星野リゾート（長野県軽井沢町）が運営するホテルブランド「BEB（ベブ）」が2020年3月19日、茨城・土浦に開業する。なぜリゾートでも都市部でもない土浦にホテルを開業するのか。
35歳以下は毎日割引価格
星野リゾートが19年9月30日に発表した新ホテルは「BEB5（ベブファイブ） 土浦」。JR土浦駅直結の利便性と1泊6000円（税別）から宿泊できる手軽さが売り。さらに若年層を狙い、35歳以下限定の割引プランを用意。「日本のホテルはシーズンや宿泊日による価格変動が大きく、若年層の旅行への抵抗感につながっている」（星野リゾート 星野佳路代表）として、お盆や年末年始も全て均一料金にする。
BEB（ベブ）は星野リゾートが19年に立ち上げたブランド。ここ数年、若年層の国内旅行率が低下していることに着目し、第1弾として24時間利用できる共有スペースやカジュアルなチェックインカウンターを設けた「BEB5 軽井沢」を19年2月に開業した（関連記事「星野リゾート5つ目のサブブランド？ 35歳以下を開拓」）。
だが、もともと多くの観光客が訪れる軽井沢とは違い、上野駅から常磐線各駅停車で1時間強の土浦は「東京のベッドタウン」という印象が強い。なぜ観光地ではないこの場所に、若年層を狙ったホテルを作るのか。
「片道30分でも旅」と考える若年層と「自転車好き」を狙う
「若年層にとって、旅はどこに行くかよりも誰と過ごすかが重要」と星野代表は話す。同社がBEBのターゲット層を調査したところ「自宅の最寄り駅から片道30分、電車賃500円のエリアでも旅行」という回答が出てきたこともヒントになった。
旅行の段取りで腰が重くなるのなら、日常と旅行の間を埋める「ちょっとした旅」を作ればいい。そこで「居酒屋以上、旅未満」をテーマにBEBのコンセプトを作り上げた。割引価格に加え、飲食物持ち込み自由。チェックアウト時間は11時だが、「遅れても構わない」というアナウンスもする。若年層が考える“旅の面倒臭さ”を払拭するのが狙いだ。
土浦駅全体が新しく生まれ変わるタイミングだったというのも大きい。バブル全盛期の6分の1まで売り上げが落ち込んだ駅ビルを、JR東日本グループのアトレ（東京・渋谷）が体験型施設に転換。土浦駅にほど近い全長約180キロメートルのサイクリングコース「つくば霞ケ浦りんりんロード」の利用者取り込みを目的に、レンタルサイクルや自転車持ち込み可能なカフェやショップを整備した。新業態「PLAYatre（プレイアトレ）」として18年3月から段階的に開業している。BEB5 土浦が入居するのもこの施設の3～5階だ。
星野代表は「BEB5 土浦は若年層とサイクリストの両方が狙える」と話す。PLAYatre全体の狙いはサイクリスト。ホテル内にも自転車を持ち込めるので、自転車利用者が宿泊することもあるだろう。しかし「ちょっとした旅」が目的で宿泊する若年層は、自転車やサイクリングコースに興味がない可能性もある。「異なるターゲットにそれぞれアプローチしていく」と星野代表は柔軟な対応を考えている。
BEB5 土浦に星野代表は大きな可能性を見いだしているようだ。「サイクリング目的の宿泊者には訪日客も含まれると想定しているが、訪日客にとって平日、休日は関係がない。また、若年層にはサービス業に従事している人も多く、土日の宿泊が難しい場合もある。平日の稼働率も十分期待できる」
都心から1時間という近さと、駅直結という立地。「気が向いたらサイクリングもできる」というくらいの気負いのなさが、旅行から遠ざかっていた若年層に刺さるかもしれない。
（写真提供／星野リゾート、アトレ）
