CATV最大手ジュピターテレコム(J:COM)は2019年9月4日、米ネットフリックス(Netflix)の日本法人と提携し、新型セットトップボックス(STB)を今冬提供すると発表。多様な動画配信サービスを楽しめるようにすることで、快適な「次世代のテレビ視聴体験」の提供を目指す。
新STBで放送と通信の垣根を越える
新STB「J:COM LINK」は、地上波、BS、CSの放送番組に加え4K放送にも対応。NetflixをはじめDAZN、TVer、AbemaTVなど、動画配信サービスが視聴可能な複数のアプリケーションをあらかじめインストールしているのが特徴だ。Android TVやGoogleアシスタントも搭載し、Android TV対応アプリをダウンロードすれば、ゲームや実用ツール、ニュースなど多彩なサービスを利用できるようになる。
J:COM社長の井村公彦氏はJ:COM LINKが放送と通信の垣根を越え、「質の高い多様な放送コンテンツを届け、個性的で特徴ある動画配信サービスを1つのデバイスで楽しんでもらうことが、次世代のテレビ視聴体験につながると考えた」と話す。
膨大な機能を使いやすくするため、音声入力によるキーワード検索機能も強化。放送番組に限らず、J:COMオンデマンドやYouTubeなどを含めて横断的に音声でコンテンツを検索できるようにする。さらにコンテンツのレコメンデーション機能や、スマートフォン/タブレットからの録画予約機能を備え、快適な操作性を追求する。
新しい視聴スタイルへの変化に対応
新STB開発の背景にはテレビ離れと、在京民放キー局が運営する動画配信サイト「TVer(ティーバー)」の利用者数の増加がある。
井村氏は「直近15年のテレビ接触時間のデータでは全体で約17%、13歳から19歳のティーンズ層(T層)は約43%も減少している」と説明する。その半面、「スマートデバイスの接触時間が増えているデータもあり、テレビとモバイルの接触時間の合計のデータは全体で約4%増加している。テレビの接触時間で大幅にポイントを落としているT層では約13%の増加となっている」と、コンテンツを楽しむ時間自体は増えていると見る。
利用者数を増やしているTVerや放送各社が提供する動画配信サービスの見逃し視聴の広がりから、新STBでは視聴スタイルの変化に応えた機能が必要と考えた。
英語圏以外の国や地域へサービスを拡充
一方、Netflixの狙いは、英語圏以外の国や地域へ配信サービスを拡充することにある。Netflixのプロダクト最高責任者のグレッグ・ピーターズ氏は、「地元に密着したものやグローバルな物語も求められている。どこの国、どの地域へも最高クオリティーを提供したい」と話す。同社はJ:COM LINKに対して、4Kに加え立体音響技術「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)」にも対応した番組を配信する。高画質・高音質の追求で、「最高の制作クオリティーで、素晴らしい映像体験ができるようになる」(ピーターズ氏)。
井村氏も「(Netflixの)お客様への徹底したサービスを追求する姿勢は我々と同じ。企業理念で共通しているのが気持ちの中で非常に強い。ネットフリックスのコンテンツの質、量を(日本国内のサービス提供地域に)届けたい」と意気込む。
J:COMとNetflixに共通するのは、顧客指向のサービスを重視している点。複数の配信サービスを1台で視聴可能にしたJ:COM LINKや音声を使った検索機能にも表れているが、それ以外にもJ:COMでは国内の各地域の文化や歴史に合わせた番組を届けてきた。映画、ドラマ、スポーツに限らず各地域のコミュニティーに密着し、良質なコンテンツの放送に力を入れているという。
トークセッションで井村氏が「中近東、ヨーロッパ、アフリカなどそれぞれ趣味やライフスタイルの異なるグローバル(市場)を相手にコンテンツやヒット作を作るのは難しいのではないか」と尋ねると、ピーターズ氏は「チャンスでもある。世界中のどこにでも人々の物語がある」と、どの国の人もそうしたコンテンツとつながれる可能性を示した。
(写真/丹野 加奈子、写真提供/J:COM)