eスポーツの認知が進むにつれ、企業によるスポンサードが増えきた。国内のゲーム関連機器メーカーとして、eスポーツが盛り上がる前からスポンサー活動を続けてきたアイ・オー・データ機器の西田谷直弘氏に、eスポーツやプロゲーミングチームとの関わり方について話を聞いた。

2019年8月に大阪で行われた「第2回父ノ背中 ファンミーティング」の様子(写真提供:アイ・オー・データ機器)
2019年8月に大阪で行われた「第2回父ノ背中 ファンミーティング」の様子(写真提供:アイ・オー・データ機器)

 アイ・オー・データ機器はPC周辺機器メーカーとして古くから知られる存在だ。近年はプロゲーミングチーム「父ノ背中」に「GigaCrysta」(ギガクリスタ)ブランドのディスプレーを提供するなど、eスポーツとの関わりを深めている。

 父ノ背中の影響もあり、GigaCrystaシリーズの販売は大きく伸びている。2018年7月~19年6月期の販売台数は前年同期比で4倍以上になった。父ノ背中のファンミーティングでもディスプレーを販売し、3万~4万円台のハイエンドモデルをファンがその場で購入していくという。一般のディスプレーは1万~2万円が売れ筋価格帯だが、その2倍近く高価な製品が若年層に売れているのだ。

ファンミーティングで販売されたディスプレーの一つ、GigaCrystaシリーズの「LCD-GC251UXB」。実勢価格4万2800円前後の製品だ(写真提供:アイ・オー・データ機器)
ファンミーティングで販売されたディスプレーの一つ、GigaCrystaシリーズの「LCD-GC251UXB」。実勢価格4万2800円前後の製品だ(写真提供:アイ・オー・データ機器)

 「憧れのプレーヤーと同じものが欲しい、例えば有名テニスプレーヤーと同じラケットが欲しいといった感じで売れている。購入したディスプレーに父ノ背中のメンバーがサインを入れて、それを手に一緒に記念撮影をすることもある。自社製品がこうした形で売れる状況は心強い」とアイ・オー・データ機器事業戦略本部販売促進部副部長の西田谷直弘氏は語る。

 憧れのプレーヤーと同じ設定で使いたいというファンも多く、父ノ背中のメンバーが公開しているディスプレーの設定をまねて使う人が多いという。単なるディスプレーではなく、ファンにとって所有すること自体に価値がある製品になっている。

ファンミーティングでディスプレーを購入したファンにサインをして記念撮影する、父ノ背中所属のadminさん(左)、abitunさん(右)(写真提供:アイ・オー・データ機器)
ファンミーティングでディスプレーを購入したファンにサインをして記念撮影する、父ノ背中所属のadminさん(左)、abitunさん(右)(写真提供:アイ・オー・データ機器)

ゲーマーの熱量とコミュニケーション力に驚かされた

 アイ・オー・データ機器とeスポーツとの関わりは、GigaCrystaシリーズを発売した2014年に遡る。とはいえ当時はまだeスポーツという言葉もなく、PCでゲームをする人が増えてきたことを背景に、ゲームにも向いたマルチに使えるディスプレーという位置付けだった。

 ゲーミングディスプレーとしての色合いが濃くなるのは、スクウェア・エニックスのオンラインゲーム『ファイナルファンタジーXIV』の推奨ディスプレーになってからだ。それをきっかけにゲームメーカーとのコラボレーションが増えた。

 そして16年12月に行われたファイナルファンタジーXIVのファンフェスティバルに参加したことが、ゲーミング機器市場への本格参入につながった。その会場でゲーマーの熱量のすごさに驚かされたのだという。

 「1つのゲームに全国から大勢の人が集まり、活発なコミュニケーションがあり、みんなで楽しもうとする。その熱量に圧倒された。そのときゲームを通じてユーザーといいつながりが持てるのではないか、コアファンを創出する上で有効ではないかと感じた」(西田谷氏)

 スクウェア・エニックスとユーザーのつながり方にも学ぶところが多かったという。オンラインゲームにもかかわらず、オフラインでもオープンに交流している、ユーザー同士のゲームコミュニティーにも注目した。

 「オンラインゲームというとネガティブなイメージを持つ人もいるが、決してそうではない。コミュニケーションのツールがゲームになったということではないか。C4LAN(ゲームを持ち寄って遊ぶLANパーティー)を見ても、ガチでやっている人ほど、情報交換力やコミュニケーション力が高い」(西田谷氏)

 ファンフェスティバルでは試遊向けにディスプレーを約200台貸し出し、運搬費用節約のためにその場で中古品として販売したところ、瞬く間に100台ほど売れてさらに驚かされたという。これを機に、GigaCrystaシリーズのゲーミングディスプレーの開発と販売に、より力を入れるようになった。eスポーツの波が来たのはそれからだ。

アイ・オー・データ機器でゲーミングデバイスを担当している、事業戦略本部販売促進部副部長 西田谷直弘氏
アイ・オー・データ機器でゲーミングデバイスを担当している、事業戦略本部販売促進部副部長 西田谷直弘氏

ゲーマーのセンスがブランド認知向上につながった

 父ノ背中との関係は、まずリーダーとサブリーダーがGigaCrystaのディスプレーを購入して「このスペックでこの値段はすごくね?」とSNSなどで話題にし、ファンの間でも盛り上がっていたことがきっかけだった。最初はアイ・オー・データ機器を全く知らないメンバーもいたくらい、ブランド認知は低かったという。しかしそこから父ノ背中のマネジメントをしている会社とのつながりができた。

 「何か一緒にやりましょうという話が出て、『ウチのファンに言ってみましょう』ということになった。彼らが“どうあがいてもアイオーデータ”というハッシュタグを作ったところ、これがファンの間で大喜利のように盛り上がってバズった」(西田谷氏)

 その効果は大きかった。ハッシュタグがバズってすぐ、18年夏にGigaCrystaのディスプレーは大手ECサイトで品薄になるほど売れた。想像以上の効果に驚くと同時に、2つのことに気づいたという。

 「まず、プロゲーミングチームの影響力が販促につながること。もう一つは“どうあがいてもアイオーデータ”という、我々には思いつかない言い方のセンスだ。ゲーマーのセンスに委ねることで、自社ではリーチできないユーザー層に知ってもらうことができた」(西田谷氏)

 父ノ背中とのコラボレーションは売り上げだけでなく、ブランドと企業の認知向上にもつながっている。

 「これまで学校の視聴覚室にディスプレーを納入することはあったが、そこから学生に自社が認知されることはほとんどなかった。それが今では、父ノ背中を通じてアイ・オー・データ機器を知った、同じ会社の製品が学校にもあった、という人が増えている」(西田谷氏)

 同社ディスプレーのユーザーは、自作PCユーザーなどを中心に30~60代が多い。それがゲーミングディスプレーを手掛け、プロゲーミングチームへのスポンサードを行うことで、10~20代の認知が向上しているのだ。

 「GigaCrystaブランドの認知だけでなく、これまでリーチできなかった若年層への、アイ・オー・データ機器の認知がすごく上がっていると感じている」(西田谷氏)

 GigaCrystaを知ったことがきっかけで求人に応募してくる人が出てくるなど、リクルーティングにも影響し始めているという。

プロゲーミングチームとの付き合い方

 父ノ背中との関係はもともとスポンサードありきではなく、彼らが製品を購入して使っていたことから始まった。いい関係性が築けると判断して支援を決めたが、スポンサードに当たって社内にはさまざまな意見もあったという。

 父ノ背中は動画の作り方がうまく、ストリーミングでの発信力、SNSでの拡散力が強いプロゲーミングチームだ。それだけに“炎上”しやすいリスクがあり、社内で危惧する声もあった。しかし西田谷氏はそれは承知の上だった。

 「父ノ背中はプロゲーミングチームであり、ストリーマー集団でもある。他とは一線を画したエッジの効いたことをやっているのが魅力であり、そこはもともとベンチャー企業のアイ・オー・データ機器と共通点があるとも言える。“やんちゃ”をしてもあまりスポンサー側から口を出さないように心掛けている」(西田谷氏)

 eスポーツの世界はプレーヤーもファンも若年層が中心だ。ゲームと関係のないことであってもSNSで炎上しやすく、炎上リスクはゼロにできないと考えている。父ノ背中の場合、マネジメントを行う会社が間に入っており、そうした形も炎上リスクを考える上で重要だという。

 「父ノ背中のように頭角を現してくるプロゲーミングチームは、何を求められているか、どう振る舞うべきかを自分たちでよく考えている。ある程度大きいチームはコンプライアンスが徹底されつつあるが、それが行き過ぎるとSNSでの発言などがつまらなくなってしまうのではないか」(西田谷氏)

 ゲーマーのセンス、面白さ、拡散力といったものを損なわずにリスクを抑えるには、距離感を大切にしつつコミュニケーションを取って、スポンサーが何を大事にしているのかを伝えていくことが重要だと考えている。

 「あくまでもプレーヤーファースト。プロゲーマーの本分は競技での活躍であり、それに憧れてファンが増えていく。そしてストリーミングやSNSは彼らとファンをつなぐものだ。その活動をスポンサーのエゴで制限してはいけない。たとえ炎上があったとしても、それは彼らの責任においてのものであって、スポンサードしている企業の評判にまで影響が及ぶことは、よほどのことがない限りない。炎上を過度に気にして彼らの活動に干渉し過ぎると、つまらなくなってしまう。まだ過渡期にあるeスポーツに、他のスポーツビジネスのような考えを持ち込むのは時期尚早ではないか」(西田谷氏)

ファンミーティングでは、チームのメンバーがコーチングしてのバトル大会やクイズ大会、メンバーのサイン入りHDDが当たる抽選会などが行われた(写真提供:アイ・オー・データ機器)
ファンミーティングでは、チームのメンバーがコーチングしてのバトル大会やクイズ大会、メンバーのサイン入りHDDが当たる抽選会などが行われた(写真提供:アイ・オー・データ機器)

プレーヤーファーストと継続が大事

 GigaCrystaブランドとアイ・オー・データ機器の認知向上とともに、eスポーツイベントへの貸し出し依頼も増えてきた。19年の「いきいき茨城ゆめ国体」と「いきいき茨城ゆめ大会」の文化プログラム事業として開催される「全国都道府県対抗 eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」の予選にも、ゲーミングディスプレーを提供した。草の根の大会も含めて年間60前後のイベントに機材貸し出しを行っており、コストはかかるが認知度向上に役立っているという。

 「ディスプレーを含めてゲーミングデバイスは海外メーカーが強い。アイ・オー・データ機器はまだまだ新参者だが、イベントへの貸し出しの効果もあり、認知度はここ1~2年でものすごく上がってきた」(西田谷氏)

 プロゲーミングチームへのスポンサードやイベントへの機材提供を今後も続けていくが、それはプレーヤーファーストでゲーマーにいい環境を提供して楽しんでもらうことが前提と考えている。

 「プロゲーミングチームとファンのつながりがあり、そこに我々が入らせてもらっているのであって、それを忘れてはいけない。急速な立ち上げと成果を希望するならeスポーツの世界に入ってこない方がいい。“eスポーツ”というキーワードに安易に乗っかってはいけない」(西田谷氏)

 アイ・オー・データ機器はゲーミングデバイスとしてディスプレーのほかに、ゲーム実況などに使うビデオ・オーディオキャプチャー製品やSSD製品も発売している。国内のゲーミングデバイスメーカーとしてのブランド確立を目指し、チャレンジは続く。

(写真/平野亜矢、写真提供/アイ・オー・データ機器)