2019年9月12~15日の4日間にわたって開催された「東京ゲームショウ2019」(TGS2019)。19年は革新的な新規タイトルはなく、既存のファンを楽しませ、安心させることに力点を置いた展示物が目立った。それはゲーム産業がコンテンツビジネスからサービス業に移り変わったことの象徴かもしれない。
「今、あなたがプレーしているゲームは、これからも継続的に面白いサービスが提供されますよ!」――19年も東京ゲームショウには多数のゲーム会社が出展していたが、それらの発していたメッセージは端的に言えばそんな一文で紹介できるだろう。
TGS2019の会場内には、冒険的な新規タイトルは見当たらなかった。ゲームファンに挑戦状をたたき付けるような実験的なタイトルもなかった。次世代高速通信技術の5Gこそお目見えしたものの、それは数年前から到来が予想されていた既定路線であり、来場者に新鮮な驚きを与えるまでのものではなかった。
だからきっと数年たってから19年の会場を撮影した写真を見たとき、展示タイトルの背景にあるゲームタイトルのナンバリングを示す数字、あるいはサブタイトルを確認しなければ、それがいつのゲームショウの光景なのか把握できないだろう。それほど変化に乏しいゲームショウだったのである。
ただ、それは悪いこととは言えない。ゲーム機やパソコンはインターネットにつながり、スマートフォンが国民全体に行き渡った今、時代を切り開くような革新的なソフトは、年に1度の展示会ではなく、ネット空間で随時発表される。近年なら『ポケモンGO』が象徴的だ。そんな時代の変化に伴い、東京ゲームショウは驚きを与える役目を完全に終えたということだ。
そんな時代に各社が全力でアピールしたのが、「今、楽しんでいるゲームが継続的に楽しめること」だ。既存のユーザーを安心させるために全力を尽くした。それが、変化に乏しい19年の東京ゲームショウの“実態”だ。
ゲームビジネスはサービス業へと転換した
ビジネス的な視点から見るならば、それはゲーム産業がコンテンツ産業から脱却したことを意味する。
ハリウッドの映画産業が象徴的だが、コンテンツ産業は常に新機軸の人気コンテンツを生み続けなければならないという宿命を持つ。どれだけのヒット作を生み出しても、その後にヒットがなければ経営は苦境に陥る。コンテンツ産業は、巨大な自転車操業だ。
しかし、昨今のゲーム産業は、出してみるまでヒットするか分からない単発のタイトルに懸けるのではなく、1つのタイトルを継続して楽しませ、ビジネスとして持続させるためのノウハウを身に付けた。ネットを介して追加アイテムや追加ステージを提供するなどして、人気タイトルに長くユーザーを引き留める。これはサービス業への転換と言っていい。
全世界的に、eスポーツが存在感を増しているのも同じ理由だ。eスポーツは同じタイトルの人気を長期間にわたって保つことで成立するビジネスであり、だから各社とも力を入れるようになっているのだ。ゲームビジネスの形はいまや完全に変わった。
VRで「空間」ではなく「キャラ」を楽しませる時代に
そんな中、新しい未来を見ることもできた。代表的なものを2つ紹介しよう。
1つは「VR/ARコーナー」だ。18年まではテクノロジーを前面に押し出し、VR(仮想現実)ならではの仮想空間を体験させる展示が多かったが、19年から様相が変わった。アニメの中にそのまま入り込むなど、魅力的なキャラクターと同じ空間にいることを楽しむ方向性のタイトルが飛躍的に増えたのだ。キャラクタービジネスに強い日本ならではのVRコンテンツが、ついに形になって現れてきたようだ。
それに伴い、18年まで存在した「ロマンスゲームコーナー」(女性向けゲームコーナー)は消滅。それらはVRコーナーに吸収された格好となった。イケメンなキャラと同じ空間にいるゲームなどが代表例で、多くの女性ユーザーを引き付けていた。
19年現在、米国では学園生活(における恋愛模様)を追体験する女性向けスマホアプリが飛躍的に人気を伸ばしており、4~5年前の日本の女性向けゲームと同じムーブメントが起きているのだが、日本の女性向けゲームはさらに一歩進んで次の次元へと突入したようだ。女性ユーザー向けのゲーム市場では、今なお日本が数年のアドバンテージを持っていることを、改めて証明した。この先、どんな進化を遂げるか注目したい。
ファミリーゲームコーナーに出現した新しい文化
もう1つの未来は、「ファミリゲームパーク」にあった。
メインホール内のブースは、人気芸人、声優、アイドル、コンパニオンなどで集客するスタイルで、ここ数年、全く変化していないが、中学生以下(およびその保護者)だけが入れるファミリゲームパークは、まるで様子が違っていた。特設ステージに立ち、子どもたちの声援を集めていたのは若いYouTuberたちだった。まるで違う文化が、そこには存在していた。
とりわけ印象的だったのは、「YouTuberとゲーム実況体験」というプログラムだ。子どもたちがゲームで対戦し、その様子を他の子どもがYouTuberと一緒に実況するというもの。そこではゲームプレーを望む子どもよりも、YouTuberの隣でゲーム実況をする役を望む子どものほうがはるかに多かった。彼らにとって、ゲームをプレーすることよりも、それを実況することのほうが、はるかに楽しいエンターテインメントであるようだ。
数年後、この世代が大きくなったとき、ゲーム産業には大きな変化が訪れるのかもしれない。「自分でプレーして楽しむ」だけでは満足してくれない世代の台頭が、未来のゲームを変えていく可能性があるだろう。今後とも継続的に注目していきたいポイントである。