100年に一度といわれる規模で再開発が進む渋谷。東急不動産は2019年9月11日、現在建て替え中の「東急プラザ渋谷」の全貌に関する発表会を開催。19年12月開業予定の新たな施設のターゲットは40代以上の男女、さらに周辺に住む人たちだ。
「東急プラザ渋谷」が位置するのは渋谷駅西口。バスターミナルを挟んでJRの改札と向かい合う駅前の好立地だ。運営は東急不動産。1965年に民間デベロッパー初の専門複合商業施設「渋谷東急ビル」として開業。名称変更などを経ながら約50年にわたって営業を続けたが、周辺の再開発に伴って2015年に閉店した。
19年12月5日に開業する“新生”東急プラザ渋谷は、同地に建て替えられた複合商業施設「渋谷フクラス」の商業施設ゾーンという位置付け。2~8階と、17、18階に全69店舗を構え、年間500万~600万人の来店を目指す。
ターゲットは40代以上の男女。ロート製薬が手がけるエイジングケアに特化したアイケアやスキンケアの専門店や補聴器の専門店など、都心の商業施設には珍しいテナントがそろう。特に5階は「ライフステージをサポートするコミュニティフロア」(東急不動産)として、信託銀行や不用品買い取りサービス、葬祭を取り扱う企業の新業態など「終活」を意識させる店舗が並んでいる。
シンガポールの人気“絶景”レストランも出店
目玉は、17、18階に入る「CE LA VI(セラヴィ)」。シンガポールのリゾートホテル「マリーナベイ・サンズ」の最上階にあるレストランとして知られており、絶景を眺めながら食事ができる点が観光客にも人気。シンガポール以外にも香港、サントロペ(フランス)、台北、クアラルンプールにも店舗を持ち、今後は上海、ドバイにも開業することが決まっている。
同店は世界8店舗目。「ハイセンスで成熟した大人の社交場を目指す」(東急不動産)とのことだが、19年11月に渋谷駅前に開業する「渋谷スクランブルスクエア」との相乗効果で、国内外の観光客から注目を浴びそうだ(関連記事「渋谷スクランブルスクエア 中川政七商店、THEの旗艦店も出店」)。
「インバウンド比率は高くない」と想定
だが、「(東急プラザ渋谷全体の)訪日外国人客の比率はさほど高くならないだろう」と東急不動産の岡田正志副社長は話す。
15年に閉店するまで、東急プラザ渋谷の利用客の中心は近隣に住む住民だった。渋谷駅西口駅前は飲食店などが軒を連ねる繁華街だが、一歩裏手に入ると閑静な住宅街が広がる。高級住宅地として知られる松涛や南平台も徒歩圏だ。また、西口バスターミナルには世田谷区や目黒区など、隣接する別の区を起点とするバスも乗り入れる。
「ハチ公口」とも呼ばれる北口が渋谷109や西武渋谷店、渋谷PARCO(16年に一時閉店、19年11月に再開業予定)といったファッションビルがひしめく“若者の街”であるのに比べて、近隣住民の玄関口といえる西口。それを意識してか、閉店前の東急プラザ渋谷内には書店や銀行、カフェといった気軽に立ち寄れる店が多く、地下1階には生鮮食品売り場もあった。
再開業後に近隣住民が戻ってきてくれることを同社は期待する。だが、新しい東急プラザ渋谷に書店や生鮮食品売り場はない。以前入っていたエイチ・アイ・エスは5階に入居するが、新業態の「High Premium H.I.S. Hills Shibuya(ハイプレミアム エイチ・アイ・エス ヒルズ シブヤ)」として「船旅などのアッパークラスな旅行を提案する」(東急不動産広報室の上林朋子課長補佐)。上林課長補佐も「日常使いできる店舗は少なくなってしまったかもしれない」と認めるが、かつての顧客はこの変化をどう受け止めるのか。
だが、20年にはバスターミナルを挟んで向かい側に立つ東急百貨店東横店が閉店する。今後は駅前という利便性、さらに「若年層をターゲットにしていない」という点で、東急プラザ渋谷に注目する人も増えるかもしれない。「(閉店によって)東横店を利用していた人が駅のそばでゆっくり買い物をできる場所がなくなってしまう。今後は(渋谷・道玄坂にある)東急百貨店本店とも連携をとっていきたい」と岡田副社長は話す。
(写真提供/東急不動産)