長は、「多くのパートナーとの連携を目指すため、あえてアプリ名に小田急の名前を冠さず、ロゴも小田急カラー(ブルー)ではないイエローにした」と、10月7日に行われた発表会見で話した。

会見に登壇した星野晃司社長(写真右から2人目)
会見に登壇した星野晃司社長(写真右から2人目)

 エモットの主な機能は、複合経路検索と電子チケット発行の2つ。まず、前者の複合経路検索については、ヴァル研究所が開発した「mixway(ミクスウェイ)」がベース。鉄道や路線バスに加えて、航空便やタクシー、シェアサイクルなど複数の移動手段を組み合わせた経路を、「早い」「安い」「らくらく(乗り換え回数が少ない)」といった3つのタブで表示する。

 当初からタクシー配車アプリの「JapanTaxi」(ジャパンタクシー)、「MOV」(DeNA)と連携し、「らくらく」の検索結果にタクシーを含むルートが提示される。それぞれのアイコンをタップすると、ジャパンタクシーやMOVのアプリに遷移し、そこから予約・決済が可能だ。また、パーク24が展開するカーシェアリングサービス「タイムズカーシェア」は、目的地として設定した小田急の駅周辺に車両ステーションがある場合、検索結果の最後にカーシェアの利用案内が表示される。シェアサイクルに関してはドコモ・バイクシェアとの連携を予定しており、こちらは順次実装される計画という。なお、特急ロマンスカーも経路検索結果に表示されるが、こちらの予約・決済は専用サイトの「e-Romancecar」に遷移して行う。

買い物で往復バスが無料に!

 電子チケット発行機能については、エモット上で「デジタル箱根フリーパス」を購入できるのが目玉。デジタル箱根フリーパスは、小田急線の往復割引に加え、箱根登山電車・ケーブルカー、箱根ロープウェイなどが乗り降り自由、彫刻の森美術館、箱根ガラスの森美術館といった約70の観光スポットの優待を受けられる(2日間有効・新宿発で大人5700円など)。これをエモット上に設けた「チケットストア」で買えるようにし、ユーザーは駅係員などにアプリ画面を提示するだけでスムーズに観光できるようになる。エモットで購入したデジタル箱根フリーパスや定期券を含むルートを検索した場合、それを考慮した経路と料金が「安い」タブの上位に表示されるという。

 また、実証実験の舞台となる新百合ヶ丘駅では、電子チケット機能を用いた商業施設連携も行われる。具体的には、小田急グループの駅前商業施設「新百合ヶ丘エルミロード」で2500円以上の買い物をした場合に、往復分の小田急バス無料チケット(210円区間)を配布する。特典を用意して外出機会を生み、マイカーから公共交通へのシフトを促す狙いだ。

エモットの画面イメージ。左画像が「デジタル箱根フリーパス」、右が新百合ヶ丘エルミロードと連携した「バス無料チケット」
エモットの画面イメージ。左画像が「デジタル箱根フリーパス」、右が新百合ヶ丘エルミロードと連携した「バス無料チケット」
飲食サブスクのチケット画面例。購入後、対象店舗に掲出されている2次元コードをアプリで読み取り、表示されたアニメーション画面を店員に提示して商品を注文する
飲食サブスクのチケット画面例。購入後、対象店舗に掲出されている2次元コードをアプリで読み取り、表示されたアニメーション画面を店員に提示して商品を注文する

 さらに面白いのが、エモット内で「飲食サブスクリプション」チケットを販売することだ。新宿駅、新百合ヶ丘駅にある箱根そば、おだむすび、HOKUOの3店舗が対象で、1日1回、500円相当の指定メニューを注文できる。料金は10日チケットで3500円、30日チケットで7800円となり、それぞれフルで使いこなすと1500円、7200円相当も得できる計算になる。

 これら指定された飲食店は、休日にわざわざ足を運ぶところではないかもしれない。だが、この飲食サブスクとの組み合わせは、実に興味深いものだ。というのも、定期券を購入して会社や学校との往復を日常としているユーザーにとっては、経路検索を主体としたMaaSアプリというだけでは「あまり使う機会がないもの」になりかねないだろう。その点、誰でも毎日行う食事にまつわる飲食サブスクを組み合わせると、アプリの利用頻度は格段に向上するはずだ。アプリを開いてもらえば、新たな電子チケットなどを効果的に訴求できる。デジタルマーケティングの接点として、MaaSアプリを“強化”する仕組みとしては相性がよさそうだ。

 小田急は、こうしたエモットを使った実証実験を2020年の3月10日まで行う計画で、アプリは2万ダウンロードが目標(飲食サブスクは3月29日まで)。また、日経クロストレンド既報の通り、小田急の取り組みには鉄道会社として遠州鉄道や九州旅客鉄道(JR九州)が連携を表明している。そのうち、遠鉄は浜松を中心とした静岡県西部エリアで使える「遠鉄ぶらりきっぷ」や「HAMANAKO RAIL PASS」など6つの企画乗車券を、エモット内のチケットストアで10月末から販売する。JR九州も今後、小田急と連携した実証実験を検討しているという。

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