三陽商会は「三陽銀座タワー」をリニューアルし、2019年9月6日、「GINZA TIMELESS 8(ギンザ・タイムレス・エイト)」をオープン。同社は成長戦略に直営店強化を掲げており、今後の自社を象徴する旗艦店と位置付ける。3D解析を用いた初のオーダースーツブランドも開始する。
GINZA TIMELESS 8は地下1階~9階のうち8階までが売り場で、最上階にはラウンジを設置した。「100年コート」が人気のSANYOCOATや高級革製品の三陽山長、エス エッセンシャルズなど自社ブランドのほかに、海外人気の高いブルーレーベル・クレストブリッジやブラックレーベル・クレストブリッジといった全10ブランドが入る。
クラフトマンシップを体現 最新技術との融合も
新しい旗艦店のメインテーマは、「クラフトマンシップ」。アパレルメーカーとしてものづくりこそが一番の提供価値との考えだ。自社のオリジナルブランドが大半を占めるブランド構成は、「特に訴求したいクラフトマンシップを、より体現しているものを選んだ。すべてのブランドに共通するクラフトマンシップとは、1点1点に対する思いやプライドそのもの。技術部門の層が厚く、自家工場があるなどものづくりのベースがしっかりしているからこそ実現できる」と、三陽商会の岩田功社長は話す。
1階のイベントスペースでは19年9月11日まで、パタンナーなど技術開発部員が長年培った技術を体現するプロジェクト「SANYO ENJIN」が裁断やボタン付けなどを実演し、クラフトマンシップを伝えるイベント“技術者が着たいこだわりの1着”を開催する。コートやアウターを数量限定で受注販売する。
注目は6階の「STORY & THE STUDY」。同社初のパーソナルオーダースーツブランドで、職人の手仕事と先端デジタル技術を融合させて、一人ひとりの体に沿ったシルエットの美しいオリジナルスーツが作れる。
身長・体重など基本情報を入力後、フィッターが丁寧に採寸をしてからiPadで写真を撮ると、入力データと合わせてアバターが作成され、体形や癖なども解析できる。そこで提示された最適なサイズのサンプル服を着用した後、さらにフィッターが体に合わせてより美しく、しわのないよう微妙な修正をかける。最終データを福島の自家工場に直送し、最短で2週間(ウィメンズは3週間)で仕上がる。
「STORY & THE STUDYは、熟練のスタッフが手で採寸した後、3D解析で補正して体形の個人差を把握できる。クラフトマンシップというアナログの強みとデジタル技術との融合で新しい購買価値を提供できる」と、岩田社長は語る。
全フロアAIカメラで購買行動を分析
テクノロジーの導入はSTORY & THE STUDYだけではない。全フロアにAIカメラを設置し、来店客の行動を把握する。「動線を分析することで商品のそろえ方やレイアウトなどに生かせる。商品への興味なのか、場所への興味なのかを測ることができる。顔認証などを取り入れられれば購買履歴を蓄積でき、コンシェルジュ的な対応も可能。eコマースの履歴ともひも付けてシームレスな購買につなげられる」(岩田社長)。
GINZA TIMELESS 8には、「おもてなし」というテーマもある。外国人が多く集う銀座という立地を考慮し、国内客のみならず訪日客に対しても接客などで日本らしい真心を伝える。前身の三陽銀座タワーのインバウンド比率は3~4割と高い。とりわけ「ブルーレーベル・クレストブリッジ」「ブラックレーベル・クレストブリッジ」や、100年コートが人気だという。
中国人観光客向けに、来日前に実店舗の商品をアプリで閲覧予約できるサービスもスタートした。アリババグループ傘下のフリギーが提供しているプラットフォーム「フリギー購(ゴー)」を使用する。
バーバリーとのライセンスが終了した15年以来3年連続で赤字決算となった三陽商会だが、8月には渋谷に「シネマコマース」をテーマにした実店舗を(関連記事「三陽商会が『シネマコマース』で大攻勢 真の切り札はリアル店舗」)、9月13日には苦境の中、毎年黒字成長している「EPOCA」のメンズライン「エポカ ウォモ プリマ」を表参道ヒルズにオープンさせる。
実店舗強化の典型として今回オープンしたGINZA TIMELESS 8は、長年培った職人たちのクラフトマンシップこそ今後の成長の要だという決意を前面に押し出した。伝統の技と先端技術とのマッチングで三陽商会の独自色を強め、新たなスタートを切る。
(画像提供/三陽商会)