ガラケーユーザーが依然として多いシニア層は、スマホを売りたい事業者にとっては“金の卵”。ただし、この層にスマホを普及させるためには、操作方法のサポートが不可欠だ。リアルな接点を持つ小売りは、シニア向けの「スマホ教育」に新たな商機を見いだそうとしている。

MVNO(仮想移動体通信事業者)のイオンリテールが、シニア向けの料金プランの提供を始めた
MVNO(仮想移動体通信事業者)のイオンリテールが、シニア向けの料金プランの提供を始めた
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 2019年9月6日、イオンリテールが運営するMVNO(仮想移動体通信事業者)「イオンモバイル」が、「やさしいスマホサービス」の提供を始めた。60歳以上なら、10分間までの通話が無料になるオプション(月額850円・税別。以下同)に加入すると、電話や遠隔操作によるサポート(月額300円)が実質無料で付いてくるサービス。月500MBまでのデータ容量なら月額1980円でスマホが使える。サポート体制の強化で、シニア層の取り込みを狙う。

 大手通信キャリアよりも安い通信料金でシェアを拡大してきたMVNOだが、利用に当たっては、端末のSIMロック解除やSIMカードの差し替えなど、スマホに対する知識がなければ対応が難しい作業が発生する。販路の多くがインターネット経由ということもあり、ユーザー層が大きくは広がらず、最近は伸び悩みが顕著になっている。

 そんな中でイオンモバイルは、200店舗以上のイオン店内に販売カウンターを構える異色の存在。契約の9割以上が店舗で交わされているという。イオンの来店客層の中心は30~50代のファミリー層で、次いで60代以上のシニア層。イオンリテール モバイル事業部長の井関定直氏によると、19年春は、ファミリー層の子供をターゲットにした25歳以下への「3年学割キャンペーン」を実施し、想定通りのユーザーを獲得できたという。続くターゲットとして定めたのが、イオンの来店客の約3割を占めるものの、イオンモバイルの顧客には十分に取り込めていなかったシニア層だ。

 シニア層へのスマホ普及率は年々上がってはいるものの、まだ4割弱がガラケーを使っているもよう。20年3月から次世代通信サービス「5G」がスタートすると、既存の「3G」サービスは数年後に完全に停波する見込み。ガラケーは使えなくなるため、スマホへの置き換え需要は今後さらに高まると予測されている。

シニア層では依然としてガラケーを使い続けている人が少なくない
シニア層では依然としてガラケーを使い続けている人が少なくない
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 ただし、ここまでガラケーを使い続けているユーザーだけに、攻略は一筋縄ではいかない。例えばシニア層の中には、スマホに乗り換えると通信料金が上がるのでは、という漠然とした不安がある。それ以上にネックとなっているのが、スマホの使い方が分からない、誰も教えてくれないという問題だ。「MVNOの料金の安さをアピールするのはもちろんだが、それだけでは、初めてスマホを使うシニア層のユーザーの多くを取りこぼしてしまう」と井関氏は見る。

 イオンモバイルは店頭販売が中心のため、初期設定などはもともと対応できていた。電話による操作に関する相談や、遠隔操作によるサポートも有料で提供しており、60代では24.1%、70代以上では30.9%の加入率があったが、今回はあえて無料化に踏み切る。

安さだけでなく、サポート体制の充実度もアピールする
安さだけでなく、サポート体制の充実度もアピールする
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 それだけではなく、シニア向けの専用端末「AQUOS sense2 SH-M08 やさしいスマホ」も同時に発売。シャープ製の既存端末をベースにホーム画面をカスタマイズし、「サポート」ボタンをタップすると電話サポートに直通でつながるようにした。

 シニア向けスマホは、大手キャリアなどが既に発売済み。画面のタップ操作が苦手なシニアに配慮してハードキーを備えるなど工夫もあるが、「いかにもシニア向けという見た目で敬遠する人もいる」(井関氏)。イオンが用意する端末は、通常の端末がベースのため、見た目に違和感がなく、かつ価格も3万円台に抑えることができた。ちなみにワイモバイルのシニア向け端末「かんたんスマホ 705KC」はほぼ同じスペックで約6万円もする。

「やさしいスマホ」はシンプルなホーム画面と、ワンタップでサポートセンターにつながるのが特徴
「やさしいスマホ」はシンプルなホーム画面と、ワンタップでサポートセンターにつながるのが特徴
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 実はイオンリテールは自らMVNOを手掛ける一方、代理店として大手キャリアのスマホも販売している。ただし19年10月の電気通信事業法改正により、大手キャリアは端末の割引などが規制され、販売台数は落ち込むと見られる。シニア層を積極的に自社サービスに誘導することで、売り上げの落ち込みをカバーしようとしている。

販売ではなく教育ビジネスで稼ぐ

 シニア層へのサポートを無料サービス化して端末販売や通信料金収入のアップにつなげようとするイオンリテールに対して、サポートそのものを収益源にしようと戦略を練る小売りも出てきた。「カメラのキタムラ」を全国に650店舗展開するキタムラ(横浜市)だ。19年9月から有料の「スマホ個別教室」をスタートさせた。

 きっかけは、キタムラへ写真をプリントしにくるシニア層が、デジカメではなくスマホで撮った写真を持ち込むようになったこと。プリントを待つ合間に、操作で困っていることがあるといった相談をスタッフがよく受けるようになったという。

 スマホの使い方を説明する講座は、ドコモショップなどで数多く実施されており、しかも無料だ(関連記事「NTTドコモが店頭の看板から『ドコモ』の文字を消したワケ」)。ただしその多くは、スマホをまだ持っていないガラケーユーザーがターゲットで、複数人を集めて開催されている。一方、キタムラが目を付けたのは個別指導。「シニア層のスマホの使いこなしレベルはバラバラで、教えてほしいと思う操作は個々人で異なる。複数人を集めても、結局一人ひとりに対応するため、他の人は待つことになり効率が悪い」(キタムラ社長の浜田宏幸氏)。しかも、ある程度使えるようになると、個人的に撮った写真を使った操作がしたいといったニーズが増え、「他の参加者には自分の写真やデータを見られたくないという声もある」(同氏)。

 そこで、カメラできれいに撮影するコツや、クラウドへの保存方法など12コースを用意。1コース30分が基本で3000円(税別)とした。10分1000円(同)で延長も受ける。指導は店舗スタッフが行う。

 18年9月から静岡県内の10店舗でトライアルを行い、1年間で2万2376件の利用があったという。「家族に聞いても、勝手に操作して返されるだけで、きちんと教えてくれなかった」「お金を払っているので、遠慮なく何度でも聞けた」などの声を受け、全国展開に踏み切った。

スマホの使い方は個々人で異なり、個別指導のほうが効率がいいという
スマホの使い方は個々人で異なり、個別指導のほうが効率がいいという
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 実はキタムラとスマホとの間には因縁がある。2010年代前半、スマホ普及によるデジカメ販売の減少に直面した同社は、スマホの販売に注力。15年ごろには、「頭金(販売手数料)なし」「高額キャッシュバック」といった手法で、販売台数をグングン伸ばしていた。ところが16年から総務省が端末の過度な値引きに規制をかけたことで販売に急ブレーキがかかる。17年2月には100を超える店舗の閉店と、13億円の特別損失の計上を発表し、赤字に転落。Tポイントなどで関係が深かったカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の傘下に入り、スマホ販売を縮小する一方、中古カメラの買い取り販売など写真関連ビジネスに回帰して業績を回復させた。

 それだけに、今回のスマホ個別教室も「スマホを既に持っているユーザーがターゲットで、スマホ販売を強化する意図はない」と浜田氏は話す。あくまでも教育ビジネス単体で収益を上げる計画だ。

シニア層はこれからも増える「成長市場」

 ECの普及でリアル店舗には逆風が吹くが、手厚い接客やサポートは、ECにはまねのできない領域。こういったサービスを必要としているシニア層は、これからも20年以上、対象人口が増え続ける“有望市場”だ。「令和元年版高齢社会白書」(内閣府)によると、65歳以上の人口は18年現在で3558万人だが、ピークを迎える2042年には3935万人に達するという。

65歳以上の人口は、ピークとなる2042年まで増え続ける(出所/内閣府)
65歳以上の人口は、ピークとなる2042年まで増え続ける(出所/内閣府)
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リアル店舗を必要としている人の多くが高齢者になりつつある
リアル店舗を必要としている人の多くが高齢者になりつつある
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 イオンモバイルやキタムラの取り組みは、こういった市場を見込んでのものだ。特にキタムラのようにシニア向けのスマホ関連ビジネスが販売を伴わずに成り立つとすれば、幅広い業種に可能性が広がる。